トップへ

サンドクロックが語る、理想のポップスとは「自分と他者の100点が一致すること」

2015年11月06日 17:11  リアルサウンド

リアルサウンド

サンドクロック

 2015年6月にミニアルバム『EPOCH』でメジャーデビューを果たしたサンドクロックが、2枚目となるミニアルバム『LIFE IS FANTASY』を11月4日にリリースした。
 メンバーの滝田周、永田佳之は元々、それぞれがシンガーソングライターとして活動しており、ルーツとなる音楽や音楽観も異なる。そんなふたりがメジャーデビューし、また様々なイベント、フェスを経験して「イヤーキャッチのあるものを作ろう」というテーマで制作された作品が『LIFE IS FANTASY』だ。リアルサウンド初のインタビューとなる今回は、ふたりの音楽観から作品に込めた思い、目指すべきポップスについて音楽ライターの柴那典氏が訊いた。(編集部)


・「僕らはJ-POPの分野のど真ん中にいる」(永田佳之)


ーー今回のミニアルバムは、どういうところから制作がスタートしたんでしょうか。


滝田周(以下、滝田):これのひとつ前の作品が今年6月に出たミニアルバム『EPOCH』で、そのリリース前の5月から曲作りは始まっていましたね。


ーーメジャーデビューの直前から曲作りに入ったんですね。


滝田:そうですね。僕らは2人共それぞれで曲を作るんです。なので各々で制作に入った感じです。


ーーテーマやコンセプトのようなものはありましたか。


永田佳之(以下、永田):「イヤーキャッチのあるものを作ろう」というのはありました。その他は自由にやってましたね。


ーーということは、まず人の耳をひくような曲を作ろう、と。なぜそういう考えが生まれたんでしょう。


永田:僕らはJ-POPの分野のど真ん中にいると思うんです。何かに特化したような方向性じゃなくて。ここからサンドクロックを知ってもらうという段階で、おとなしく綺麗に佇んでいるような曲ではなくて、サウンドにしても言葉にしても「え? なに?」ってなるようなものにしようということですね。まずは取っ掛かりのあるものを作ろうぜ、という。


滝田:メジャーデビューしたことで、ラジオで曲をかけてもらったり、フェスに出演したり、そういう機会も増えた。そこで知らない人をいかにして掴んでいくかという課題も生まれた。そこで今回はフックのある曲に挑戦してみようと思ったんです。


ーーメジャーデビュー前はフックのある曲を作ろうということはそんなに意識していなかった?


永田:意識してました(笑)。でもより強くなったかな。


滝田:僕はあんまり意識してなかったんです。だから今回はそこに向き合っていこう、という。


ーーサンドクロックは日本語のポップスとして、いい曲をいい声で歌っているグループだと思うんですね。そのことで評価も受けている。でも、サンドクロックという名前を覚えてもらうにあたっては、0.5秒で人の興味を引きつけることが必要だった。


滝田:そうですね。「君はファンタジー」というリード曲のアレンジもそれを意識しました。曲が流れた瞬間に「おや?」と思う感じが、僕ら自身にもあって。


ーーイントロの「ジャジャジャ!」っていうフレーズですね。スタイル・カウンシルみたいな。


滝田:そうそう。


永田:とにかく「無視されない」というのがテーマだったんで、全体的にそういう仕上がりになったと思います。


ーーお二人は全然違うルーツがあるんですよね。


永田・滝田:そうですね。


ーーその上で「イヤーキャッチ」というものを踏まえて、自分の好きだった音楽の「思わず耳が引かれてしまう部分」というのはどういうところにありました?


滝田:僕はずっとJ-POPをリスナーとして聴いてきて。スピッツから、ゆず、コブクロ、秦基博とかスキマスイッチとかが好きだったんですね。音楽を始めてから、ベン・フォールズ・ファイブとかダニエル・パウターを聴くようになった。そもそも、あんまり音楽を聴くときに「イヤーキャッチ」というのものを意識しないんです。平坦な曲、物静かな曲も好きなんです。何度も聴いているうちによさがわかっていくような曲というか。


ーーどちらかというと染みてくるような曲?


