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バイオレンスに徹したEXILE『HiGH&LOW』 ドラマ要素を切り詰めて獲得したものは?

2015年11月04日 10:51  リアルサウンド

リアルサウンド

『HiGH&LOW』

 『HiGH&LOW』は、EXILEのリーダーとしてEXILE TRIBEを束ねるLDHの代表取締役社長のHIROが総合プロデュースを務めるビッグプロジェクト。EXILE TRIBEをはじめ、窪田正孝、小泉今日子、ゴールデンボンバーといった豪華キャストが出演し、様々なメディアコンテンツで物語が展開されることが話題となっている。


参考:松坂桃李、ブレイクの理由は“正統派ヒーロー感” 『サイレーン』に見る俳優としての強み


 来年7月には映画公開が決まっており、Huluでの特別版ドラマの配信、別冊少年チャンピオン&ヤングチャンピオンでの漫画連載、Instaguramでの写真の公開、そして劇中でかかっている音楽をまとめたオリジナルアルバムの発表と、イベントが目白押し。もちろんEXILE率いるLDHならではのライブツアーを予定している。


 その中心に置かれているのが現在、日本テレビ系で放送中の深夜ドラマだ。


 舞台は、かつて「ムゲン」というギャングチームと、「雨宮兄弟」という二人組のギャングが戦いを繰り広げていた、とある区域。ある事件をきっかけに突如「ムゲン」が解散し、「雨宮兄弟」も姿を消した。その後、「山王連合会」「White Rascals」「鬼邪高校」「RUDE BOYS」「達磨一家」という5つのチームがしのぎを削るようになった。


 テレビドラマでは、おそらくクライマックスとなるであろう激しいギャングチーム同士の抗争が第一話で描かれており、そこから時間をさかのぼり、抗争のきっかけとなった鬼邪高校のチハル(佐藤大樹・EXILE)と山王連合会のヤマト(鈴木伸之・劇団EXILE)の出会いが二話では描かれている。


 今後は各ギャング同士の激しい抗争が描かれることとなるのだろうが、この時点で何を置いても印象に残るのは、そのアクションシーンだ。


 EXILEのPV『EXILE PRIDE~こんな世界を愛するため~』等の作品でMTV Video Music Awards Japan2014を受賞している映像ディレクター・久保茂昭が監督を務めているためか、どこを切ってもEXILE印といった感じのカッコいい映像で、特に不良が集団で殴りあっている場面などの、モブシーンの出来がすばらしい。


 なんというか深夜ドラマとは思えなくくらい映像がゴージャスなのだ。


 もちろん『クローズZERO』や『TOKYO TRIBE』等の映画からの影響は強くうかがえ、物語自体はヤンキーモノの変種でしかない。しかし、彩度を落とした暗めの映像で見せるPV的でありながら、暴力の香りがうかがえるアクション映像には、今までのEXILEドラマとは違う気迫のようなものを感じられる。


 おそらく、ヤンキーモノ自体がかつてのヤクザ映画のような役割をはたしているのだろう。ナレーションと状況説明をあっさり済ませるとすぐに見せ場である抗争場面に画面をつないでいく極端な物語構成は深作欣二監督の映画『仁義なき戦い』シリーズを思わせる。


 見ていて面白いのは、こちらが考えているテレビドラマらしさをどんどんと覆してくれるところだ。普通、物語というものは一人の主人公がいて、その人を中心に展開していくのだが、2話まで見ても正直、誰が物語の中心なのかが、よくわからない。あえて言うならば山王連合会のコブラ(岩田剛典・EXILE/三代目J Soul Brothers)とヤマトなのだろうが、窪田正孝や林遣都といった主演級の俳優がライバルチームのボスとして登場することから考えて、全員を均等に描くのかもしれない。おそらく各キャラクターに物語があるという作りなのだろう。


 様々なジャンルを横断するメディアミックス的な作りや複数のキャラクターを並列的に描く展開は、漫画やアニメではかなり定番化しているが、EXILEというグループでそれを展開するというのが本作の面白いところだろう。今までにも漫画とアニメで展開した『エグザムライ』のような作品があったことから、HIROの中には、EXILEのメンバーのことを、漫画やアニメのキャラクターグッズのように売り出したいという狙いは当初からあったのかもしれない。


 今までのEXILEドラマに不満だったのは、彼らの武器であるダンスで鍛えた身体能力の高さを生かし切れていなかったからだ。それはつまりエロスとバイオレンスが足りなかった、ということだ。EXILEの俳優は、外見的にはアウトローの危険な匂いを漂わせながらも、演じる物語は、よくある人情ドラマばかりだったために、どこか本領を出し切れていない感じがしていた。


 それに対し『HiGH&LOW』は、ドラマパートが短く一話のうちに何回もビジュアル的な見せ場がある。そこに劇伴としてEXILEの歌が毎回かかるのだが、これがめちゃくちゃカッコよく、毎回30分のPVを観せられているような感じなのだ。


 つまり、今まで無理して展開していたドラマ要素を極限まで切り捨てた結果、EXILEドラマという新しい映像文体を獲得しつつあるのだ。おそらく物語は、楽しく仲間同士でつるんでいただけなのに、いつしか組織同士の抗争に発展して暴力の連鎖となり、とりかえしのつかないことが起きてしまう、というヤンキーモノの定型をなぞるのだろう。この物語を、どれだけPV的なカッコよさだけで突き進めるかが今後の課題だ。下手にドラマらしさなど意識せずに、このまま突っ走ってほしい。(成馬零一)