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「完璧な嫁」の崩壊ーー義母へのプレゼントにつけられた「980円」の値札

2015年11月06日 06:51  弁護士ドットコム

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(この質問は、「Yomiuri Online」の人気企画「発言小町」に寄せられた投稿をもとに、大手小町編集部が再構成したものです)


【関連記事:カキフライを食べて入院、店に損害賠償請求できる?】


Q. プレゼントに値札がついたまま・・・店の対応に問題はない?


敬老の日、義実家にわざわざ出向いて義母に渡したプレゼント。嫁としての務めを完璧に果たしたはずだったのに、まさかの値札の登場ですべてが崩壊ーー。それもそのはず、「980円の値札」がついていたからです。


感謝されるはずが、一転、立場が悪くなってしまった嫁(トピ主)が「なんらかの誠意ある謝罪が欲しいと思うのは間違っているのでしょうか?」と発言小町に投稿しました。


義母に送るブラウスをお店で購入した際、店員にはプレゼント用のラッピングを頼んだといいます。ところが、プレゼントを嬉しそうにあけた義母は、たちまち険しい顔になり、「いかにも嫌味な感じで『わざわざ高い物をありがとう。』」と言ったそうです。


レスには、お店の過失を指摘する一方で、「980円」を問題視する投稿も相次ぎました。「義母が気の毒」、「次回は値段を見られてもよいくらいのプレゼントをあげましょう」。


これにはトピ主も「贈り物は値段じゃなくて心です」、「私にとって980円は大金です。私のパートの時給よりずっと高いのですから」と弁明し、「お店側のミスでこれまで表面上は、そこそこうまくいっていた関係も一気に悪化した」と被害を強調していました。


980円の値札のせいで、義母との関係が悪化してしまったというトピ主。はたして、店側にどんな請求ができるのでしょうか? 金銭は無理でも「誠意ある謝罪」を求めることは問題ないのでしょうか? 尾崎博彦弁護士に聞きました。


(トピ「お店に謝罪してもらうことはできますか?」はこちら http://komachi.yomiuri.co.jp/t/2015/0921/731354.htm)


A. 「法律で謝罪を強制することはできない」


そもそも設問の本質は「相談者の気持ちの持って行きよう」であって、法律で解決すべき問題なのかと突っ込みたい気はします。


それはさておき、「店に謝罪をさせることを法律で強制できるか」という主旨の質問であれば、答えは「出来ない」と言うほかありません。


そもそも、お店の側で販売の際に値札を取らなければならない義務はありません。プレゼントの場合でも同様です。プレゼントだと伝えた以上、値札を取るのは当然だとの主張のようですが、店側の配慮として望めたのだとしても、法律上これを義務づける根拠はありません。


また、相談者は何らかの権利や法律上の利益を侵害されたわけではありません。


何かがきっかけで他人の感情を害し人間関係が悪化することはあります。今回は、渡したプレゼントがきっかけだったわけで、いわば「感情」を法的に保護すべきかどうかとの論に帰着するでしょう。しかし、ある他人の行動で「感情」を害するかどうかは人それぞれであり、法律上独自に保護されるべき利益と考えるにはあいまいすぎます。


本件ではお義母さんが感情を害されたのは、「980円の値札が付いていた」からではなく、「980円のプレゼントをした」ことが原因ともいえます。


仮に店のミスがあったとしても、相談者が法的に保護されるべき利益を侵害されたと評価することはおよそ出来はしません。


さらに、損害という観点からしても「単なる謝罪を求める」ことも出来ません。


日本の法律は個人間のトラブルについては「損害の回復」を目的とするものであって、それ以外の行動を強制することを予定していないからです(名誉毀損の場合に謝罪広告が認められるのは、それによって名誉の回復が図られると考えるからです)。


今回のケースで、店が相談者に謝罪しても、何ら「損害の回復」などありません。


以上からすれば、本件に関しては、いずれの見地からも、法的には相談者が店に謝罪を求めることはできません。慰謝料の請求はもちろん、たとえ「単なる謝罪を求める」ものであっても、法的には認められないとの結論に至ります。


なお、謝罪を求めて店側にクレームを入れるというのであれば、逆に「悪質なクレーマー」のレッテルを貼られかねません。そのような行動は厳に慎まれるべきです。


むしろ、本件ではご相談者は「高価でないものを高価に見せかけてプレゼントした」ことを反省するべきでしょう。お義母さんに謝罪するか、「充分に高価なものをプレゼントした」と考えているのであれば、その考えを誠意を尽くして説明する必要があります。


法的にではなく、お義母さんとの関係修復に尽力される方がよろしいかと存じます。




【取材協力弁護士】
尾崎 博彦(おざき・ひろひこ)弁護士
大阪弁護士会消費者保護委員会 委員、同高齢者・障害者総合支援センター運営委員会 委員
事務所名:尾崎法律事務所
事務所URL:http://ozaki-lawoffice.jp/