今宮純氏が独自の視点でドライバーを採点。F1第17戦メキシコGPの週末を通して、20人のドライバーから「ベスト・イレブン」を選出。レース結果だけにとらわれず、3日間コース上のプレーを重視して採点する。(最高点は星5つ☆☆☆☆☆)
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☆ フェルナンド・アロンソ
スペイン語圏の中米大国メキシコで走らないわけにはいかない。チャンピオンの意地というより努めと感じ、ふたりのチャンピオン経験者とともに後方18番手グリッドについたのだが──。1周もできないパワーユニット「危険だから、もう……」とは言葉を失う。“GP2エンジン”の比でない惨憺たるありさま、ひたすら耐える彼の精神力に、せめてもの☆ひとつを。
☆ ジェンソン・バトン
前代未聞の70グリッド降格ペナルティ、これを「戦略的な」判断とチームは言う。痛々しい71周レース、時速45kmも違えばミラーを注視していないとストレートでも危ない。それでもセクター3ベストタイムは7位(!)。MP4-30シャシーの単体性能を正当評価しよう。
☆ ロマン・グロージャン
初コースなのにFP1は見ているだけ、FP2はギヤボックス・トラブルで26周ストップ、なんとかFP3で24周。予選までに合計50周のみ。チームメイトは75周を走り込んだ。それでも予選12位、決勝10位と先着、エースらしい仕事を最後まで続行する。ロータス(ルノー)でのラストランへ、あと2戦。
☆☆ ダニエル・リカルド
豪速ウイリアムズのフェリペ・マッサを51周目、ストレートエンドでとらえて1コーナーのインから抜いてみせた。最終コーナー加速が抜群、レッドブルのスリップストリーム効果を活かし、深いブレーキングでとどめを。サイド・バイ・サイドが少ない展開で特に光った。
☆☆ マックス・フェルスタッペン
コーナーを多少はみ出ても誰も走ったことのないコースで、いきなりFP1最速。新鋭の攻めぬく才能を見た。コーナー進入から脱出まで目に見えて高い速度をキープ、すばやくベストラインをつかめるからできる。長い直線を別にすればメキシコの新レイアウトは「カートコース的」。セクター3でマシンを振り回すリズムが際立った。
☆☆☆ ダニール・クビアト
リカルドとの詳細なセッティングの違いはわからないが、FP1から初コースに対して自信を持って挑む姿勢が見てとれた。予選での最高速は15番目の347.2km/h、最速マッサは364.3km/h。レッドブルの空力効率が発揮され、ふたりは1000分の1秒差で4番手と5番手グリッドにつけ、ウイリアムズ勢を抑えた。58周目、バルテリ・ボッタスにかわされたのは終盤に路面温度が57度から46度に急低下、履いたソフトタイヤがマッチしなかったから。高地メキシコの空に雲が広がると一気に路面が冷えるのは、23年前も同じだった。
☆☆☆ ルイス・ハミルトン
チャンピオンはむやみに攻めるのではなく、やや間隔を取ったままプレッシャーをかける戦法でいた。滑りやすい路面には、ベッテルもハマったように落とし穴がいくつもある。1週間前アメリカGPの出来事がよぎったのかもしれない。59周目にスパートをかけるとロズベルグが7コーナーで、続いて自分も12コーナーでライン・ミス、それからは自重したチャンピオンだった。
☆☆☆ ニコ・ヒュルケンベルグ
プロレスが盛んなメキシコ、フォース・インディアのふたりは「タッグチーム」を組み、初日ロングランに徹した。役割分担作業を着実に進め、母国スーパースターをアシスト。後半7戦5回リタイアを挽回して今季5度目のダブル入賞を果たした。
☆☆☆☆ バルテリ・ボッタス
やられたらやり返す、それだけのこと。4~5コーナーは低速エリアで大事故になるリスクは少ない。レーシングアクシデントと判断した審査委員会、今回ドライバー出身者はマーク・ブランデルで、どちらかというと彼は厳しくジャッジしない。ロシアで失った3位を、メキシコで得たボッタス。表彰台では、あまりソンブレロ帽がお気に召さなかったようだ。
☆☆☆☆ ニコ・ロズベルグ
ポールポジション+優勝+最速ラップ、初めてF1ハットトリックを決めた。二度あることは、三度めはなし。しっかり1コーナーまでインサイドラインを守り、ハミルトンを抑えた。初コースでのセッティングを考え抜き、終始カーバランスをまとめていったのが勝因。変化するコンディションと路面状態の3日間、彼の長所である「頭脳派」らしさが目立った。
☆☆☆☆☆ セルジオ・ペレス
熱しやすく冷めにくいメキシカンが金曜から合計33万人以上も、かつての鈴鹿みたいな盛況だった。上空からの映像でもおわかりのようにサーキットは公園内にあり、昔からスポーツ施設がいくつもあったところ。モナコやカナダとは違い、日本にあてはめると大都市のドーム球場みたいな立地だ。それだけモータースポーツは一般市民にも近い存在で、リカルドとペドロのロドリゲス兄弟(兄弟はスペイン語でエルマノス)が1960年代にF1人気を高めた。兄弟ともに志なかばで事故死、メキシコGPは紆余曲折の末ようやく23年ぶり復活にこぎつけた。国歌合唱のとき、ペレスが右手を胸に大きな声で歌う姿は国を代表するアスリートらしく、立派な態度に映った。重圧を弾き飛ばすように感じられたからだ。49周目の見せ場、満員のスタジアムエリアでフェルスタッペンをパス。53周スティント、220km以上を走破したミディアムタイヤで8位を守り抜いたドライビングは8位以上の価値。初めてファイブスターを捧げたい。