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BABYMETALのライブアルバムを比較 彼女たちのパフォーマンスはどう進化した?

2015年11月02日 07:01  リアルサウンド

リアルサウンド

BABYMETAL『THE ONE - 限定Blu-ray「BABYMETAL LEGEND "2015" ~新春キツネ祭り~」』

 2015年10月16日。冷めやらぬ興奮と共に「第3章が“最終章”へ向かう」というアナウンスがなされた「BABYMETAL WORLD TOUR 2015 in JAPAN」最終日。その数日後、待ちわびた1枚のCDがようやく手元に届いた。第3章の狼煙を上げた今年1月のSSAでの単独公演を収録した、WEBメンバー「THE ONE」限定販売のLIVE CD『BABYMETAL LEGEND“2015”~新春キツネ祭り~』である。


 現状、BABYMETALにとって最新のライブアルバムとなる今作は、当日のセットリストを2枚組で再現。のどから手が出るほどとはけっして誇張ではない。BABYMETALの現場を味わい、客席の興奮を身体が覚えている者ならば、ライブアルバムを是が非でも求めるのは必然的な流れでもある。


 その位置づけは、2014年に“武者修行”と題した世界行脚を成功に収め、成長や変化を遂げた彼女たちの節目を捉えたものであるが、いくつかの項目に分けてポイントを紹介していきたい。


・『あわだまフィーバー』初音源化だけでも価値あり


 ファンの間では“あわあわ”と呼ばれていたDisc1の3トラック目にあたる同曲。正式タイトルが発表されたのは15年6月のことだが、ライブでの初披露はもっと前、昨年12月に開催された“SU-METAL聖誕祭”ことWEBメンバー限定ライブ「APOCRYPHA-S」だった。


 当初は曲中のフレーズも当てはまる全ての箇所が「あわあわ」としか聴こえなかったものの、タイトルを聞けば不思議なことに「あわだま」としか聴こえなくなる。いわゆる空耳的な現象にも思えるが、何はともあれ、音源で聴きたい衝動に駆られていた者としては、いつどこでも聴ける状況になったのは、それだけでも収穫は大きい。


 狙っていたと信じたいが、初披露の場が13年12月の幕張公演での『ギミチョコ!!』と共に“SU-METAL聖誕祭”であり、そして、曲調から噂されていたとおり、作曲は同じくTHE MAD CAPSULE MARKETSやAA=としても活躍する上田剛士。これはBABYMETALのファンが音へのこだわりをどれほど強く抱いているかのあらわれともいえるだろう。


 ライブで披露される際は、扉を開けるような仕草を見せたりと、3人のシンクロが要所ごとに光る1曲。ステージで凛々しさが目立つSU-METALのもう一つの顔、ギャップ萌えの真骨頂ともいえる“かわいさ”が全面に押し出されているのもポイントで、冒頭わずか5秒程のイントロだけでもエンドレスリピートしたくなる中毒性をひしひしと感じられる。


・神バンドの存在を味わえる『Mischiefs of metal gods -KAMI Band Instrumental-』
 和訳すると「メタルの神の悪戯」となるDisc1の9トラック目。初収録はWEBメンバー限定販売の映像作品に同梱、武道館公演2日目の模様を収録した非売品ライブアルバム『LIVE AT BUDOKAN ~BLACK NIGHT~』。アルバムのみを単独で入手できる形で、神バンドの演奏を味わえるのはぜいたくともいえる。


 BABYMETALは「神バンドも含めて1つのバンド」であるというのは、本人たちの発言もあり、すでにファンの多くが共有している認識である。しかし、実際にアルバム内で神バンドの名前が刻まれ、はっきりと独立した楽曲が設けられているのは、その認識が間違ってはいなかったという証拠といえる。


・定番曲に見るSU-METAL、MOAMETAL、YUIMETALの成長と自信


 BABYMETALは曲数が限られており、どのライブへ足を運んでも、セットリスト自体は順番こそ違えど内容はそう変わらない。しかし、だからこそ真摯に耳を傾けようとするし、歌い方や彼女たちの発する声からも様々な変化がみてとれる。


 例えば、Disc1の1トラック目の『メギツネ』では、武道館公演初日を収録した過去のライブアルバム『LIVE AT BUDOKAN~RED NIGHT~』と比較すると、心なしかMOAMETALとYUIMETALの煽る声が太い。成長によるものという以上に、その裏にはステージへみなぎる自信を感じてやまない。


 彼女たちの来歴を重ねると、そもそも今作に収録されたライブは、14年に“武者修行”と称して走り続けた相次ぐ海外公演の集大成、そして、さらなる世界進出に向けた決意表明の場のようにもみえた。その変化は、SU-METALのソロ曲からもにわかに感じ取れる。


 Disc1の4トラック目『紅月-アカツキ-』では、歌い出しからSU-METALがメロディにあえて“溜め”を作り歌うさまを味わえる。先の武道館公演初日では、拍子の一つひとつを大切に刻みながら歌っていた印象をおぼえるが、一見、わずかにも思える表現の違いからは、歌に駆けるSU-METALの心情の変化を読み取れる。


 そして、やはりピアノとストリングスが奏でるイントロからの一連の流れは、ライブ中のほんの一瞬の“静”を表しているというべきか、切なくも胸を熱くさせてくれる。


・目を閉じれば現場に立てる「戦国ウォール・オブ・デス」のアナウンス


 アンコールを収録したDisc2の3トラック目。ライブの最後を飾った『Road of Resistance』には、メタルで世界を1つにするというBABYMETALに課せられた使命はもちろん、我々ファンも“メタルレジスタンス”の担い手であることを匂わす“鋼鉄の合戦”を告げるアナウンスが音源のみでは初めて収録された。


 楽曲自体の初披露は14年11月のロンドン公演で、完全な主観とはなるが、この曲が第3章の核であったのだろうとずっと考え続けている。これまでも例えば、場内を駆け巡るレーザービームが印象的なDisc1の2トラック目『いいね!』や、Disc1の7トラック目にある『ウ・キ・ウ・キ★ミッドナイト』など、コール&レスポンスが求められる楽曲はあった。


 しかし、『Road of Resistance』に限っては、ステージと客席が一体となれるようシンガロングパートがあらかじめ設けられている。加えて、歌詞に「僕ら」とはっきりと明記されているのはこの曲以外になく、とにかくステージにすがるしかなかったBABYMETALのライブにおいて、この曲により、客席からも明らかな形で自発的にライブへ参加できる時間が生まれた。


 ライブアルバムは聴覚のみを刺激されるため、当日の光景が、不思議とより鮮明に蘇ってくる瞬間もある。興奮のさなか、現場では行き届かなかった部分に気づいたりするのも魅力のひとつである。


 BABYMETALはとりわけライブが核となるため、本音をいえば、すべての公演を音源化していただきたい。現在、ライブでの定番になりつつある「ちがうちがう」のフレーズが耳から離れない新曲はもちろん、14年12月に披露された『おねだり大作戦』ならぬ通称“カツアゲ大作戦”など、手元でいつでも再生できるようにしておきたいものがまだまだある。


 しばらくは今作をエンドレスリピートする生活が続きそうだが、ふと懐かしさにも似た感覚をおぼえ、オリジナルの音源に原点回帰する瞬間がまた訪れそうである。(カネコシュウヘイ)