ピレリは2016年F1へ供給するタイヤについて、ふたつの画期的な計画を明らかにした。ひとつは、スーパーソフトより軟らかい「ウルトラソフト(US)」を追加して全5種類にすること。もうひとつは、グランプリ週末に使用できるスペック数を現在の2種類から3種類に増やし、チームが選択できるようにするというものだ。
ウルトラソフトは、以前からチーム側が要求していた。ピレリのコンパウンドが2013年にバーストが多発してから硬めに設定され、今季から全スペックのコンストラクション(構造)を変更。スーパーソフトはデグラデーションが低くなるようにコンパウンドが変わっている。これでピレリタイヤは硬めのポジションに移行し、デグラデーションの問題は改善された。
しかし、ハードはどのサーキットでも硬すぎ、スーパーソフトはモナコでもレース距離の半分を走れるようになり、チームにとっては使いづらいタイヤとなってしまった。そのためチーム側は、コンパウンドをひとつずつ軟らかくするよう求めていたが、ピレリとしては安全面を考えて現在のラインアップを残しつつ、新たにウルトラソフトを加えるという決断を下した。
ふたつめは、これまで採用されていなかった新しいアイデアだ。一部のチームはピレリの用意するラインアップが硬すぎること、グランプリごとに指定される2スペックの選択が保守的であることに不満を募らせていた。フォース・インディアを筆頭に「チームがタイヤを自由に選択できるよう、レギュレーションを変更してほしい」(ボブ・ファーンリー/フォース・インディア副代表)とピレリとFIAに対して要求を出していた。
ピレリは高いグリップ力を求めて、安全性が損なわれることを懸念していた。そこで安全性を保ちつつ、チーム側の戦略の自由度を広げ、よりレースをエキサイティングなものにするため、グランプリ週末に使用できるスペック数を現在の2種類から3種類にするという変更案を提示した。
ピレリ・レーシングマネージャーのマリオ・イゾラによる、新方式の骨子は以下のとおりである。
1:グランプリごとに選別される3種類のスペックは、ピレリが決定する。
2:チームは、その中から自由にスペックを使用できる。
3:グランプリ週末に供給されるタイヤのセット数とタイミングは現在と同じ、ドライタイヤ13セット。
4:返却されるタイヤのセット数とタイミングは現在と同じ。
5:レースでは必ず2種類以上のスペックを使用する。
たとえば、あるグランプリに向けてピレリがウルトラソフト、スーパーソフト、ミディアムを投入すると事前に発表する。チームは3種類から13セット内で自由にスペックごとのセット数を決めることができる。さらに週末どのように使用するかも自由だが、そのうち1セットはフリー走行1回目の最初の30分間のみ使用可能で、その後に返却。フリー走行1回目終了後に、もう1セットを返却。フリー走行2回目終了後に2セット、フリー走行3回目終了後に1セットが返却され、予選とレースに向けて8セットが残る。さらに予選でQ3に進出したドライバーのみ、Q3専用の1セットを返却。彼らは現在同様、決勝スタート時にはQ2でベストタイムを記録したタイヤを装着する。
つまり、Q2をスーパーソフトで走ってQ3進出を決め、Q3ではポールポジションを狙ってウルトラソフトでアタックすることも可能。Q2でウルトラソフトを投入してQ3へ進み、決勝はウルトラソフトでスタートしてソフトとミディアムにつなぐ……という1レースで3スペックを使用する戦略も可能だ。
ただし、イゾラは「提案はあくまで提案であって今後チームやFIAとともに詳細を煮つめていく」という。
タイヤ自由選択案の詳細が決定するのは、もう少し先になりそうだが、戦略の幅が広がり、多彩な戦いにつながることを期待したい。
(尾張正博)