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F1メキシコGP決勝分析:ハミルトンの“反抗”に見たどん欲さ

2015年11月02日 21:11  AUTOSPORT web

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レース後、1-2フィニッシュを祝う集合写真撮影に臨んだロズベルグとハミルトン。シャンパンから逃げるなど、ハミルトンはおどけてみせたが、レース中のどん欲さが光ったレースだった
1992年以来、23年ぶりに開催されたメキシコGP。久々に完璧なレース運びを見せたメルセデスAMGのニコ・ロズベルグが、オーストリアGP以来の勝利を手にしました。

 最近、ポールポジションは連続して獲得しているものの、対ルイス・ハミルトンで拙攻が目立ち、多くのレースを取りこぼしてきたロズベルグ。しかし今回は、スタートでもしっかりとポジションをキープし、レース中も目立ったミスはほとんどなく(一度大きなコースオフがあったものの、時を同じくしてハミルトンもコースを飛び出し、大事には至らなかった)、ハミルトンがファステストラップを叩き出して追撃の姿勢を見せると、ロズベルグはこれに対抗して翌周に最速タイムを記録して差を維持……完璧な勝利だったと言っていいレースでしょう。

 ハミルトンからすれば、「近づくとダウンフォースを失った」という影響もあったのかもしれませんが、ほとんど付け入る隙がありませんでした。唯一あったとすれば、最後のタイヤ交換のタイミング。後続との差が開いたために、チームはふたりをピットに呼び戻し、“念のため”にタイヤを交換することを決定します。ロズベルグはこれに素直に応えてピットインしますが、ハミルトンは「何で入る必要があるんだ?」と反抗し、なかなかピットに入りません。結局、最終的にはピットインするのですが、もしこの時ハミルトンがピットの指示に従わずに走り続けていたら、どうなっていたでしょうか?

 46周目終了時点でピットに入ったことで、ロズベルグはハミルトンの18.6秒後方でコースに復帰しています。そして、ロズベルグの新品タイヤでのペースは、ハミルトンの交換前のタイヤを履いたペースに比べて0.5~1秒程度速いものでした。この時点での残り周回数は24周ですから、ロズベルグはハミルトンに追いつけたかどうか、ギリギリの所だったはず。非常に激しい、終盤の攻防になったかもしれません。さらに、ハミルトンがピットインしたほんの数周後には、セバスチャン・ベッテル(フェラーリ)のクラッシュによるセーフティカー(SC)が出動するわけですから、ハミルトンがあと数周でも指示を無視していれば、SC中にタイヤを交換してロズベルグの前でコースに復帰し、勝利をさらっていた可能性があります。

 以上はタラレバではありますが、チャンピオンを決めたにも関わらず、どん欲に勝利を求めていくハミルトンの闘争心を、まざまざと感じさせたシーンだったように思います。ただ、ハミルトンが上記のようなことを実際に行ってしまっていたら、ロズベルグ、そしてチームとの間に大きな確執が生まれる火種となっていたことでしょう。

 残念だったのは、優勝争いをさらに激しく見応えのあるモノにした可能性のある要素が、レース序盤にして失われてしまったことです。そう、ベッテルの脱落です。ベッテルは1周目の1コーナーでレッドブルのダニエル・リカルドと接触し、タイヤをパンクさせて最後尾まで下がってしまい、勝負権を早々に失ってしまいました。しかし、タイヤを交換した後のベッテルのペースは、先頭を行くロズベルグやハミルトンと遜色無いものでした。事実、周回遅れとなり、背後にハミルトンが迫って青旗(遅いマシンは後続のマシンを先に行かせないという指示)が出されると、「僕の方が速いのに?」と無線で語るほど速かったのです。もしスタート直後のアクシデントがなければ、メルセデスAMGのふたりを苦しめたはず……そう思えてなりません。

 さて、ベッテルに代わって3位表彰台に上がったのは、ウイリアムズのバルテリ・ボッタスでした。レース序盤はレッドブル2台の後方、5番手を走っていたボッタスですが、8周目に早めのピットインを敢行。これがアンダーカットの形となり、24周目にリカルドがピットインしたことで、4番手のポジションを得ます。その後、レッドブルのダニール・クビアトと接戦を繰り広げていき、52周目のSCを迎えることになるのですが……各車がすぐさまピットインを行う中、ボッタスはピット入り口を通りすぎていきました。この時ピットインしたのは、クビアト、リカルド、フェリペ・マッサ(ウイリアムズ)、ニコ・ヒュルケンベルグ(フォース・インディア)ら、ボッタスの前後にいたドライバーたちが中心です。

 ボッタスは翌周にピットインし、4番手をキープしたままコースに復帰します。ボッタスはレース後のコメントで、「良い判断だった」と語っていますが、これは失策と見えて仕方ありません。今回は運良くポジションをキープできましたが、例えばボッタスがSCに追いついてペースダウンを余儀なくされ、ピットインしてコースに復帰したリカルドとの差が縮まるようなことがあったら……ボッタスは多くのポジションを失っていた可能性もあったはずです。もしあのSCのタイミングでピットインするなら、他車と同じ52周目に入るべきだったと思います。

 なおこのピットストップで、ボッタスはミディアム、クビアトはソフトのタイヤを装着します。もちろんソフトの方が柔らかく、ミディアムの方が硬いのですが、作動に適した温度は、逆にミディアムの方が低く、ソフトの方が高くなっています。つまり、ソフトタイヤの方がしっかりと発熱させてやる必要があるわけです。クビアトはSC中にしっかりと熱を入れることができず、リスタート時の加速が鈍ります。この隙を突いてボッタスがクビアトをオーバーテイク。3番手のポジションを手に入れました。実際には、ウイリアムズがミディアムタイヤを選択した理由は、タイヤに厳しいマシン特性を考えたものだったのかもしれません。しかし、結果的にはこれが功を奏して、表彰台を得ることができました。

 ところで、ピットストップのタイミングを逸したのは、自身初の母国グランプリを走ったセルジオ・ペレス(フォース・インディア)も同様です。SC出動時、ペレスは曰く「ヒュルケンベルグやマッサの前に出る」ことを狙い、ピットインをせずにその後のレースを走り切ることを選択したのですが、前後のマシンが全車ピットインしたため、自身だけが古いタイヤのまま、残りのレースを走らなければなりませんでした。結果的にはポジションを奪えず、ステイアウトしたメリットは皆無。仮にピットインしていたとしても、ポジションを失うことはなかったはずです。しかも新品タイヤなら、先行するヒュルケンベルグらに近づき、勝負を挑むことができたかもしれません。もしそれが実現していたならば、ただでさえ盛り上がったエルマノス・ロドリゲス・サーキットが、より一層盛り上がったはずです。

 しかしレース終盤のペレスは、使い古したタイヤを装着しているにも関わらず、新品に交換したメンバーに近いペースで走行し、トロロッソのマックス・フェルスタッペンを抑え切ってみせました。タイヤの扱いに定評のあるペレスの、“さすが!”という面を十二分に発揮したと思います。

 復活したメキシコGPで、復活の狼煙を上げたロズベルグ。すでに今季のチャンピオンはハミルトンに奪われてしまいましたが、まだまだ我々に素晴らしいレースを見せてくれそうです。今季残りはあと2戦。次戦は南米、ブラジルGPです。

(F1速報)