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F1アメリカGP決勝分析:ロズベルグには逆風だった? 2度のセーフティカーに“救われた”ハミルトン

2015年10月26日 17:11  AUTOSPORT web

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2015年F1第16戦アメリカGP 決勝 セーフティカーに追走して走る、ロズベルグとハミルトン
ルイス・ハミルトンが2年連続のドライバーズタイトルを決めたアメリカGP。最終的にハミルトンの優勝を決定付けたのは、残り数周というところでニコ・ロズベルグが犯してしまった“ミス”でしたが、ロズベルグにとって一番の向かい風となったのは、27周目に導入されたセーフティカー(SC)だったように思います。

 午前中に行われた予選は完全なウエット。Q3はキャンセルされてしまうような状態でしたが、その後天候は急速に回復し、決勝レースまでには雨は完全に上がり、インターミディエイトタイヤでスタートできる路面になっていました。

 その決勝レーススタート、ハミルトンとロズベルグは並ぶように1コーナーに進入し、日本GPの再現のようにロズベルグはコース外に押し出され、4番手まで下がってしまいます。ただ、日本GPとは違ったのは、ハミルトンがそのまま逃げることができなかったこと。ウエットから路面が乾きつつある状況ではレッドブルのペースも良く、レース序盤はメルセデスAMGの2台とレッドブルの2台が順位を目まぐるしく入れ替え、接近戦を繰り広げていきます。そしてこのグループ内で一番最初にタイヤが限界に達してしまったのは、ハミルトンでした。ハミルトンは18周目を終えた時点でピットに入ってドライのソフトタイヤに交換し、コースに復帰していきます。

 限界を迎えたからタイヤを交換したとはいえ、このハミルトンのインターミディエイト→ドライという交換タイミングは、絶妙でした。その2周前の16周目、ザウバーのマーカス・エリクソンが、各車の先陣を切ってドライタイヤに交換しました(1周目終了時点でウイリアムズのバルテリ・ボッタスらがドライタイヤに交換しましたが、これはまだ時期尚早でした)が、コースに復帰したエリクソンは各セクターで自己ベストを連発し、路面コンディションはすでにドライであることを示していました。

 交換のタイミングは絶妙だったとはいえ、ハミルトンはこの戦略を活かし切ることができませんでした。それまで直前を走っていたロズベルグやダニール・クビアト(レッドブル)をアンダーカットすることができなかったのです。実は、ハミルトンと同じ周にタイヤ交換を行ったマシンが1台ありました。それが、フェラーリのセバスチャン・ベッテルです。ベッテルは17周目にピットインを行ったことで、それまで17秒以上あったトップとの差を、20周目には10秒まで縮めることに成功しています。タイヤ交換作業に若干のミスがあったにも関わらず……、ピットイン/ピットアウトの周回で攻めに攻めたのです。これでベッテルは、エンジン交換によるグリッド降格ペナルティで後方からのスタートだったのを帳消しにし、先頭争いに加わるチャンスを得たのです。

 各車がドライタイヤへの交換を終えた後、上位はダニエル・リカルド(レッドブル)、ロズベルグ、クビアト、ハミルトン、ベッテルの順でした。しかし22周目、ロズベルグがリカルドを交わして首位に、ハミルトンはクビアトを交わして3番手に浮上します。この時のコンディションは完全にドライで、レッドブルがメルセデスAMGに太刀打ちできる状況ではありませんでした。先頭に立ったロズベルグは快調に飛ばし、22周目には1.1秒だった2番手との差を、26周目までに一気10.6秒まで広げていました。この26周目にはハミルトンもリカルドを交わすのですが、ロズベルグとのペース差は1秒以上。ふたりの差はさらに開きつつあり、これはロズベルグの勝利確定か……と思われた27周目、コース上にストップしてしまったエリクソンのマシンを撤去するため、SCが出動。ロズベルグにしてみれば、せっかく築いたリードが、水の泡になってしまいました。このSCが無ければ、ロズベルグが逃げ切り勝ちを収め、ハミルトンのアメリカでの王座決定を阻止していた可能性が高いと思います。

