メキシコGPではスタート直後の接触からリズムが乱れ、最後はリタイアで終えることになってしまったセバスチャン・ベッテル。自ら「最悪の仕事だ」と評した週末を、チームとの無線交信から振り返る。
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「右リヤがパンクしたかもしれない、チェックしてくれ。ダニエル(リカルド)に当てられてパンクしている」
メキシコの1コーナーは、ポールポジションから1km近い距離がある。そのためレース前からスタート直後のアクシデントを懸念する声が上がっていた。この距離はロシアGPの舞台ソチよりわずかに短いとはいえ、ここは気圧が低いため全サーキットで最も高い速度で1コーナーへアプローチすることになる。
全車スムーズに通過したかに見えたが、ターン4を過ぎたあたりからセバスチャン・ベッテルの右リヤタイヤの空気が急激に抜けていくのが見えた。
「僕のリヤタイヤに彼のフロントウイングがタッチしたんだ。抜くチャンスなんかなかったのに!」
インにいたリカルドは「セブが十分なスペースを残してくれなかった」と訴え、すぐにスチュワードが両者処分なしの裁定を下したことからもわかるようにレーシングアクシデントであると言わざるをえない。
「最初は、ものすごく頭に来ていたんだ、パンクしてレースを失ってしまったからね。でも、あとになって映像を見てみるとスタート直後にリスクを冒すべきではなかったと思う。僕はダニエルが、あそこに入ってくると思っていなくてスペースは十分じゃなかった。本当に最後の瞬間に彼の姿が見えて、僕はスペースを空けようとしたけど、もう遅すぎたんだ」
ともあれベッテルはピットインを強いられ、最後尾に落ちてしまった。
「前のクルマとは、どのくらい離れている?」
マノーのウィル・スティーブンスまで25秒、トップからは50秒も遅れてしまった。予選ではポールポジションと0.37秒差で3番グリッドを獲得したベッテルはレースペースに自信を持っていた。予選でこの僅差なら、決勝ではさらにメルセデス勢に迫ることができたはずだった
。
「やれるだけのことはやったよ。リスクを背負って走ったけど、成功しなかった。少し滑ってしまった。でもクルマは良かったよ。やれるだけのことは、やりきった」
「OK、明日はマキシマムアタックだ」
予選後そう語り合ったベッテルとレースエンジニアのリカルド・アダミの間には決勝に向けて期するところがあった。それだけに、スタート直後に勝負権を失ったことに対する落胆と怒りは大きかった。
それがベッテルの走りを乱し、珍しくオーバードライブをしでかしてしまった。17周目、ターン7の入口でリヤが流れてスピンオフ。
「スピンした」
「クルマはOK?」
「フラットスポットを作ってしまったと思う。少なくとも1周走って様子を見てみるよ」
フラットスポットはひどく、35周目には2回目のピットインを余儀なくされた。ピットアウトしたベッテルはロズベルグの後方で周回遅れとなり、後ろには2位ルイス・ハミルトンがいたため、マーシャルにブルーフラッグを振られてしまった。
「僕のほうが彼よりも速いんだ!」
「すぐ行かせてくれ。そうでないとペナルティを科せられる」
「僕が彼に対してギャップを広げていっているのに」
「レースディレクターからの指示だ」
「OK、わかったよ」
これで気落ちしたのか、焦りが増したのか、ベッテルは52周目に二度目のミスを犯した。
「クラッシュした。またターン7だ。あ~、ごめん!」
謝るベッテルにアダミは「問題ないよ」と声を掛けたが、ベッテルは決して納得していなかった。
「問題だよ、今日は最悪な仕事しかできなかった」
バリアに突き刺さったベッテルは、自分のミスを悔いた。
「クルマが壊れたわけじゃない、僕のミスだよ。レースでは2回もスピンしてしまったし、最後はクラッシュを避けられなかった。それまでと同じスピードで、あのコーナーに入っていったのに突然コントロールを失ってしまった。きっと僕が少し攻めすぎたんだろう。もちろん1周目のパンクで、ほぼレースを失ったようなものだったけどクルマは基本的に良かったしペースは良いはずだった。僕が周回遅れにされるとき、メルセデスはプッシュしているように見えたし、それでも僕は同じくらいのペースで走ることができたからね。今日は良いレースができるはずだったんだ……」
「僕の方が速いんだ!」──40周目に周回遅れにされるとき見せたベッテルの意地が、この日のレースにかけていた思いの強さと悔しさを物語っていた。
(米家峰起)