トップへ

郵便局員が3万通の「郵便物」を配達せずーー日本郵便に賠償責任がないってホント?

2015年11月11日 13:21  弁護士ドットコム

弁護士ドットコム

記事画像

日本郵便四国支社は11月9日、香川県三豊市の高瀬郵便局で働く配達担当の女性社員(23)が、約2万9000通の郵便物を配達しないで隠していたことを発表した。同支社の広報担当は弁護士ドットコムニュースの取材に対して、「まだ警察に相談している段階だが、郵便法77条に違反するとして被害届を出す可能性がある」と話した。


【関連記事:もし痴漢に間違われたら「駅事務室には行くな」 弁護士が教える実践的「防御法」】



女性社員は2013年12月ころから2015年11月7日まで、担当エリアの郵便物を配達せず、自宅や通勤用の自家用車、職場のロッカーなどに隠していたという。郵便物のほとんどは企業が出すダイレクトメールで、書留などは含まれていない。郵便物に損傷はなく、開封した形跡もないそうだ。日本郵便四国支社がすべての郵便物を回収し、調査が終わりしだい、受け取り人に配達する予定だという。



女性社員は2010年に採用され、勤務歴は5年7カ月に及ぶ。同支社は、女性の勤務態度について、「特に問題はなかったと聞いている。郵便物を隠した動機は『やる気がなくなったから』ということで、仕事やプライベートでのストレスがあったようだ。調査結果を受けて、社内規定に基づいて処分する」という。



今回のように、配達が遅れたことで、郵便物を受け取る人に何らかの損害が発生した場合、日本郵便は賠償責任を負うのだろうか。濵門俊也弁護士に聞いた。



●「日本郵便に賠償の責任はない」


「郵便法では、損害賠償の対象となる郵便物の種類や範囲が細かく決められています。それによると、現金書留や簡易書留は、損害賠償の対象になります。しかし、今回のような通常の郵便物については、配達局員が隠して配達せず、何らかの損害を生じさせても、日本郵便に賠償の責任はありません」



濵門弁護士はこのように説明する。なぜ郵便物を隠しても、賠償責任がないのだろうか。



「仮に、一般企業と同じような損害賠償責任を日本郵便に負わせると、リスクに備えるため、料金を引き上げたり、配達局員がもっと慎重に配達業務をせざるを得なくなります。



郵便事業は『なるべく安い料金で、あまねく、公平に提供すること』(郵便法1条)を目的としています。もし、リスクに備えて料金を値上げしたり、配達に時間がかかるようになると、その目的を果たせなくなるおそれがあります。



そのため、民営化された現在も、郵便事業は、損害賠償を一部免責されているわけです」



●配達局員個人には請求できるのか?


では、日本郵便への損害賠償請求ができないとしても、配達局員個人に対して、賠償を請求できないのだろうか?



「この点については、民営化によって、個人を訴えることが理論的には可能となりました。



しかし、配達局員個人の賠償責任を認めると、配達局員という職業のリスクが高まって、結局は、郵便法1条の趣旨に反することになります。



配達局員個人に対し損害賠償を請求できるかどうかは、解釈が分かれるでしょう」



●配達局員の刑事責任は?


日本郵便四国支社は「まだ警察に相談している段階だが、郵便法77条に違反するとして被害届を出す可能性がある」と話している。郵便法77条とは、どのような規定なのか?



「郵便法77条は、『郵便物を開く事の罪』として、『会社の取扱中に係る郵便物を正当の事由なく開き、き損し、隠匿し、放棄し、又は受取人でない者に交付した者は、これを3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。ただし、刑法の罪に触れるときは、その行為者は、同法の罪と比較して、重きに従つて処断する』と規定しています。



今回のケースは、この規定の『隠匿し』という部分にあたると考えられます。



先に述べたように、配達局員個人の賠償責任は解釈上問題があり得ますが、刑事責任については、負う場合があります」



濵門弁護士はこのように述べていた。


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
濵門 俊也(はまかど・としや)弁護士
当職は、当たり前のことを当たり前のように処理できる基本に忠実な力、すなわち「基本力(きほんちから)」こそ、法曹に求められる最も重要な力だと考えております。依頼者の「義」にお応えします。

事務所名:東京新生法律事務所