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ゆるめるモ!の新作は異端にして剛速球ーー狂気と優しさが同居する完全自主制作盤を読み解く

2015年11月11日 07:01  リアルサウンド

リアルサウンド

ゆるめるモ!。

 ゆるめるモ!は、セカンド・フル・アルバム『YOU ARE THE WORLD』によって、プロデューサーの田家大知が理想とするゆるめるモ!の姿へとまた確実に近づいた。アイドルというプラットフォームを最大限に利用した、限りなく狂気に近い音楽的な冒険が行われ、同時に歌詞には弱者への優しさがある。狂気と優しさが同居する特異な世界が、ゆるめるモ!というグループを形成している。


 『YOU ARE THE WORLD』についての情報を見たとき、まず目を引いたのは新曲の作家陣だ。シングル『Hamidasumo!』も手掛けたPOLYSICSのハヤシヒロユキに加えて、新たに中村弘二、後藤まりこが参加している。全員ソニーに所属したことがある、あるいは所属しているアーティストだ。いわゆるロキノン層へのアプローチを強めるのだろうか……とも軽く懸念した。なぜなら、「自殺するぐらいなら逃げてもいい」というメッセージを掲げた「逃げろ!!」を代表曲とするゆるめるモ!のような「ゆるい」グループと、ロキノン層はどのぐらい親和性があるのだろうかと考えたからだ。しかし、実際に『YOU ARE THE WORLD』を聴いてみると、そこにあるのは安易な「激しさ」とはまた異なるものだった。外部の作家の起用がアルバムの統一感を損なう事例も多いが、『YOU ARE THE WORLD』では音楽的な幅とゆるめるモ!的な世界観が同時に拡張されている。


 冒頭の「モモモモモモ!世世世世世世!」はアブストラクト・テクノのようなイントロから始まり、和風のメロディーが歌われだすという、曲名通りに奇天烈な楽曲だ。しかし、楽曲の情報量が異常に多いものの、サビはキャッチーで、これはゆるめるモ!の楽曲の多くに共通する特徴である。


 イントロがいきなりヴァン・ヘイレンの「ジャンプ」へのオマージュであるのが2曲目の「転がれ!!」。「逃げろ!!」や「生きろ!!」に続く命令形シリーズの曲名だが、まったく押しつけがましくないのは、“ほぼ専属作詞家”である小林愛が描くのが心の弱さとそれゆえの葛藤であるからだ。


 3曲目の「Hamidasumo!」と6曲目の「不意打て!!」は、POLYSICSのハヤシヒロユキが作詞作曲編曲した楽曲。2015年3月にシングルでリリースされた「Hamidasumo!」は、オリコンデイリーシングルランキングで13位を獲得した。「不意打て!!」はこのアルバムへの新曲。この2曲に共通しているのは、MIXもケチャもできない楽曲構成で、アイドル楽曲の定型的なフォーマットから完全に外れている点だ。「Hamidasumo!」をシングルにして勝負に出たのは大胆だったし、「不意打て!!」ではリズムの軽さに意表を突かれた。“ニュー・ウェーブ・アイドル”を標榜するゆるめるモ!の面目約如である。


 4曲目の「1!2!かんふー!」と5曲目の「難」はともに「Hamidasumo!」のカップリング曲。「1!2!かんふー!」は、田家大知と松坂康司というゆるめるモ!の中核チームが作曲した、中華テイストの楽曲。「難」は、<受難UP TO 楽しい兆しだ>という小林愛ならではの言語感覚によるパンチラインが何度聴いても強烈だ。


 2014年の大晦日にリリースされた『SUImin CIty Destroyer』からは、「眠たいCITY vs 読書日記」「波がない日」「NNN」の3曲が収録されている。『SUImin CIty Destroyer』は、リリース当時に私が田家大知に「さすがにやりすぎでは」と言ってしまった問題作である。特に7曲目に置かれた「眠たいCITY vs 読書日記」は、ライブで何度聴いても「変な曲だなぁ」と感じてしまう怪曲だ。バクパイプのような音色で始まるこの楽曲は、Aメロ、Bメロ、サビといった一般的なJ-POPの構成ではなく複雑だ。同じく『SUImin CIty Destroyer』収録曲だった8曲目の「波がない日」は、ダブステップも仕込まれたエレクトロ・ナンバー。


 2015年8月にリリースされた『文学と破壊EP』からは、「Refresh Your Jewellery Box」「夢なんて」「Only You」の3曲を収録している。9曲目の「Refresh Your Jewellery Box」は、YUKIのシングル「好きってなんだろう…涙」も手掛けたHALIFANIE(張替智広+小貫早智子)が作曲した、バンド演奏も心地良いポップ・チューンだ。


 突然の2分間ハードコアである10曲目「KAWAIIハードコア銀河」から、『YOU ARE THE WORLD』は後半戦へと流れ込んでいく。より緩急の激しさが増し、それは最後の「Only You」まで続いていく。11曲目の「よいよい」ではカウベルが躁状態のように鳴り狂う。


