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松山ケンイチ、『の・ようなもの のようなもの』舞台挨拶で故・森田芳光監督への思いを語る

2015年10月30日 12:51  リアルサウンド

リアルサウンド

登壇した松山ケンイチら

 第28回東京国際映画祭パノラマ作品部門に出品されている映画『の・ようなもの のようなもの』の公式上映(ワールド・プレミア)が、10月29日(木)、TOHOシネマズ六本木で行われた。杉山泰一監督、松山ケンイチ、北川景子、伊藤克信がそろって登壇し、上映前に舞台挨拶を行った。


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 2001年に亡くなった森田芳光監督の劇場デビュー作『の・ようなもの』(1981年)。本作『の・ようなもの のようなもの』で描かれるのは、その35年後を描いた“続編”にあたる物語だ。前作と同じく、古き良き下町・谷中を舞台に、生真面目なばかりでサエない落語家・志ん田(松山ケンイチ)が、落語を捨てて気楽に生きる兄弟子・志ん魚(伊藤克信)と出会い、悩みながらも自分らしく生きる楽しさを知ってゆくという物語。そんな本作を撮り上げたのは、『の・ようなもの』以来、数多くの森田作品で助監督を務め、本作が長編初監督作となる杉山泰一監督である。冒頭の挨拶で、監督は次のように語った。「4年前に他界された監督への恩返しの思いを込めて作りました。今ここにいる3人のキャストの方々も、同じような思いで出演していただいたと思っています」。


 さらに監督は続ける。「といっても、堅苦しい映画ではありませんので(笑)、森田さんの『の・ようなもの』を観ていない方でも、十分楽しめる作品になっていると思います」。しかし本作には、森田芳光監督ファンには堪らない、いくつかの仕掛けが施されているようだ。まずは、松山ケンイチ演じる主人公・志ん田。彼のモデルとなっているのは、森田監督の遺作となった映画『僕達急行 A列車で行こう』(2012年)で松山が演じた主人公・小町圭であるという。松山は言う。「最初に台本を読んだときは“志ん田”としか書いてなかったのですが、衣装合わせのときに、『これ、小町っぽくないですか?』っていう話になって……で、実際現場に入ってみたら、(森田作品の)いろんな役を引きずっている人たちばっかりだったんです。『の・ようなもの』の続編として、こういうふうにやるのもひとつのオマージュやラブレターじゃないですけど、何かそういうものもあるんだなと、僕はちょっと感動しました」。


 その思いは、志ん田が恋心を寄せる師匠の娘・夕美を演じる北川景子も同じであったという。「森田監督と初めてお仕事させていただいたのが、『間宮兄弟』(2006年)の夕美役で……今回、台本をいただいたとき、それとまったく同じ“夕美”という役名が書いてあったので、これはもうそういうことなんだと言うか、森田組ならではのシャレなんだなと思って。その後、フィッティングに行ったら、もう10年も前に撮影した『間宮兄弟』のときの衣装がそこにあったので、『やっぱり、そういうことだったんだ』って思いました(笑)」。その言葉を受けて、前作『の・ようなもの』に主演した伊藤が言う。「35年経って続編ができること自体、そもそもあり得ない話で、まずはそこにビックリしました。でも、それが成立したのは、尾藤さんやでんでんさんをはじめ、前作で僕の兄弟弟子を演じていた方々が、全員健在だったからであって……長生きに感謝です(笑)」。


 続いて、杉山監督が、今回の企画を持ちかけられたときの正直な心境を吐露。「最初にこの話をいただいたときは、ファンの期待を裏切ることになるんじゃないかと、正直尻ごみしました。ただ、森田監督と長いあいだつき合ってきて、『こんなとき、監督だったら何で言うかな?』って思ったら、監督も自ら黒澤明監督の『椿三十郎』をリメイクするぐらいの人ですから、自分の続編ぐらい『やっちゃえよ?』というような気がして。それならもう、監督の遺産……森田映画の出演者やスタッフをふんだんに使って、逆に居直って撮ってみようと決意しました」と、当時の心境と本作に臨む気構えを語った。


 その後、司会者から、歴代キャストやスタッフなど森田組が再集合した現場の雰囲気について尋ねられた北川は、「今回初めてお会いしたキャストの方も結構いらっしゃったんですけど、やっぱり“森田チルドレン”として同じ雰囲気を感じるのか、伊藤さんとも初めてお会いした感じがしなかったですし、ケンイチ君とも久々だったのですが、森田さんと一緒に仕事をしてきたチームということで、ひとつの家族のようなアットホームな雰囲気がありました」と返答。続けて伊藤が、「多分、私がいちばん多く森田監督の作品に出ていると思いますけど、森田監督の現場は、いつもすごく楽しいんですよね。で、今回は会う人会う人が顔馴染みで……何か同窓会みたいな雰囲気でした。そういう雰囲気を、森田監督の現場をいちばん知っている杉山監督が作ってくれたので、毎日仕事行くのが楽しかったです」と語った。


 最後に、キャスト及びスタッフを代表して挨拶を求められた杉山監督は、「先ほど、『の・ようなもの』を観てないお客さんでも、十分楽しめるものになっていると言いましたが、この映画を観てちょっとでも興味が湧いたら、是非『の・ようなもの』を観てください。それでもう一度今作観ていただけると、この良さがさらに分かると思います」と、本作の楽しみ方を提示。それを受けて、思い出したように、松山が森田監督とのエピソードを語り始めた。「今、こうやって景子ちゃんと舞台挨拶させていただいて思い出すのは、森田監督の『サウスバウンド』(2007年)のときのことです。その映画の舞台挨拶を、僕と景子ちゃんと監督の3人でやったとき、監督が『次は景子ちゃんと松山のふたりでラブストーリーを撮りたいね』って言っていただいて」。時折、北川の顔を見ながら、当時の心境を確認し合うように松山は続ける。「監督は亡くなってしまいましたけど、それが今回こういう形で実現できたのかなって思いました。この映画は、ラブストーリーのようなものでもあり、青春映画のようなものでもあり……いろんな“のようなもの”が詰まった作品です。でも、その“のようなもの”のなかには、きっと観ていただける方それぞれが“のようなもの”じゃないと感じるものが見つかるような気がします。是非、楽しんでください」。(麦倉正樹)