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新相棒・冠城亘(反町隆史)を迎えた『相棒 14』、その成功の鍵はどこにあるか?

2015年11月06日 16:41  リアルサウンド

リアルサウンド

『相棒14』公式サイト

 自分が『相棒』のスタジオ撮影やロケ撮影の現場に入って取材をするようになったのは、season7最終話に初登場した後、及川光博が正式に二代目相棒を襲名したseason 8の撮影が始まった頃だから、もう7年以上前になる。その後、2本の劇場版と1本のスピンオフでは劇場版パンフレットやチラシなどでオフィシャル・ライターも務めさせていただいた。ご存知のように現在放送中の『相棒』はseason 14だから、気がつけばその歴史の半分を「時々インサイダー」として過ごしてきたことになる。


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 「時々インサイダー」の立場からいつも思うのは、女性週刊誌やネットのゴシップ・メディアを中心に流布されている「『相棒』の噂」の99%が根も葉もない嘘やでっち上げだということ。そういう記事によく出てくる「関係者」に対しては、「お前、誰だよ」と毎回失笑を覚えずにはいられない(あ、だからといって自分のところには取材に来ないでくださいね。何も喋りませんよ)。


 そして、そんな「『相棒』の噂」が一番盛り上がるのは、これまで寺脇康文→及川光博→成宮寛貴→反町隆史と変遷してきた「相棒交代」のタイミングだ。「土曜ワイド劇場」時代から数えると15年以上にも及ぶ長寿番組となった『相棒』。制作側としても、シリーズ全体のマンネリ化を避けるために絶対不可欠なカンフル剤として、そして巷で話題になることによるプロモーション効果も見据えて、これまで「相棒交代」を最大限に利用してきた。


 四代目相棒(作中ではまだ「相棒」という言葉は否定されていて、「同居人」と呼ばれている)に冠城亘=反町隆史を迎えて、現時点で4話目までの放送を終えたseason 14。個々のエピソードによって作品や物語の出来にバラつきはあるものの(それはいつものことだ)、新相棒・反町隆史は想像以上に『相棒』ワールドにハマっていると言っていいだろう。相棒のキャステイングに関しては、役柄のキャラクターだとか、役者としての演技力だとかよりも、この「『相棒』ワールド」にハマっているかどうかというのが何よりも重要なのだ。それは杉下右京(水谷豊)と並んで立った時のビジュアルのハマり具合であり、レギュラー・キャストたちとのカラみっぷりであり、『相棒』の作品世界への愛着と理解度を意味する。


 これまで何度も撮影現場を見てきた、そして多くのスタッフに取材をしてきた実感から言わせてもらうなら、『相棒』における役のキャラクター設定というのは、プロデューサーや脚本家や演出家が作るものというよりも、エピソードを重ねるごとに役者自身が共演者との関係の中で作っていくものだ。毎年、第1話、正月スペシャル、最終話といった2時間(以上)の特別編を含めて20本近い作品が作られる(それに映画が加わる年もある)以上、仕方がないことだが、実際に現場に入ってみると「え? 本当に大丈夫なんですか?」というパツパツの脚本や撮影のスケジュールが組まれている『相棒』。つまり、脚本家が脚本を書く際に、演出家が演出の構想を練る際に、最も参考にするのは今まさに放送されている回の『相棒』だったりするのだ。役者たちはテレビの画面を通して脚本家や演出家にメッセージを送り、脚本家や演出家は次の自分の当番回にそのメッセージを投げ返す。そうやって、あの『相棒』でしかありえないグルーヴ感は形作られてきた。だから、急に早口になったり下手な英語で喋ったりという挙動不審さを見せる冠城亘(反町隆史)も、今のところは大目に見ておいていい。いつか、彼の様々な奇行を誰かが上手く回収してくれるはずだから(そうであってくれ)。


 そんな突貫工事的な制作スケジュールが『相棒』ワールドのグルーヴを生んできたのは確かなのだが、それが裏目に出てしまったのがあの悪名高いseason 13最終話「ダークナイト」だった。3シーズンにわたって活躍してきた相棒が実は……というのは、15年以上続いているシリーズの上では「あってもいい」ドンデン返しのパターンだったとは思うが、あの作品が多くの『相棒』ファンの拒絶反応を生んでしまったのは、そこに至るまでの伏線がほとんど、というかまったく描かれていなかったからだ。「ダークナイト」の脚本を手がけた輿水康弘は「土曜ワイド劇場」時代から『相棒』を書いてきた「『相棒』の生みの親」の一人であり、自分も「『相棒』でなにをやっても許される」唯一の脚本家として別格視している存在だが、あの作品を世に送り出すには、1本の作品としての完成度は別として、脚本家→プロデューサー→別の脚本家のリレーションが致命的に欠けていたと言わざるを得なかった。


 『相棒』ワールドには横軸と縦軸の物語がある。横軸とは、個々のエピソードで描かれる事件のこと。縦軸とは、警察の上層部との関係、その裏にある組織的な陰謀、過去の事件の登場人物、各キャラクターの過去にまつわる物語のこと。『相棒』においてその縦軸の物語が最もスリリングに機能していたのは、劇場版Ⅱで退場してしまった警察庁長官官房室長・小野田公顕(岸部一徳)がいた時期で、その代わりになり得る存在が久々に現れたことで期待された警察庁次長(season 14からは警察庁長官官房付)・甲斐峯秋(石坂浩二)は、登場から4シーズン目に入った今なお「宝の持ち腐れ」といった印象が強い。絶対におもしろいカードになるはずなのに、脚本家が横軸の物語にばかり気を取られて、縦軸の物語でうまく利用しきれていないのだ。ところが、season 14に入って、冠城亘の上司である法務事務次官・日下部彌彦(榎木孝明)が登場したことで、その縦軸の物語に大きな変化の兆しが見られる。これは期待せずにはいられない。


 『相棒』は売れっ子脚本家の「虎の穴」的な作品でもあったが、実は前シーズンから櫻井武晴、戸田山雅司、古沢良太といったこれまでの『相棒』において要所要所で重要な役割を果たしてきた有名脚本家がゴソっと抜けてしまった(復帰する可能性はあるかもしれないが)。つまり、前回のseason 13は、輿水康弘以外、比較的浅いキャリアの脚本家が中心となった初めてのシーズンだった。そう考えると、『相棒』という大舞台でなんとか爪痕を残そうとする新参の脚本家が、目の前の物語(横軸の物語)ばかりに注力してしまったのも無理はなかったのかもしれない。


 season 14で成功の鍵を握るのは、反町隆史がどのように『相棒』ワールドに新たな刺激をもたらすかではなく(これまでの4話を見て、それについては信頼していいと思った)、脚本家たちがいかに縦軸の物語に挑むことができるかだと思う。そして、そこで重要になってくるのは、個々の脚本家とプロデューサーの密なリレーションだろう。「ダークナイト」の失敗を繰り返さないために。(宇野維正)