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斉藤和義が語る、表舞台に立ち続ける理由 「ビートルズやストーンズが好きだから、売れてなきゃいけないって思う」

2015年10月28日 10:21  リアルサウンド

リアルサウンド

斉藤和義。

 斉藤和義が、10月28日にアルバム『風の果てまで』をリリースする。2年ぶりのアルバムとなる同作は、自身初となるロサンゼルスレコーディング作。盟友でもあるドラマー、チャーリー・ドレイトンを中心に、ローリング・ストーンズのサポートベーシスト、ダリル・ジョーンズ、ビースティ・ボーイズやジャック・ジョンソンのサポート等で活躍するキーボーディスト、マニー・マーク、LAを拠点に活動するMY HAWAIIの鹿野洋平といったミュージシャンたちが参加し、ダイナミックな音像と歌心が同居した快作に仕上がっている。リアルサウンドでは今回、同作について斉藤和義本人を直撃。聞き手にはライター・石井恵梨子氏を迎え、アルバム制作時の出来事や海外レコーディングで生まれた楽曲の手ごたえ、表舞台に立ち続ける自身の活動論などについて、じっくりと話を訊いた。


・「ロックンロールの“ロール”には、スイートスポットがある」


――ここ数年はMANNISH BOYSでも活動が続いていますが、斉藤和義作品へのフィードバックって、何かありますか。


斉藤和義(以下:斉藤):具体的に何ってわけじゃないけど、あると思いますよ。MANNISH BOYSの曲作りは二人の即興ジャム・セッションでやることが多いんです。バーッとスタジオで演奏しながら録音して、その中から「ここ良かったね」とか「これ曲にしよう」とか。そういうジャム・セッションは昔から好きだし、それで曲を作ることもあったけど、ここ数年はMANNISH BOYSで全部やれてますからね。まぁそれをやりたくて始めたようなバンドだし。だから、むしろ斉藤のほうはジャム・セッションじゃない、歌ものを作るっていう感じに、より、なっている気はしますかね。


――今回は確かにそうですね。歌がしっかり聴こえる作りというのは、青写真としてあったことですか。


斉藤:いや、そうでもないんですけど。ただ今回はロスで、チャーリー・ドレイトンとやることが決まってて。今までだいたいはゼロの状態でスタジオに入ってたんです。まぁちょっとだけモチーフがある場合もあるけど、スタジオに入ってからそれをまとめてそのまま録っていくパターンが多かったんですよ。でも今回は先にチャーリーに「こんな感じのを録るよ」っていうのを渡さなきゃいけなかったんで、先に曲を作って久々にデモテープを録ったんですね。ほんと久々……デビューした1、2枚目以来ですかね。原型でいえば30~40曲くらい作って、その中で、これがチャーリーとやったら面白いなっていうものを18曲くらい送ってみて。その中でまとまっていったのがアルバムになった感じですかね。


――チャーリー・ドレイトンとは昨年も一緒にツアーしていますけど、彼のドラムは、和義さんに何を与えてくれるんでしょうか。


斉藤:あの、ドラムには“前ノリ”と“後ノリ”と、あとは“ジャスト”、大まかにいうと3パターンあるんですよね。でもロックンロールの“ロール”っていう部分に関していうと、前も後もジャストも関係なく、いわゆるスイートスポットっていうものがあって、そこさえ外さなければ、どんどんロールしていける。そういうポイントがあると思うんです。日本人でももちろんドラムが上手い人はいるけど、それができてる人はあんまりいないんですね。で、チャーリーのドラムはそれを肌で感じるんです。相性がいいっていうのもあるけど、演奏してても歌ってても、もう延々、気持ち良さがずっと続くんですね。


――スイートスポット……。素人には理解しにくいですけど、演奏すれば如実にわかるんですかね。


斉藤:そうですね。絶対に曲がグルーヴするポイントっていうかね。もちろんドラムだけじゃなくバンドが合わさってのことですけど、チャーリーはそのポイントを絶対に外さない人ですね。だから、とにかくやってて心地いい。あの人はマルチプレイヤーでベースもギターも歌も自分でやれる人なんで、ドラムだけをやっているドラマーとは違うグルーヴになるんですね。やりながら一緒にアレンジもできるし、ドラム自体が歌ってる感じだから、少ない楽器でも成立できるとか。そういう人を作品を通じて紹介できる嬉しさっていうのも自分にはありますし。


