2015年10月30日 15:21 弁護士ドットコム
東京・渋谷の衣料品店で、人気ブランド「ナイキ」の偽物スニーカーを販売していたとして、店の経営者でナイジェリア国籍の男性ら3人が商標法違反の疑いで、警視庁に逮捕された。3人はいずれも容疑を否認し、「スニーカーは売り物ではなかった」と話しているという。
【関連記事:もし痴漢に間違われたら「駅事務室には行くな」 弁護士が教える実践的「防御法」】
報道によると、逮捕された3人は10月20日、渋谷センター街にある2つの衣料品店で、「ナイキ」のロゴが入った偽物のスニーカー3足を販売目的で所持していた疑いがもたれている。それぞれの店では、偽物のスニーカーが3万円前後で売られていたという。同署は店から50足以上のスニーカーを押収し、偽物かどうかの鑑定や、入手ルートを調べているという。
今回のニュースでは、逮捕された男性らは商標法違反の疑いがあるということだが、偽物を販売することには、法的にどのような問題があるのだろうか。冨宅 恵弁護士に聞いた。
「商標や特許発明、著作物など、人間の知恵から生まれた財産を知的財産といいます。たとえば、今回のニュースに出てくるナイキのロゴは、商標として登録されているものです。
ある人が生み出した知的財産を、許可なく使用した場合には、商品の廃棄を含む使用差止や損害賠償といった民事上の問題だけではなく、刑事罰を科される可能性があります」
冨宅弁護士はこのように説明する。
「商品の廃棄を含む使用差止については、過失の有無を問わず、他人の知的財産権を侵害しているだけで認められます。一方、損害賠償が認められるためには、侵害を行ったことについて、故意または過失があったことを権利者が立証しなくてはなりません。
しかし、特許権や商標権などのように登録制度が存在する知的財産権については、法律によって過失が推定されているので、権利者が侵害者の故意・過失を立証する必要がありません。登録制度の存在しない著作権などについても、過失が否定されることは少ないです。
そのため、他人の知的財産権を侵害している場合には、たとえ知らずに侵害していた場合でも、商品の廃棄を含む使用差止めや損害賠償が認められる可能性があります」
刑事罰については、どのような場合に科されるのだろうか。
「他方、知的財産権を侵害したことによって刑事罰を加えるためには、他人の知的財産権を侵害していることについて故意が必要になります。
ですから、他人の知的財産権を侵害しているという理由で警察が捜査を開始したり、逮捕に踏み切る場合というのは、さまざまな状況を総合的に判断して、他人の知的財産権を故意に侵害していると評価できる場合に限られます」
今回の事件については、どのように考えられるのだろうか。
「今回のケースでは、高額で取引されているスニーカーの偽物が存在したこと、容疑者はスポーツ用品を取り扱う業務に従事しており、本物と偽物の区別ができると考えられることから、容疑者に『故意』が認められると判断して、強制捜査に踏み切ったのだと思われます。
容疑者は、売り物ではなかったと主張しているようですね。しかし、所持していたのがスポーツ用品の販売業者であることに加えて、店舗に陳列していた事実も存在するようですので、『自身で使用するために購入した』すなわち『販売目的で購入したのではない』という主張は認められないでしょう」
ネット上には、ブランドの時計やバッグの偽物を、「コピー品」と称して安価で販売するサイトも見られる。こうした「コピー品」を、偽物と分かった上で購入した側も、罪に問われるのか?
「使用差止や損害賠償といった民事上の責任については、購入者についても問題になります。一方、刑事上の責任は販売する側だけの問題です。たとえ他人の知的財産権を侵害していると理解した上で商品を購入した場合でも、自身で使用するために購入したのであれば、刑事上の責任を追及されることはありません。
ですから、ネット上でコピー商品であることを知って購入したとしても、警察の捜査を受けたり、逮捕されるということはありません。
ただし、販売者側に科される刑事罰は比較的重く、侵害行為を行った者については、10年以下の懲役または1000万円以下の罰金、あるいは両方の刑が科されることがあります」
冨宅弁護士はこのように述べていた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
冨宅 恵(ふけ・めぐむ)弁護士
大阪工業大学知的財産研究科客員教授
多くの知的財産侵害事件に携わり、知的財産間に関する著書・論文等の発表、知的財産に対する理解を広める活動にも従事。さらに、遺産相続支援、交通事故、医療過誤等についても携わる。
事務所名:スター綜合法律事務所
事務所URL:http://www.star-law.jp/