10月15日放送の「カンブリア宮殿」は、ステーキチェーンのブロンコビリー。創業者で会長の竹市靖公氏がVTRで登場すると、驚くことに社内に会長のデスクはなかった。本部の事務所は元店舗で、席は長机を共有。それは会長も例外ではない。
「利益を出さないところは、できるだけ節約する。その代わり、店は思い切ってお金かけてますから」
年2回のアメリカ研修にはパートタイマーも参加
竹市氏のこの言葉には、村上龍も「今まで、社屋にはお金をかけず製品にはかけるという経営者は多かった。でも会長のデスクがないというのはなかった」と驚きを隠せない。
ここまでコストを削減していながら、竹市氏は人材育成にお金をかけることを惜しまない。「利益を出すのと社員が成長するためにお金を使うことは、同じくらい大事なこと」と信条を語り、教育費は創業以来2億円ほどかけているという。
ステーキの本場を体感する年2回のアメリカ研修は1人50万円、1回で1250万円の費用がかかるが、パートタイマーも参加させている。今年選ばれて参加した清水さんは、訪れたステーキハウスで熱心にメモを取り、接客係に英語で質問するなど物見遊山では終わらない熱意を感じさせた。
勤続年数の長いパートが多く、29年9か月という大ベテランも含め20年以上勤める人は全店で30人以上。竹市氏は感謝の気持ちを表すため、JASDAQに上場した時には8年以上勤務しているパート全員へ自分の株をプレゼントしている。長く務める従業員がいることは、働きやすい職場である証明のようにも見えた。
入社2年までの社員を集めて行う1泊2日の合宿研修会は、酒を飲みながらお互いの理解を深めるためのもの。悩みなどを直接竹市会長にぶつける場も設けており、竹市氏は若手社員の相談に誠実に答えていた。
ローン組んだ社員に「35年も持たんぞ!」と声をあげたことも
人を大切にするのには、あるきっかけがあったと竹市氏は語る。家を買った社員が「35年ローンを組んだ」と明かしたところ、思わず「35年も持たんぞ会社!」と言ってしまった。
しかしその後、会社を永続させるためには業界ナンバーワンになることが必要と考え、「利益があること」と「働く人の心がひとつになること」の2つが揃えば何とかなると思い定めた。現在、経常利益率は15.4%(平均は3.2%)で国内外食チェーントップ。東海と関東を中心に93店舗を展開し、5年後に200店舗にする目標だ。
そんなブロンコビリーだが、道は平坦ではなかった。1978年に名古屋で創業。炭火焼きやサラダバーが人気を呼び成長したが、低価格競争が激化。98年に肉質を落とし安価にしたところ、「まずくなった」と言われた。
さらに2001年、米国産牛肉のBSE問題で客離れが加速し、5億円の赤字を出して倒産寸前に追い込まれたうえに、竹市氏が脳梗塞で入院。このとき「安売りは自分の生き方に合わない」と悟り、「価格より価値を売る商売」に舵を切ってV字回復を果たす。
バカッター事件に「人材」への思いを強くする
2013年にはバイト学生がSNSに悪ふざけ写真を投稿した「バカッター事件」が起き、店舗を閉鎖したことも。幾多の困難を経験し、改めて「人材こそ会社の未来を決める」という思いを強くした竹市会長は、人を育てることに今も力を注いでいる。
竹市会長は、失礼ながらギラギラしたやり手経営者という雰囲気ではなく、とにかく真面目で気のいいおじさんといった風貌だ。話し方にも誠実さがにじみ出ていた。だからこそ、真摯に美味しさにこだわった商品づくりができるのだろう。
アメリカ研修に参加した清水さんは、「おいしかった!」と喜ぶ客を、心から嬉しそうに見送りしていた。飲食業はその場で客の反応が見える商売なので、自信をもって提供できる商品づくりは、働く上での誇りややりがいにもつながるだろうと感じた。(ライター:okei)
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