――ちなみに、完成したものをチャーリーはなんて言ってましたか。


斉藤:えーとね、「ストロングだ」って言ってました(笑)。LINEでそんなのが来てましたね。


――力強いロックンロールもあり、せつないメロディも際立っていて。ディープに聴けるんだけど、ただ、歌ものとしても非常にポップで聴きやすい。そこはずっと一貫してますよね。


斉藤:そうですね。もちろん似たような手癖の曲ばっかになるのは嫌だけど、最近は手癖上等っていう気分もあって。そんなにマニアックなものは血にないし、わかりづらいものをやりたい願望もないし。


――ただ、わかりやすきゃOKだっていう作り方ではないですよね。


斉藤:そこが自分ではよくわからないんですよね。もろちん自分なりのこだわりはあるけど、「ここはこんなに苦労したんだ」とか言っても仕方ないことで(笑)。わかりやすいと思って出したものが「あれ、そんなに届いてないっぽいぞ?」と思ったり「これはけっこう冒険してるんだけど……」っていうものが届いたりもするし。だから、何がわかりやすいのか、どうすれば届くのかっていうのは、結局よくわからないですね(笑)。


・「職業作家の凄さを今は感じますよね」


――和義さんのヒット曲は、ドラマやCMが絡むことも多いですよね。数年前は「やぁ 無情」がアリナミンのCMでバーっと世の中に広まったり。当時、年末の音楽番組に出演されていたのを見たんですけど、めちゃくちゃ居心地悪そうだな、って思ったのを覚えていて。要するに、マスに出たいのか出たくないのか、どっちなのかなって。


斉藤:あぁ。うーん……。まぁプロモーションって感じですかね、テレビも。慣れないですけどね。でも、何だかんだで広がりやすいメディアだと思うので。うん、言葉はアレだけど、利用できるなら全然しようっていう感じですかね。


――ここまではオッケーだ、という自分なりのラインってありますか。たとえばいろんなタイアップがある中で、断ることもあるのか。


斉藤:あぁ、時にはあると思いますよ。こっちが何もわからないのは嫌ですし。ただ、いわゆるご指名で来た話で、そのお題が面白いなと思えたら、それはやってみようって気になりますかね。


――今回のアルバムでいえば「Endless」もそうですね。


斉藤:うん。これは“経年優化”っていうテーマがあったんですね。年を追うごとに良くなっていくもの。そのテーマは自分にとっては「あ、ギターの話だ」って思えるもので。ヴィンテージ・ギター好きとしてね。もともとこれ、いつか映画なり絵本なり何かにしたいなと思いながら、エッセイってほどじゃないけど、すごく長い詞を書いてたんですよ。大地に種が植えられて、それが育って木になって、その森には梟の長老がいたり、ハトが「隣の山で伐採が始まった」って教えにきたり、あといろんな動物も出てきて。で、最終的に木は切られて船に乗って運ばれて、それがテーブルになったり床になったり椅子になったり、かたや楽器になったりギターになったり。それが巡り巡って今自分のところに来ている……っていうストーリー。だから、このテーマにぴったりだなと思って、ギュッと縮めてこういう曲になりましたね。


――なるほど。テーマに合わせて無理やり頭をひねっているわけじゃないと。


斉藤:そこは、そんなに考えないですね。こう言うとアレだけど、ぶっちゃけその商品が売れようが売れまいがそんなに気にしないし(笑)。もちろん、それでお互いにいい効果があればもちろん一番いいと思います。ただ最終的には自分が気に入るかどうかですかね。きっかけにタイアップがあったとしても、そのCMはせいぜい3カ月間とかで終わるわけで、その後何十年も歌っていくのは自分だから。で、自分で自分にお題を出すとだいたい同じようなテーマになるんですけど、外から来るお題って自分では思いつかないものが多いので。これはちょっと挑戦だっていう気にもなるかな。


――いい刺激であり、いいチャンスであると。


斉藤:そうですね。いい意味で期待を裏切りたいところもあるし。「そんなお題じゃ書けない」って思っちゃったら、それで終わっちゃうし負けだよな、みたいな。自分の中からは出ないお題でも、挑戦してみたら、自分で「わお、こんなのも出た!」って思えるというか。


――面白い結果になったタイアップ曲って、どれになりますか。


斉藤:うーん……「ずっと好きだった」とかはそうですね。先にCMの絵コンテもあって、出演者も決まっていて。で、いくつかあるテーマの中に同窓会っていう言葉があって。同窓会って……俺、出たこともないし。


