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姫乃たまが綴る、初の単著 『潜行』への反響 地下アイドルの面白さは世間にどう伝播していく?

2015年10月26日 19:11  リアルサウンド

リアルサウンド

姫乃たま『潜行 ~地下アイドルの人に言えない生活』

 地下アイドルの空間が閉鎖的であることに気がついたのは、いつのことだったでしょう。私服よりやや派手な衣装で歌う地下アイドルと、私服よりやや派手な推しのTシャツを着て応援するファン達。光るサイリウムと、地下にあるライブハウス。


(参考:アイドルとファンが抱える“心の闇”の正体とはーー地下アイドル・姫乃たまが考える


 私が出演していた地下アイドルのライブは、小さな村のようでした。いつもと同じ出演者、いつもと同じ関係者、いつもと同じファンの人達。誰がどの子のファンなのか、みんなが認識していて、見かけない顔の人がいると、不思議がられていました。滅多に新しい観客が増えることはないのです。


 こんな話を聞きました。CDショップでアイドルグループのCDを買い、初めてライブに足を運んで、メンバーに「CD買ったよ」と声をかけたら、訝かしげに見られたというのです。CDは曲を聴くためよりも、顔見知りのファンが応援したい一心で購入することが多く、純粋にCDを買ってライブに来た新しいファンが珍しかったのだと言います。


 アットホームなライブは閉鎖的でありながら、その場にいる人達を開放的な気分にさせます。馬が合わない友達には知られていない、秘密基地のようなものだからです。その空間には、特に取り柄のない私でも応援してくれる人がいて、私はそのことに何年も新鮮に驚き、喜びを感じていました。


 しかし、世間では地下アイドルにこのようなイメージは持たれていないようでした。秘密基地はただただ閉鎖的に見え、中でどれだけ楽しいことが行なわれているか見えないからです。私は、誰かが、もっと外の人達にもわかるように、地下アイドルの面白さを伝えられればいいのにと思っていました。そして想像していなかったことに私が、いくつかのネットサイトで文章を書く機会をいただきました。


 いざ機会に恵まれると、どのように書くべきか悩んでしまいましたが、地下アイドルの魅力のひとつに「頑張りすぎてる」ことがあると思いました。その滑稽にも思える愛嬌を伝えたくて書き始めたのが、おたぽるで連載し始めた「姫乃たまの耳の痛い話」と、この「地下からのアイドル観察記」です。いざ文章を公開してみると、地下アイドルシーンの実態は知られていないという自覚はあったものの、多くのひとにとって想像もしない世界だったらしく、予想を遥かに上回る反響があって驚きました。


 さらに驚くべきことには、私の地下アイドルに関しての文章がまとめられて、『潜行~地下アイドルの人には言えない生活』というタイトルで、一冊の本になったのです。


 出版してから最も驚いているのは、書店のサイン本が次々と売り切れていることです。地下アイドルはライブに行くと、物販で会話をすることができ、商品にサインをもらえるのが常識です。私も例に漏れず、書籍を物販していますが、ライブではなく書店でサイン本を買っている人がこれだけいるということは、面識のない人や、ライブは敷居が高いけど少し興味を持っているという人が購入してくださっていると考えられます。たしかに書籍に関する感想は、面識のない方からいただくことの方が多く、中には地下アイドルのライブに行ったことのない人もいました。驚きと喜びに、いまも襲われています。


 最近は手描きのポップを持って、書店さんにお邪魔する毎日です。『潜行』は、店によって置かれている棚が異なります。タレント本のコーナーは現在、AKB48の写真集ラッシュなので、四六判の『潜行』はなんだか肩身が狭そうです。これまで隙間産業を掲げて活動してきた私の分身みたいに思えます。


 とある書店員さんは素直に「分類できなくて困りました」と教えてくれました。「でも分類できないものほど、面白いんですよね」とも。その書店ではノンフィクションのコーナーに平積みされています。


 ポップに内容を書くとき、この本はなんだろうと考えました。表向きには業界の暴露本だと思われるかもしれません。もちろん、それでも構いません。どういう動機であれ、興味を持ってもらえるのは貴重なことだからです。


 しかし本当は、この本は居場所を探す人達の本だと思っています。衣食住が確保されたこの国で、日本独特の地下アイドルという文化の中で、地下アイドルもファンも高次的な欲求をつかもうとしています。


 出版後、いくつかの取材を受けました。最初は枕営業など過激な話ばかりに関心が向いていましたが、地下アイドルやそのファンがどういう人達で、どういう世界なのか、真摯に聞いてくださる方も増えてきました。少しでもこの本が地下アイドル界の魅力を伝えるきっかけになればと、今日も思っています。(姫乃たま)