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TOKIOはなぜ広い世代から支持される? 『ザ!鉄腕!DASH!!』における“タレント力”から検証

2015年11月11日 07:01  リアルサウンド

リアルサウンド

(C)タナカケンイチ

 いまやジャニーズは、歌番組やドラマだけでなく、テレビのなかの実にさまざまなジャンルに活躍の場を広げている。そんな状況にはすっかり慣れているつもりでいたのだが、さすがに先日「ジャニーズJr.から気象予報士誕生」のニュースを聞いた時には私も驚いた。阿部亮平(Snow Man)と岸本慎太郎が超難関とされる気象予報士試験に合格、二人は10月28日、国分太一がMCを務める『白熱ライブ ビビット』(TBS系)に早速出演して予報士デビューとなった。


 その国分太一がメンバーでもあるTOKIOの『ザ!鉄腕!DASH!!』(日本テレビ系・以下、『DASH!!』)が1995年11月の放送開始から今月で無事20周年を迎えた。それを記念して、11月8日の放送では、番組初期の人気企画だった電車との「リレー対決」が復活、大きな話題になった。今回対戦したのは、17年前にかつて二度対決し1勝1敗とまだ決着がついていない阪神電車のジェットカー。今年で平均年齢が41歳になるTOKIOだが、当日の放送では一回目の対決では敗れたものの、二回目の対決では鮮やかにリベンジを果たした。特に一回目敗れた後の二回目のレース前、5人全員の表情が明らかにぐっと引き締まったものに変化したのが印象的であった。


 冒頭にふれた気象予報士の話もそうだが、ジャニーズが本業の歌やダンス以外の分野に進出するとき、そこにはしばしば「ジャニーズなのに」という但し書きがつく。「ジャニーズなのに」バラエティ、「ジャニーズなのに」ニュースキャスターなどなど。それに対する評価は人それぞれだ。そこに新鮮な魅力や意外な実力を感じる人もいれば、やはり本業の人の方がと思う人もいるだろう。いずれにしても、「ジャニーズなのに」というフレーズはそこに付いてくる。


 TOKIOには、「ジャニーズなのに」という但し書きはもはや不要である。「DASH村」であれ「DASH島」であれ、私たちは、彼らが「ジャニーズなのに」農作業やDIYに励んでいるとは思わず、その熱心な仕事ぶりや見事なチームワークに素直に感心し見入っているのではなかろうか。


 そんな『DASH!!』を見ていると、ふと往年の人気番組『びっくり日本新記録』(読売テレビ)を思い出すことがある。1970年代から80年代にかけて、やはり日本テレビ系列で日曜夜19時から放送されていた30分番組である。氷上で頭からスライディングして滑った距離を競う、プールの上に渡された細い板の上を自転車で渡ってタイムを競うなど毎回ユニークな競技に一般視聴者が参加して記録を争った。知らない世代の人には、「鳥人間コンテスト」の企画が最初に生まれた番組だと言えば、イメージがつかみやすいかもしれない。


 実はこの番組には、一般視聴者に混ざって轟二郎という当時人気のコメディアンが「チャレンジボーイ」と称して毎回参加していた。ウケ狙いとかはいっさいなく、優勝目指して全力で競技に挑む姿が評判を呼んだ。今で言えば、『世界の果てまでイッテQ!』(日本テレビ系)で世界各地の祭りや大会に地元の人たちとともに参加する宮川大輔のような役回りである。


 常識的には馬鹿馬鹿しく思えなくもない競技に真剣に挑む楽しさ。電車とのリレー対決に挑むTOKIOの姿は、そんなテレビバラエティの良き伝統を彷彿とさせる。そこにはアイドルか芸人かといった区別はない。だから当然そこに「ジャニーズなのに」というフレーズが浮かぶ余地もない。


 実際、メンバーたちも皆、テレビでなければ体験できないような遊びの機会を心の底から楽しんでいるように見える。リレー対決に限らず、『DASH!!』スペシャル版での巨大鬼ごっこ「TOKIO VS 100人の刑事」や城下町での「水鉄砲合戦」など、街中で一般の人々とともに遊びに興じる姿がこれほど似合うジャニーズもいないだろう。いっさい無理している感じを抱かせることなく一般の人々の住むフィールドにすんなりと入っていけるところ、そこにTOKIOの持つ他のジャニーズグループにはない独特の空気感がある。


 ではTOKIOは、ジャニーズらしくない異端の存在なのだろうか? 


 確かに現在唯一バンドを基本形態にしたグループであることからも、そう思わせてしまう部分はある。ジャニーズは踊るものだという先入観が何となく私たちのなかにはあるからだろう。


 とは言え、ジャニーズの歴史にはバンドの系譜も存在する。1980年代には、たのきんトリオのひとりである野村義男のThe Good-Bye、そして岡本健一らがメンバーだった男闘呼組がいた。ちなみに男闘呼組は、1988年のデビュー以前にバンド名を「東京」と名乗っていた時期もある。さらにさかのぼると、1960年代前半、ジャニーズ事務所の元祖グループであるジャニーズと同時期にジャニーズ・ジュニアというバンドも存在した。現在のJr.と直接関係はないようだが、このことを見ても、「歌って踊る」だけでなく「歌って演奏する」スタイルがジャニーズの歴史のなかにしっかり刻み込まれているのがわかる。TOKIOは、その立派な継承者なのだ。


 そしてそのTOKIOの歌と演奏からは、彼らが今と昔を橋渡ししてくれる存在であることが強く感じられる。彼らのヒット曲には、歌謡曲やニューミュージックのテイストがある。なかにし礼作詞・筒美京平作曲による『AMBITIOUS JAPAN!』や中島みゆきの詞と曲による『宙船』などはまさにその好例だ。そうかと言って、ただ昔懐かしいというわけではなく、TOKIOの歌と演奏がきっちり今の歌として成立させている。アップデートされた「昭和」感といったところだろうか。


 それは、メンバー個々の活動にも当てはまる。長瀬智也は1978年生まれの最年少メンバーだが、俳優としての彼は『タイガー&ドラゴン』(TBS系)や『泣くな、はらちゃん』(日本テレビ系)など、ノスタルジックな題材や風景のドラマがとても良く似合う。その意味では、彼もまた今と昔を橋渡ししてくれる存在だ。もちろん、他のメンバーについても同様だ。城島茂の『はぐれ刑事純情派』(テレビ朝日系)、国分太一の主演映画『しゃべれども しゃべれども』、松岡昌宏の大河ドラマや必殺シリーズなどについても同じことが言えるだろう。


 さらに長瀬智也以外の四人が、現在個人で情報番組やバラエティのMCを務めていることも特筆される。なかでも山口達也に至っては、『Rの法則』(NHK Eテレ)、『ZIP!』(日本テレビ系)、『幸せ!ボンビーガール』(日本テレビ系)と、視聴者層や放送時間帯の異なる三つの番組のMCやパーソナリティを務めている。過去山口と城島がそれぞれ「24時間テレビ」のマラソンランナーに選ばれたことも含めて、TOKIOが幅広い世代から支持されていることがわかろうというものだ。


 ジャニー喜多川は、ジャニーズ事務所に所属するアイドルたちをしばしば「タレント」と呼ぶ。それにならうなら、TOKIOは広い世代に訴えるテレビというメディアにふさわしいタレント集団であり、ジャニーズ流エンターテインメントのひとつの理想のよき体現者であるに違いない。(太田省一)