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今井美樹がデビュー30年でたどり着いた場所とは? 東京国際フォーラム公演の音楽的成熟を分析

2015年10月28日 17:01  リアルサウンド

リアルサウンド

今井美樹

 デビュー30周年を迎えた今井美樹の全国ツアー『30thAnniversary CONCERT TOUR 2015 “Colour”』の東京公演が、10月23日、東京国際フォーラム ホールAで行われた。今年5月にリリースされた20枚目のオリジナルアルバム『Colour』がオリコン週間ランキングベスト10入りを記録し、今年10月にリリースされ、11年4か月ぶりのオリコン週間ランキング3週連続ベスト10を記録するなど、ロングセールスを継続中のオールタイムベストアルバム『Premium Ivory ーThe Best Songs Of All Timeー』。この2作品を中心にしたこの日のライブで彼女は、30年のキャリアを網羅しつつ、“2015年の今井美樹”を飾ることなく表現してみせた。


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 今回のツアーは2部構成。最新曲「Anniversary」からスタートした第1部は、最新アルバム『Colour』の収録曲と「ふたりでスプラッシュ」(1987年)、「野性の風」(1987年)などの懐かしい曲を織り交ぜ、過去と現在を行き来するような内容。女性の生き方、ライフスタイルをテーマにした楽曲の世界を描き出すボーカルからは、彼女の表現力がさらに深まっていることが伝わってきた。バンドメンバーは河野圭(Key)、川江美奈子(Cho/Key)、井上富雄(Ba)、黒田晃年(G)、鶴屋智生(Dr)。70年代後半から80年代のニューミュージック、AORのテイストを軸にしたシンプルで上質なサウンドも魅力的。まさに大人の鑑賞に堪える音楽だ。


 2012年からロンドンに移住した今井。客席からの「おかえり!」という声に応え、「そうよね。東京は私の人生のいろいろなものが詰まった場所。心から“ただいま”という気分です」と嬉しそうな笑顔を浮かべた。


 第1部のラストは自身が主演したドラマ『ブランド』(フジテレビ系)の主題歌「Goodbye Yesterday」(2000年)。「50歳になったら、大きなステージで歌いたいと思っていました。2年過ぎちゃいましたけど」というコメントも印象的だった。こういう飾らない性格もまた、彼女が同性から支持され続けている理由なのだろう。


 第2部のオープニングは代表曲「PRIDE」。イントロが流れた瞬間にどよめきにも似た歓声が起こり、ハンカチで目元を抑える女性客の姿も見受けられる。布袋寅泰とのコラボレーションにおける最高傑作とも言えるこの曲は、いまもなお幅広い世代の心を捉え続けているようだ。


 また、初期の今井美樹の音楽を支えてきた上田知華(作曲)、岩里祐穂(作詞)による「再会」、そして、「彼女と出会ったことから、また新しい音楽と巡り合えました」という川江美奈子のペンによる「あなたがおしえてくれた」(どちらもアルバム『Colour』収録)も強く心に残った。年齢、人生の変化を楽曲に反映させながら、長きに渡って同世代女性の共感を得て来た彼女。この2曲からは30年という時間を経て辿りついた音楽的成熟が確かに感じられた。


 アンコールでは彼女がもっとも影響を受けたアーティストである荒井(松任谷)由実の「卒業写真」を披露。さらに1991年のヒット曲「PIECE OF MY WISH」によってライブはエンディングを迎えた。


 ライブ終盤で「私の30年のなかの音楽がみなさんの歩いてこられた毎日に寄り添わせてもらってるんだろうなって思うと、迷いながら、転んだり、泣いてたりして歩いてきた道でしたけども、よかったなって思います」「これからもまだまだ、探し物を探しして歩いていくだけですが、そこで出会った音楽といっしょに日本に帰ってこられたらいいなと思っています」と語り掛けた今井美樹。リスナーに寄り添いながら、エバーグリーンな楽曲を生み出してきた彼女の音楽の魅力がしっかりと伝わる、有意義なライブだったと思う。(森朋之)