トップへ

ASIAN KUNG-FU GENERATIONが舞台演出で表現した、“驚くべき未来”へのメッセージ

2015年11月01日 14:51  リアルサウンド

リアルサウンド

ASIAN KUNG-FU GENERATION

 ASIAN KUNG-FU GENERATIONのツアー『Wonder Future』が、10月15日・16日に東京国際フォーラムでセミファイナルを迎えた。今回のツアーは、アジカン史上初の試みが満載。“架空の街”をテーマに建築家・光嶋裕介と手を組んだ舞台づくりや、プロジェクションマッピングを使った演出に、ツアー開始直後から注目が集まっていた。


(関連:アジカン・後藤正文が提示する“強い表現”とは? 「殴り合ったりするとかじゃなくて、幸いにも俺たちにはペンがある」


 そもそもアジカンは、スタジアム級のバンドでありながら、大がかりな演出やパフォーマンスをあまり必要としない傾向にあった。スタジアムでも、ライブハウスの演奏でも変わらぬ思いでファンと接してきただろうし、ミュージシャンとしての立ち位置も、演出より演奏重視の土俵にいる。そんなアジカンがプロジェクションマッピングを取り入れるというのは、ライブ表現が新しい世界に突入した証拠である。


 プロジェクションマッピングは、これまでPerfumeや、SEKAI NO OWARI、L'Arc~en~Cielなどもライブの演出に取り入れてきた映像技術だ。ステージに大規模なスクリーンで投影するものもあれば、観客席までをもスクリーンに見立てた演出もあった。アジカンの場合は、白い長方形が連なってできた“街”のセットがスクリーン。ツアー・サポートのシモリョー(the chef cooks me)を含む5人も、映像に溶け込むようモノトーンの衣装に統一されていた。


 メンバーが揃うと演奏は「Easter / 復活祭」から始まり、MCもまばらに、「Little Lennon / 小さなレノン」「Winner and Loser / 勝者と敗者」とアルバム『Wonder Future』の曲順をやや忠実になぞっていく。映像は、ステージが前進・後退したり、波打ったり、回転したり見える、まるで錯覚のようなもの。これらの映像が、『Wonder Future』の肉体的なサウンドとスピーディーに組み立てられていくーーそれはまさに“建築”という行為にも似ていた。


 さらに、「Caterpillar / 芋虫」「Wonder Future / ワンダーフューチャー」などでは、光嶋裕介による街のスケッチを含んだ演出に。住宅や景色の一部がカラーではなくモノクロだったのは、“驚くべき未来”(=Wonder Future)はまだこれからというメッセージだろうか。


 アルバム『Wonder Future』は、デビュー12年目にして今一度王道ロックに立ち返った作品。ポジティブで、希望にあふれたサウンドはライブにおいても健在だった。メンバーの表情までは確認できなかったものの、「Little Lennon / 小さなレノン」の半音ずつ下がっていく刺激的なギター・リフ、「Planet of the Apes / 猿の惑星」のノイジーなエフェクトと混ざるシンバルの響き、「Eternal Sunshine / 永遠の陽光」のベースの包容力などがより引き出され、今まで以上に生き生きとしたエネルギーを感じた。どの曲もタイプは違うけれど、その音からはみえない情熱がびしびしと伝わってくる。きっと、“エモーショナル”とはこういう音のことを指すのだろう。彼らに潜在するエモーショナル・ロックの再発見こそが、本ツアーにおける強い感動だった。


 『Wonder Future』以外では、とりわけメッセージ性の強い楽曲ぞろい。「N2」などの楽曲をとおして、9.11から3.11、そして現在の政治情勢についてまで、1つのステージで体験できる。それは重すぎず、軽すぎず、むしろポップなエンターテインメントだった。本ツアーでアジカンは、ロックキッズに愛されるバンドでありながら、メッセージ性、密度の高い芸術性をも追求したバンドに“アップデート”した。それはフー・ファイターズやU2が、時代に合わせてファンに応えてきたのと同様だろう。ライブ表現においてもアジカンは、多くの人に愛され、若手バンドの目標のひとつとなってきている。


 エモーショナル感と、時代に合わせた順応性。本ツアーでより磨かれた彼らの持ち味は今後、海外ツアーで発揮される予定だ。そして来年は、バンド結成20周年。まだまだ隠れた魅力を発見できそうな彼らは今、新人バンドのようなみずみずしさで満ちている!(梶原綾乃)