 とはいえ、それもレース。逆にこのSCをうまく利用したのがベッテルです。それまで5番手を走っていたベッテルは、SCが入るのを見るや、すぐさまピットに入ってミディアムタイヤに交換。レースの最後まで走り切ることを選択します。ベッテルにとってさらに幸運だったのは、彼の後方を走っていたマシンも各車ピットインを行ったこと。ベッテルはポジションを失うことなくタイヤを交換することに成功します。一方、前を行く4台はピットインしないことを選択したため、古いタイヤを履いたままレース再開を迎えることになります。

 この時点で、レースはまだ残り20周以上。タイヤを交換しなかった面々が、そのタイヤのままレースを走り切るのはまず不可能です。事実、レッドブルの2台はセーフティカー解除後はペースが全く上がらず、ベッテルのみならず、フォース・インディアやトロロッソにもオーバーテイクされてしまいます。

 労せずして3番手のポジションを手にしたベッテルは、勝機すら見えるか……とも思われましたが、ここからのメルセデスAMG勢のペースは圧倒的で、37周目の時点でロズベルグとベッテルの差は9.6秒。クラッシュしたニコ・ヒュルケンベルグ(フォース・インディア)のマシンを撤去するためにバーチャルSC(VSC)が発動されると、ロズベルグがピットへ。ロズベルグはこのピットインで一時4番手に落ちますが、マックス・フェルスタッペン(トロロッソ)とベッテルを難なく交わして、タイヤを交換できなかったハミルトンに迫っていきます。

 ロズベルグのペースはハミルトンよりも明らかに速く、順位が入れ替わるのも時間の問題と思われましたが、レースはさらに荒れ、ハミルトンにチャンスをもたらします。42周目にクビアトが最終コーナー手前でクラッシュし、この日4回目(VSC含む)のSCが出動。ハミルトンはこの隙にピットインしたことで、本来ならば6番手まで落ちてしまう可能性もあったところ、2番手でコースに復帰することができ、そして再びロズベルグに挑んでいきます。

 とはいえ、ロズベルグの方が若干ペースは良く、47周目を終了した時点でふたりの差は1.6秒差となり、そのまま凌ぎ切るかと思われましたが、48周目に冒頭で述べたミスでハミルトンに首位を奪われ、その後ロズベルグは勢いを失ってベッテルにも迫られる状況。結果、ハミルトンが優勝、ロズベルグ2位、ベッテル3位で、ハミルトンが3回目の王座を決定したのです。

 勝負を決した最大のシーンが、48周目のロズベルグのミスにあったのは間違いありません。しかし、大きなリードを築いた直後のセーフティカー出動など、ロズベルグにとっては逆風とも言えるレース展開でした。逆を言えば、ハミルトンにとってはいくつもかの幸運が舞い降りたレースだったとも言えるでしょう。もちろん、レースに“タラレバ”はありませんが。またベッテルは、13番手スタートながらしっかりと戦略を組み立て、成功させ、マシンを3位でゴールさせることに成功しました。最強マシンではありませんでしたが、その勝負強さを見せつけたレースだったと言えるでしょう。

 さて次回のレースは今週末、23年ぶりのメキシコGPです。標高2000m以上という高地にあるサーキットで、エンジンには非常に厳しくなることが考えられます。さて、どんなレースになりますか。今季のチャンピオンは決まりましたが、見応えあるレースになることを期待したいものです。特に、レース後に非常に悔しそうな表情を見せたロズベルグの奮起を、見せて欲しいと思います。また、今回浮上の兆しを見せ、ダブル入賞寸前の所まで行ったマクラーレン・ホンダが、来季に向けてどんな戦いをするのかという点も、非常に興味深いところです。
(F1速報)