高度成長期の恩恵を被った世代が、リタイア後に「住み替え」をするケースが増えているようです。定年退職後の自由な時間は約10万時間で、「平均的なサラリーマンの定年までの労働時間とほとんど同じ」とのこと。意外と長いのですね。
長い時間を夫婦円満に健康で暮らせるよう、ハウスメーカーは高齢者向け住宅の開発に力を入れています。UR都市機構は10月20日、60歳以上を対象とした「健康寿命サポート住宅」を公開。同日放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)は、この様子を紹介していました。
ベッドの間を家具で仕切り、居間に格子戸を設ける
内覧会の見学者はすべて高齢者で、余興では落語が催されて大好評。内装は病気やケガを未然に防ぐ作りが特徴で、手すりをつけて転倒を防止するほか、ゆっくりと開閉する玄関のドアや、分かりやすく色をつけた段差も備えています。
風呂場は温風が出るしくみで、温度差で急激に血圧が上がり心筋梗塞などを起こす「ヒートショック」を防ぎます。UR都市機構の瀬良理事は「元気で暮らし続けてもらえる住宅を作っていくべき」と語り、今後も高齢者向けの住宅づくりに力を入れるそうです。
積水ハウスが開発を進めるのは、夫婦二人暮らしの「適度な距離感」を意識した住宅。モデルハウスは閑静で緑豊かな空間に建つ平屋建てで、「いつも一緒にいると疲れるが個室に分かれるのは不安」というお客さんの声に応えた工夫がなされています。
寝室は「ゆるやかにつながる」がテーマで、ベッドの間を大きな家具で仕切り、お互いに別のことをしていても、それを妨げない作り。完全に仕切るわけでもなく、同じ室内でも少し境界線をつくり「距離感」をとっています。
夜、不安なことがあった場合も夫婦がすぐに声を掛け合えるよう、顔の近くに開閉できる引き戸がありました。居間も格子戸に仕切られており、「別のことをしていても互いの気配はなんとなく感じられる」のが売りだとか。
次世代は「生涯現役」を目指すしかない
番組を見た感想としては「定年したら適度な距離感が必要になるんだなあ」ということで、苦笑いしてしまいました。夫は家庭を顧みず会社に通い、妻ともあまり顔を合わせていなかったのだから、急に一緒の時間を過ごせと言っても無理な話なのですね。
また、こうした住み替え需要は、現在のお金を持っている高齢者に限ったものだろうと思いました。定年や年金支給年齢が引き上げられている現役サラリーマンの多くは、歳をとっても長く働かなくてはならず、自由な時間が長いとは考えにくいもの。高額な退職金も期待できず、住み替える余裕のある人が多いとも思えません。
高齢者向け住宅はうらやましいような気もしますが、いまの世代は「生涯現役で頑張る」くらいの心づもりでいた方が良さそうです。そうすれば、わざわざ居間に格子戸を設けなくてもいいのですから。(文:篠原みつき)
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