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「4カ月連続勤務や自腹購入は確認できず」 飲食店「温野菜」本部が調査結果を公表

2015年11月05日 20:21  弁護士ドットコム

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飲食チェーン「しゃぶしゃぶ温野菜」のフランチャイズ店舗でアルバイトとして働いていた大学生が、「1日12時間4カ月間休みなし」の勤務や、食材の「自腹購入」を強いられたなどと主張している問題で、フランチャイズ本部の「レインズインターナショナル」(横浜市)は11月4日、外部の弁護士でつくる「第三者機関」がまとめた調査結果を公表した。


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大学生が加盟する労働組合「ブラックバイトユニオン」は、首都圏にある「しゃぶしゃぶ温野菜」のフランチャイズ店舗で働いていたアルバイト学生が、1日12時間という長時間労働で4カ月間休みなく働かされたうえ、約20万円にものぼる食材の「自腹購入」を強要されていたと主張している。



一方、レインズ社のホームページに掲載された第三者機関の報告書の概要は、「1日12時間4カ月間休みなし」「食材を自腹で購入させられた」などいった大学生側の主張について、「事実として確認できていない」と結論づけている。



●「大学生からミスした際に商品の買い取りの申し出があった」


調査結果によると、大学生が主張する「連続長時間勤務」については、(1)大学生から「勤務シフト外の出勤」を希望する申し出があり、店長が応じていた(2)店長が帰宅を指示しても、大学生は店にとどまって締めの作業や、賄いを食べるなどしていた――といった点が確認されたという。



また、「自腹購入」については、(3)大学生からミスした際に「商品買い取り」の申し出があった(4)店長は申し出を断ったが、代わりに大学生が選択した商品代金の前払いを受け、引き換えにレシートを発行し、後日このレシートを提示すれば同じ商品の提供を受けられるようにする対応を数回にわたり行った(5)実際に大学生がこのレシートを使用して商品の提供を受けていた――といった点が確認されたとしている。



ただ、大学生側が8月中旬、店長から「家に行くからな。殺してやる」という電話を受けたと主張している点については、(6)店長は当時、大学生のミスの頻発に加え、8月に入ってから勤務態度に著しい悪化が認められるなどして、非常に思い悩んでいた(7)当日、大学生の態度を見て極度の興奮状態に至り、厳しい口調で注意叱責する中で脅迫的言動に及んだとして、大学生側の主張をおおむね認めている。



具体的な発言内容については、店長が以前に大学生との間に行ったやり取りが影響していた可能性があるという。「同じことを繰り返さないよう注意指導するためには電話でなく顔を合わせて話をしたいとの思いが強調されたものであり、発言内容は真意によるものではなく、大学生に対する害意はなかったこと」が確認されたとしている。



●大学生本人への「ヒアリング調査」がされなかった理由とは?


なお、第三者機関は、大学生本人へのヒアリング調査を断念したという。その理由として、ブラックバイトユニオンが「第三者調査機関が調査を行うことについて、第三者調査機関からの説明や当社による書面での説明では足りず、同内容の説明を当社がユニオンの面前で行わない限り調査に協力できない」と主張したという点をあげている。



一方、ユニオンは、第三者機関の調査に協力しなかったことについて、「調査の主体・内容・方法・時期などについて、何ら説明がなされないままに開始された」「利害関係者であるレインズ社側に依頼された機関の調査が中立公平性を担保できるのか疑問だ」と説明している。



レインズ社が公表した、第三者機関の「調査報告書」に関するリリース全文は以下のとおり。



●第三者調査機関からの報告につきまして


平成27年11月4日


株式会社レインズインターナショナル



先日、ご報告申し上げた労働組合「ブラックバイトユニオン」(以下「ユニオン」といいます)より、当社及び当社のフランチャイズ加盟企業である DWE JAPAN 株式会社(以下「DJ 社」といいます)に対して団体交渉の申し入れがなされた件の現状につきまして、下記のとおりご報告申し上げます。





■はじめに



当社は、ユニオンの組合員である DJ 社のアルバイト従業員(以下「当該アルバイト従業員」といいます)とは雇用関係がないため、団体交渉に応じるべき法的義務がなく、団体交渉を通じて解決を図れる立場にもないことから、当該アルバイト従業員の雇用主である DJ 社に対して適時適正に対応し解決を図るよう要請し、現在同社において団体交渉を実施している状況です。