――ないですか(笑)。


斉藤:呼ばれたこともないです(笑)。だから、まず自分では同窓会をテーマに書こうとは思わないですよね。


――そういう曲が今では代表曲のひとつになっている。面白いです。


斉藤:そうですね。いわゆる職業作家、職業作詞家とか職業作曲家みたいな人たち、昔はどこか受け入れられないところもあったんですけど。でもやっぱりそういう人たちの凄さを今は感じますよね。たとえば阿久悠さん。「透明人間」の詞をよく読むと〈透明人間 あらわる あらわる/嘘をいっては困ります/あらわれないのが 透明人間です〉とか(笑)。何言ってんの? って感じだけど、それをピンクレディーのために書いたわけで。あと同時に阿久悠さんは、実は自分の中のすごく私的なことをそのまま書いて、それをたとえばジュリーに歌わせてたんじゃないか、とか。だから職業作家って呼ばれてる人たちにも(仕事の私情の)両方あって、それを面白おかしく書いたり、より届けやすくしたんだろうなと。それは物凄いことじゃないかって、40過ぎてからですかね、思うようになって。だから、タイアップ=譲ってるみたいなイメージは俺もずっとありましたけど、それとはまた全然別物だよなって、やってみてわかった感じですかね。


・「やっぱりロックが好きだし、自分はそれをやってるんだっていう思いがある」


――いっぽうで今作には「さよならキャディラック」というストレートな怒りのナンバーもありますね。〈金が欲しけりゃ ロックンロールなんてやめな〉と歌うロックンローラーの顔が出てくる。


斉藤:そうですね。これはほんとにそのままですね。もちろん俺もダウンロードでたまに買うし、iPodも持ってますけど。そうは言っても、違法ダウンロードとかで「音楽はお金出さずにそのへんで拾ってくるものだ」っていうのは常々ふざけんなと思ってるし。まぁこういう風潮が蔓延してるから、そういう奴らにそこまでわかれって言っても無理かもしれないけど、音楽が紙クズのように扱われるのはどうにかして欲しいっていう。もちろん時代が変わっていくのは仕方ないから……あんまり考えすぎると頭ぐるぐるになってきますけど(笑)。


――今は音楽が大事にされてない時代で、最も必要とされていないのが実はロックだったりしますよね。メジャーでずっとやっていけるロックバンド自体が非常に少ないという。


斉藤:あぁ。そう…なんですかね。わかんないですけど。


――いや、斉藤和義っていうポジションはすごく珍しいんですよ。ちゃんと売れていて、でもロックンローラーとしての発信も堂々とできる。


斉藤:あぁ……。昨日、番組で初めて世良公則さんとお会いしたんです。世良さんといえば、俺が小学校の頃にツイストが出てきて「なんじゃこれ?」っていう衝撃を受けたんです。ロックって言葉はなんとなく知ってたけど「こういうのがロックって言うんだ!」って思ったし、周りの小学生たちもみーんなヤラれたしね。そういうのをわかりやすく提示してくれた方だと思う。でも、別に俺がそうなろうとは思っていないんです。曲調からしていわゆるロックだってすぐにはわからないようなもの、たぶん俺の曲には多いと思うんですけど。でも……やっぱりロックが好きだし、自分はそれをやってるんだっていう思いがある。世代もあるのかもしれないけど、そこにはこだわりたいですよね。うん、そう、ロックをやるんです、って感じですかね。


――そういう意識を持ちながら、マスに向けたヒット曲も書ける。この柔軟性ってやっぱり凄いなと思いますよ。


斉藤:……どうなんですかね? でも大好きなのがビートルズやストーンズだったりすると、そうなるのかもしれませんね。ビートルズは世界中の人が知ってるし、めちゃめちゃ売れてるし、それこそ大メジャーで。メジャーレーベルからしか出してない、でもやりたいことは全部やってる。ものすごくロックであり、ものすごくポップだし。そういう基準が自分の中にあると「売れなくていい」なんて思わないですね。売れてなきゃいけないって。だって売れることにずっと憧れがあったわけだしね。


――なるほど。今の人気に、満足していますか。それとも、まだまだ足りないと思いますか。


斉藤:どうですかね。ただ一番の望みは、今後のライヴにずっとお客さんが来てくれて、それで長く、ずっとツアーをやれたらいいなってところなので。それができるかどうか、人が来てくれるようないい曲を残せていけるかどうかは、自分にかかってるわけですからね。


(取材・文=石井恵梨子)