滝田:そうですね。味わい深い曲のほうが好きなのかもしれない。「この歌詞ってどういう意味なんだろう」って考えたりするのも好きなんで。


ーー永田さんはどうですか?


永田:僕のルーツとしては、ジェイソン・ムラーズとかラウル・ミドンのような、ソウル・ミュージックをアコギでやるような音楽をすごく聴いていましたね。ちょうどギターを弾き始めた頃だったんで、カバーもやりました。「ステイト・オブ・マインド」とか、ライブ映像を見て「すげえ!」と思ってすぐに真似したり(笑)。最近はエド・シーランが好きで。あと、日本語の言葉というところで言えば、最近のJ-POPよりも、さだまさしさんとか松任谷由実さんとか中島みゆきさんとか、フォークに近い言葉選びのほうが影響を受けたかもしれない。ああいう人たちって、距離感の近い言葉を選ぶんですよね。


ーー距離感の近い言葉というと?


永田:例えば数百人の前でスーツを着て言う言葉じゃなくて、たとえば嫁さんに語りかけるときに選ぶような言葉というか。そういうタッチの言葉が好きなんです。今回の2曲目「あの娘は今日もホントB型」は、ジェイソン・ムラーズとかジャック・ジョンソンみたいなサウンドにそういう日本語をぶつけるような感覚で作りましたね。


・「一人のシンガーソングライターが二人いるという感覚」(永田佳之)


ーー最初はそれぞれがソロのシンガーソングライターとして活動していたんですよね。お二人がお互いを認め合ったポイントって、どういうところにあったんでしょう?


滝田:永田は昔から「イヤーキャッチ」というところには飛び抜けてるところがありましたね。最初に見た時から突っ走っていた。やっていた曲も、ライブが終わっても全部覚えていた。そういうところは自分にはないなと思いました。


永田:僕は、バランス感覚がいいなって思ったんですよね。佇まいというか。声もそうだし、メロディーもそうだし、ライブハウスでの振る舞いもそうだし、いろんなところでバランス感覚がいいなって。


ーーお二人はお互いにないものを補いあっているような感じ?


永田:僕はバランスを壊したいタイプの人間なんで、相方としてはいいと思います。


滝田:そうですね。僕は壊れているものを並べたいほうなんで(笑)。


ーー二人で活動するようになって表現はどう変わりましたか。


永田:結成のとき、単に「二人組をやろう」というのではなく、それぞれのやりたいこととか、音楽性とか、そこから透けてくる人間性みたいなものを、がっつり残しながら二人でやりたいって言ったんです。だから曲も、それぞれが作詞と作曲を完全に作ってきて、そこにコーラスとアレンジを入れるという作り方になっているので。基本は一人のシンガーソングライターが二人いるという感覚です。


滝田:ただ、選択肢としてもう一つの声を選べるというのは大きいですね。歌詞の内容として僕が歌うより永田が歌ったほうが説得力があるようなフレーズもある。その曲にとっての、いい選択ができると思います。


ーーそれぞれの声はどんな風に評価していますか? まずは永田さんから滝田さん。


永田:ベースを作ってくれるような感じかな。ローからミッドにかけての声の響きは「完璧や」と思った。


ーー滝田さんから永田さんは?


滝田:距離感が近いと思いますね。攻撃力が高いというか。


ーー歌詞についてはどうでしょうか。今回の『LIFE IS FANTASY』の収録曲では、どんな発想から言葉を書いていったんでしょう? まずは「君はファンタジー」から。


滝田:「君はファンタジー」では、ファンタジーというキーワードが先にあったんですね。曲も先にできていた。僕の場合は曲と歌詞が連動して形になることが多いんですけれど、もともとアレンジで世界観が構築されているところに歌詞を書くというのは初めてで。そこは苦労しました。


ーーこれは別の案もあった?