かかる状況において、当社は、フランチャイズ本部の立場から、DJ 社に対して適正な措置を検討・実施し、チェーン全体としてより安心して働ける環境づくりを進めていくため、まずは本件に関する客観的事実関係を調査する必要があると判断し、当社及び本件関係者と利害関係がなく中立公正な立場から調査を実施することができる第三者機関として、阿部・井窪・片山法律事務所の弁護士により構成された調査チーム(以下「第三者調査機関」といいます)に対し、事実関係の調査を依頼し、本日、第三者調査機関より調査報告書を受領いたしました。



なお、調査期間中、DJ 社とユニオンとの間で解決に向けて団体交渉が開始・継続されていた状況等を勘案し、調査段階における当社からの経過報告等の情報発信は控えさせていただいておりました。



■報告内容について



第三者調査機関による報告内容の概要は(1)から(5)のとおりです。



なお、第三者調査機関は、当該アルバイト従業員へのヒアリングを実施するために、ユニオンに対して数回におよぶ要請を行いましたが、ユニオンとしては、第三者調査機関が調査を行うことについて、第三者調査機関からの説明や当社による書面での説明では足りず、同内容の説明を当社がユニオンの面前で行わない限り調査に協力できないとのことであったため、当該アルバイト従業員へのヒアリングを断念し調査を終了しております。そのため、第三者調査機関による調査報告の内容は、当該アルバイト従業員以外の関係者の供述、客観的資料や他のアルバイト従業員など多くの供述者の供述の趣旨が合致するところをもとにして、供述態度や供述内容の具体性、自然さ、一貫性などを勘案しつつ構成されたものとなっております。



(1)多額の損害賠償請求・懲戒解雇について



店長は、当該アルバイト従業員を含むアルバイト従業員に衛生管理指導を行った際に、食中毒等の被害でお店が潰れてしまうと何千万円の損害となることを説明していたことが関係者の供述により確認されたが、当該アルバイト従業員に対して数千万円の損害賠償を請求した事実は確認できていない。



また、当該アルバイト従業員は、外部業者による衛生検査において手から基準値を超える黄色ブドウ球菌が検出されるなど衛生状態に問題があったこと、店長より当該アルバイト従業員に就業規則を示した上で、衛生面での改善がなされず事故が起きればアルバイトでも懲戒解雇になる場合があると説明していたことが客観的資料及び関係者供述により確認されたが、当該アルバイト従業員に対して懲戒解雇や損害賠償を盾に退職の申入れを拒んだ事実は確認できていない。



(2)自腹購入について



店長は、ミスをお金で解決するのは改善を促すことにはならないとの方針を当該アルバイト従業員を含むアルバイト従業員に周知していたこと、当該方針にもかかわらず、当該アルバイト従業員よりミスした際に給料天引きや商品の買い取りの申し出があったこと、店長は当初この申し出を断っていたが当該アルバイト従業員より再三の申し出を受け、代わりに、当該アルバイト従業員が選択した商品代金の前払いを受け、引き換えにレシートを発行し、後日当該アルバイト従業員がこのレシートを提示すれば同じ商品の提供を受けられるようにする対応を数回にわたり行ったこと、実際に当該アルバイト従業員がこのレシートを使用して商品の提供を受けたことが関係者供述により確認されたが、当該アルバイト従業員に対し自腹購入を強制した事実は確認できていない。



なお、ユニオンが示しているレシートが上記対応の際に発行されたものであるか、また、当該アルバイト従業員の手元に商品の提供をまだ受けていないレシートがいくつ残っているかは確認できていない。



(3)連続長時間勤務について



店長は、当該アルバイト従業員を含むアルバイト従業員の勤務シフトについて各自の希望が反映されるよう作成していたが、当該アルバイト従業員から、自らのミスを取り戻したい等の理由により、勤務シフト外であるにもかかわらず翌日の出勤を希望する旨の申し出が繰り返しなされたため、その意思を尊重しこれに応じたこと、このような状況が常態化しつつあったため、出勤を認めていない勤務シフト外の日や勤務予定時間外に当該アルバイト従業員が在店していたときに店長より帰宅を指示したが、当該アルバイト従業員は店にとどまり締め作業に参加し賄いを食す等して帰宅したことが客観的資料及び関係者供述により確認されたが、当該アルバイト従業員が4ヶ月連続勤務を強いられ1日12時間働いていた事実は確認できていない。



