人間、何事も頑張りすぎるとろくなことにならないようだ。そう強く思えた番組を、最近観た。
10月26日放送の「プロフェッショナル 仕事の流儀」(NHK総合)は、「10周年SP」と題して、ナインティナイン岡村隆史がこれまで出演してきた数々のプロフェッショナルと対談するという企画だった。
この番組、率直に言えばもうネタ切れ感がある。この間も「え? そんな人を取り上げるの? 何処にでもいそうだけど」みたいな放送回があり、正直あんまり観るつもりはなかった。
今回も、なぜ岡村が登場して対談するのか、という必然性がよく理解できなかった。ただ、番組の趣旨とは違う形で、興味深い話を聞くことができた。(文:松本ミゾレ)
「脚本を一人で直しているうちに気づいたら2日経ってた」
岡村隆史という人気芸人が、一時病気のために休養していた時期があることを、覚えている方もいるだろう。2010年7月に突然休養に入り、復帰まで約5か月かかった。病名は公表されていないものの、暗黙の了解でメンタル系の病だと思われている。
今回の番組で岡村が語った異変についての記憶は、思わず息を呑むほど空恐ろしいものだった。
当時岡村は、仕事については何をするにも一人で全部やらなければならないと思っていた。自分がやったことのない分野、芝居についても自分は「もっとできるはずやのに……」と、苦悩する日々を送っていたと語る。
「そんで脚本とかをわ~っと一人で直しているうちに、気がついたら2日経ってたんですよ」
ノイズキャンセリングヘッドホンを着けたまま、脚本の手直しに没頭するあまり2日間も集中して寝ていなかったと語る岡村。もうこのレベルになるとすさまじい集中力を褒めるよりも、まず精神の異常を心配してしまう。しかもこの間、手元にある角砂糖しか口に入れず、一度も立つことがなかったそうだ。
そしていざ作業を中断してみると、今度は自分が眠れなくなっていることに気がついたと、こういうわけである。なんとも恐ろしい体験だ。
「俺だけの番組じゃない、みんなの番組」で楽になった
人間、一旦心のスイッチのオンオフが利かなくなると、日常生活すらまともに送ることができなくなる。岡村の場合、スイッチが入ったままになったことで、眠ることを忘れてしまった。
休養中の彼には、これまでの自分のことを反芻する時間がたっぷり残されていた。恐らく長い間これまでのこと、そしてこれからのことについて考えていたことだろう。その結果、ある結論を見出している。
「休んでいる間に、俺一人のせいじゃないかも、失敗したこともみんなのせいにしてやろうと思った」
それまでは、仕事で失敗するたびに自分を責め、何かにつけて自己批判をする癖があった。しかし休養して以降はこの考えを改め、「俺だけのせいじゃないよ、連帯責任だもん。俺だけの番組じゃない、みんなの番組だからみんなの責任」と思うようにした。
過度に反省することも止め、「(失敗しても)終わったことやから次に進もう、と思ったらフッと楽になったんですよ」と語る。
一人だけでできる仕事には限界がある
岡村は元々かなり責任感の強い人物のようだけど、やはり一人きりで頑張っていても、一人分以上の力は発揮できない。
それを岡村は自分の身で知ることになった。「みんなのせいにしてやろう」というと聞こえが悪いけど、それは多分彼なりの言い回しなんじゃないかな。自分一人だけでは限界があり、周囲の仲間と一緒でなければできない仕事があることを悟った、ということなんだと思う。
翻って僕たちの社会って、一人で何もかも抱え込もうとする人が、結構多いような気がする。他人に依存することを嫌って、本当なら数人でやった方が効率的な仕事を、自分だけでやっちゃう人って、割とそこら中にいるような……。
そういう無理が祟れば、心身にどんな影響を及ぼすか分からない。仕事に責任を持つ心意気も大事だけど、それ以上に責任を取らない勇気も、もう少し大事にした方がいいように思える。僕たちは仕事をするために生きてるわけじゃないんだから。
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