滝田:ありましたね。それに、もともとは「イヤーキャッチのある曲」というのを作るというのは得意じゃなかったので。もともと得意にしていたのは、わかる人がわかればいいというもの。そこから「こういう言葉だったら情景が浮かびやすいんじゃないか、感情移入しやすいんじゃないか」というステップを踏んで書いた感じです。


ーーラブソングにしたのは?


滝田:普通のラブソングじゃおもしろくないと思って。上手くいってるのかいってないのか、微妙な距離感というか。片思いに振り回されているダサい男の歌かもしれない。ちょっと歌謡曲的な要素も感じられるような、クールで格好つけてるアレンジだと思ってるんですね。そこから、主人公はちょっと情けないタイプなのかもなって思って膨らませていきました。


・「最後まで諦めずに曲を作るということが大事」(滝田周)


ーー「ドラセナ -Dying and rising」はどうでしょうか。


滝田:これは曲のテーマとしては、僕の中で「死と再生」というものがありますね。相反するものから命を表現したかったという。もともと「ドラセナ」というタイトルがついていたわけじゃなくて、でも、何か植物の名前にしたかった。そこから検索で「ドラセナ」というものを見つけて。どこにでもあるような観葉植物なんですよね。生命力がすごく強くて、幸福の木だと言われている。それでピッタリだと思いました。


ーー永田さんの歌詞の書き方は滝田さんとは違うタイプ?


永田:全然違いますね。


ーー「あの娘は今日もホントB型」についてはどうでしょう?


永田:これは2年前くらいに書いた曲で。単純にB型の子に片思いしてたので書いただけです(笑)。あと、その時に流行ってたんですよ。『B型の取扱説明書』とかがベストセラーになっていた。それを見て「あ、いいな」って思って取り入れた感じです。最初はただ単にB型をディスってる曲だったんですけれど、歌詞を書き直したんですよね。最初は一つ一つの言葉に思い入れがあったけど、言葉遊びが増えましたね。


ーー「ウサギもカメも」については?


永田:「ウサギとカメ」の童話から始まってますね。みんな劣等感とかカメの気持ちを感じることは多いと思うんですよ。ただ、あれってよくよく考えたら、そもそもカメにとってはウサギがゴールしたかもしれないと思っても走り続けていたわけで。一方で、ウサギの虚無感みたいなものを感じる瞬間もあるんですよね。「勝ったけど嬉しくない」とか「持ってるけど嬉しくない」という。たとえば『ソーシャルネットワーク』という映画がありますよね。そこでマーク・ザッカーバーグが持ってる虚無感というか。そこで「ウサギもカメも走る意味ないやん」って思って。そこから、走ることのそもそもの目的意識みたいなことを考えて作っていきました。


ーーわかりました。最後にもうひとつ。サンドクロックはポップスを作っているわけですよね。お二人にとっては「自分の理想のポップス像」はどういうものだと思いますか?


永田:自分の100点と、そのへんを歩いている人の100点が一致することですね。たくさんの人にとっても「100点」になる。逆に、僕にとっての60点がみんなの100点になっても、それは理想じゃない。


滝田:一緒ですね。大衆に媚びてしまったとしたら、100点はとれないと思うんですよね。かと言って自分の100点を目指していても、そこには届かない。そのちょうど真ん中のところにあるのが理想ですね。


ーーそうなるマジックが生まれる瞬間がある。


永田:でも、間をとりにいったらとれないんですよ。熱いものとクールなものの中間を狙いにいっても、それはただ単にヌルいものになるだけで。ポップとマニアックの間をとりにいくんじゃなくて、自分が「こんな音楽をしたい」というものとみんなが「これを求めてる」というのを喧嘩しながら成立させる。それが僕の思うポップスの正解ですね。真ん中を狙わないんだけど、結果として真ん中になっているものが作りたい。


滝田:葛藤は生まれると思うんですけれど、甘えないというか、楽をしないようにはしていますね。そうしたらいい曲が生まれる。最後まで諦めずに曲を作るということが大事だと思います。(取材・文=柴 那典)