2015年11月02日 12:01 弁護士ドットコム
犬や猫にも「人権」を認めよう――。スペインの小さな町の議会で、そんな内容の条例が可決され、話題となった。
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イギリスの新聞社「The Independent」によると、スペインのカスティーリャ・レオン州のトリゲロス・デル・バジェという人口約330人の町の議会で、犬と猫は「非人間の住民(non-human residents)」であるとして、人間のもつ人権と同じような権利を認める条例が可決された。この新法では、「非人間の住民」を傷つけたり、殺害することや闘牛を禁止している。
町長は「犬と猫は私たち人間と1000年以上に渡って生活してきた」「私は人間の住民はもちろん、この町にいる他の生き物も代表すべきであると考えている」などとコメントしている。
日本でも、犬や猫の虐待などが問題となっているが、日本でも動物に「人権」を認めることは可能なのだろうか。議論になる可能性はあるのだろうか。伊藤建弁護士に聞いた。
「結論から言えば、憲法で保障されている『人権』をそのまま動物にも与えることは、現状では難しいのではないかと思います」
伊藤弁護士はこのように述べる。なぜだろうか。
「『人権』とは、人が生まれながらに有する権利をいいます。
1776年に採択されたヴァージニア権利章典第1条によれば、人権とは、生命、自由、財産、平等、幸福追求などを保障したものであるといえます。
ちなみに、憲法が保障する国民の基本的人権は、近年では『憲法上の権利』と呼ばれ、人が生まれながらに有する人権だけにとどまらず、選挙権や裁判を受ける権利なども保障しています」
憲法が想定する人権の対象は、あくまで「人」というわけだ。動物に権利を与えるという考えは、日本に根付いていないのだろうか。
「そんなことはありません。いわゆる動物愛護管理法により、一定の動物については虐待などが禁止されています。ただ、すべての動物の『いのち』を保障したわけではありません。
たとえば、誰かが飼っている動物を殺したり、傷つけたりした場合には、器物損壊罪(刑法261条)として、3年以下の懲役または30万円以下の罰金もしくは科料に処せられます。
しかし、器物損壊罪は、飼い主の『財産権』を保護するためのものですから、動物の『いのち』を保護しているわけではありません。また、動物愛護管理法で保護の対象となるのは『愛護動物』だけに限定されています。
『愛護動物』は、牛、馬、豚、めん羊、山羊、犬、猫、いえうさぎ、鶏、いえばと、あひるの他(同4項1号)、人が占有している動物で哺乳類、鳥類又は爬虫類に属するもの(同2号)ですから、広く動物の『いのち』を保障したとまでは言い難いでしょう。
その他に鳥獣保護管理法もありますが、狩猟の鳥類または哺乳類に属する野生動物しか保護していませんし、許可を受ければ殺傷することもできてしまいます」
あくまで、個別の法律で保護されているのが現状のようだ。こうした現状は変わっていくべきなのだろうか。
「世界的に見ると、動物の権利を保障する傾向は見受けられます。
たとえば、今年の4月には、アメリカ合衆国のニューヨーク州最高裁判所が、大学で研究のために飼育されている2頭のチンパンジーの勾留状態を維持するためには、人身保護令状を求めるという判断をしたことが報じられました。
我が国においても、動物の『いのち』を大切にするために、『愛護動物』として保護される範囲を広げることについては、議論になる可能性があるでしょう。
もっとも、すべての動物の生命そのものを保護するとなると、極端な話ですが、虫を殺すこともできなくなってしまいます。また、農作物を動物による被害から守る必要性もあるでしょう。そのため、動物を保護する範囲を決めるにあたっては、慎重な配慮をしなければなりません」
伊藤弁護士はこのように述べていた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
伊藤 建(いとう・たける)弁護士
1986年10月2日生まれ。29歳。慶大院修了・法務博士(専門職)。NHK教育テレビ「真剣10代しゃべり場」への出演をきっかけに憲法と出会う。司法試験合格後は、大学や「ロースクール・ポラリス」、「BEXA.jp」という教育機関で法学教育を行っている。
ブログ「憲法の流儀」(http://ameblo.jp/lawschool-life/)
ロースクール・ポラリス(http://www.wisdombank.co.jp/)
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