他方、他のアルバイト従業員について、連続長時間勤務のシフトが組まれていたこと、連続長時間勤務を指示されていたこと、当該アルバイト従業員のように任意に出勤していたことのいずれの実態もなかったことが確認されている。また、出退勤記録は、店のパソコンにアルバイト従業員が自ら記録することとされていたが、当該アルバイト従業員は、店長からの指導にも拘わらずこれをほぼ行っていなかったこと、そのようなときは通常店長が当該アルバイト従業員に都度勤務時間等を確認しその同意を得て記録していたこと、その記録に従って計算された給与が支払われていたことが客観的資料と関係者供述により確認された。



(4)脅迫的言動について



店長は、当該アルバイト従業員による日々のミスの頻発に加え、8月に入ってから当該アルバイト従業員の勤務態度に著しい悪化が認められ、その勤務態度について他のアルバイト従業員から相談などを受けるなどしていたために非常に思い悩んでいたところ、当日に当該アルバイト従業員が他のアルバイト従業員に対してとった態度を見て極度の興奮状態に至り、厳しい口調で注意叱責する中で、脅迫的言動に及んだことが関係者供述により確認された。



なお、当該言動における具体的な発言内容については、店長が以前当該アルバイト従業員との間に行ったやり取りが影響していた可能性があり、また、店長として同じことを繰り返さないよう注意指導するためには電話でなく顔を合わせて話をしたいとの思いが強調されたものであり、発言内容は真意によるものではなく、当該アルバイト従業員に対する害意はなかったことが関係者供述により確認された。



(5)健康被害と大学生活への影響について



店長は、以前、他のアルバイト従業員の保護者からアルバイトにより成績が落ちたとの苦情を受けたこともあり、アルバイト従業員の学業を優先する方針に基づき学校の授業や試験の日程に配慮した勤務シフトを組んでいたこと、当該アルバイト従業員を含む個々のアルバイト従業員に対して、折々に、「学校に行っているか」、「試験はどうだったか」などと問いかけていたこと、これに対して当該アルバイト従業員からは、「行っています」、「今起きました」、「(テストの結果は)まあまあです」との回答を受けていたことが客観的資料と関係者供述により確認されたが、当該アルバイト従業員が勤務を原因として、大学に通えなくなり今年度の前期の全ての授業の単位を落としたこと、心身の健康を害し、医師により「うつ状態」、「不安障害」と診断された事実は確認できていない。



■今後について



上記報告のとおり、当該アルバイト従業員からの出勤希望の申し出を明確に断れずシフト外の出勤が行われたこと、感情的になり脅迫と受け取られる言動に及んでしまったことは、DJ 社及び店長において労働関係法令の十分な理解が不足し、適切な労務管理のために必要な規範意識や対応手法等の確立が十分でなかったことが一因であると考えております。



法令を遵守して雇用する個々の従業員に教育・指導を行うことは、加盟企業の責任の下で適切に実施すべきものですが、加盟企業において適切な労務管理に必要な体制を十分に構築できていない場合もあり得ることから、当社はフランチャイズ本部として、従業員の皆様がより安心して働ける環境づくりに一層取り組んでいく必要性を切に感じており、9 月 16 日付で表明いたしました下記の取り組みのうち、パートナーホットライン、加盟企業からの相談窓口は既に稼働を開始し、一部研修も開始しておりますが、今後もこれらを推し進めることにより環境を整えてまいります。



(1)全国の店舗の従業員、アルバイトからの相談窓口(「パートナーホットライン」)


の開設


(2)スーパーバイザーによるコンプライアンス支援強化


(3)加盟企業オーナーへの研修強化


(4)各店店長への研修強化


(5)上記を補完するための e ラーニングシステムの導入


(6)加盟企業からの相談窓口の設置



最後に、当該アルバイト従業員と DJ 社との間の問題解決について、当社は DJ 社に対し、店長の上記言動による当該アルバイト従業員の精神的苦痛を慰藉するなど誠実に対応すること、未精算レシートや勤怠記録漏れなど団体交渉の過程において明確に確認されたものは速やかに支払うなど適切に対応することを要請するとともに、その他の事実関係や評価が明らかにならない事象については、適切かつ早期に解決を図る観点から、場合により労働委員会や裁判所などの中立公正な第三者機関を通じての解決も視野に入れながら、適時適正な対応により解決を図るよう引き続き要請してまいります。



以上


(弁護士ドットコムニュース)