 12曲目の「id アイドル」は、後藤まりこが作詞作曲。ゆるめるモ!のバンド編成時のバンマスである、「箱庭の室内楽」のハシダカズマが後藤まりことともに編曲している。<何者にもなれなかった / id id 私はアイドル>とアイデンティティを歌う残酷な歌詞と、AメロからBメロにかけての美しくも儚いメロディー。理想と現実の間でもがく少女の姿を描いたこの楽曲は、同時にとても甘美でもある。


 『文学と破壊EP』収録曲であった13曲目「夢なんて」は、ミドリカワ書房の緑川伸一が作詞作曲。若い世代の倦怠感を描いてる楽曲だ。特に<ヘットヘトよ なんて世界だろ / ヘットへトよ 今を乗り切るので精一杯だ>と歌う部分は、緑川伸一ならではのケレン味が効いている。この楽曲の発売当時、ゆるめるモ!のボイトレの成果も実感した。2014年のファースト・フル・アルバム『Unforgettable Final Odyssey』と聴き比べてみれば、その成長は明らかだ。その成長によって、緑川伸一が楽曲に込めた機微を歌いあげているのが「夢なんて」である。


 14曲目の「私へ」は、『YOU ARE THE WORLD』における最重要曲のひとつだ。「私へ」と題されているが、この歌詞は小林愛からメンバーへの言葉に感じられて仕方がない。小林愛がメンバーと近づきすぎないようにしていることは、ゆるめるモ!の公式サイトに掲載されているインタビューでも語られていた。そのぶん、その立場から書かれた<今日 伝えたいよ昔の私へ 病める時健やかなる時 / 私で いることを辞めないでくれて ありがとう>という歌詞をメンバーが歌うことは、狂おしいほどの感動をもたらす。ここまで優しさに満ちた楽曲は、これまでのゆるめるモ!にはなかった。『YOU ARE THE WORLD』において生み出された新たな名曲だ。


 その「私へ」の熱を一転して冷ますかのように、15曲目の「もっとも美しいもの」は鳴りはじめる。中村弘二の作編曲によるこの楽曲は、後期SUPERCARを髣髴とさせるサウンドだ。そして、クールなトラックのなかで、彼の作家性とゆるめるモ!というグループの個性が意外なほど共鳴している。


 『SUImin CIty Destroyer』の収録曲であった16曲目「NNN」は、「もっとも美しいもの」から続くにふさわしい静謐さとともに幕を開ける。そこから徐々に昂揚していき、またもとの静謐さへと回帰する展開が美しい。


 『YOU ARE THE WORLD』の最後を締めくくる17曲目は、『文学と破壊EP』収録曲であった「Only You」。『YOU ARE THE WORLD』が行き着いた果ては、ボアダムスへのオマージュだ。極北である。


 『Unforgettable Final Odyssey』がリリースされてからの1年数ヶ月の間には、メンバーの脱退もあれば、休養・活動休止もあり、ゆるめるモ!の活動が順風満帆だったとは言い難い。実際、現在の6人体制に戻ったのは2015年8月28日のことだ(参考:ゆるめるモ!にもっと批評の言葉を――もね&ちーぼう復活ライブを考察 http://realsound.jp/2015/09/post-4472.html)。つまり、まだ3カ月にも満たない。


 「Only You」は、もね、ちーぼうが不在で、けちょん、しふぉん、ようなぴ、あのの4人編成のときに披露されはじめた。2015年8月23日の『BELLRING少女ハート月イチ定期主催「第四回・消エル赤血球」』において、赤坂BLITZの広大なステージで、振り付けもなく4人だけで歌い、叫び、ダイヴする光景は壮絶だった。6人編成に戻った後も、2015年10月3日に新木場 1stRINGで開催された『ギュウ農フェス Vol.7~アイドル大戦争/プライド・オブ・ピンチケ(P.O.P)』のリング上で、やはり振り付けもなく8分近くも歌われる光景には圧倒された。 「Only You」は、ゆるめるモ!の凶暴にしてカルト的な側面を剥き出しにした楽曲だ。その「Only You」によって『YOU ARE THE WORLD』は幕を閉じる。そう、「Only You」が帰結なのだ。


 サウンド的には、タカハシヒロユキによるジャケットほどサイケデリックな要素はない。ただ、アートワークは『YOU ARE THE WORLD』というアルバムの狂い具合を見事に表現している。


 そして、『YOU ARE THE WORLD』が完全自主制作による作品であることの意味は重い。インディーズだから世に送り出せた突出した作品ではあるが、ならばメジャーの意味とは何なのかとも考え込んでしまう。『YOU ARE THE WORLD』はそれほど異端にして剛速球なのである。


 『YOU ARE THE WORLD』の完成をもって、2015年12月20日のZepp DiverCityでのワンマンライブの準備は整ったと言ってもいいだろう。この日は他にも重要なライブが重なっている。しかし『YOU ARE THE WORLD』を聴いた後となっては、熱い喉が水を欲するかのように、ゆるめるモ!による生での再現を無性に見たい。Zepp DiverCityでのワンマンライブを成功させるアイドルも、失敗させるアイドルも見てきた。ゆるめるモ!は、はたしてシーンからどう評価されるのだろうか? それをこの目で見届けて体感したい。ゆるめるモ!のひとつの到達点が『YOU ARE THE WORLD』なのだから。(宗像明将)