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東京国際映画祭、今年の注目ポイントは? 『灼熱の太陽』『FOUJITA』など話題作をピックアップ

2015年10月26日 13:31  リアルサウンド

リアルサウンド

第28回東京国際映画祭公式サイト

 現在開催中の第28回東京国際映画祭。メイン会場を六本木に移してから12年目を迎える今年は、新しく誕生したTOHOシネマズ新宿をはじめ、新宿ピカデリーと新宿バルト9の3つのシネコンや、昨年に続いてスペシャルイベントが開催された歌舞伎座など、その名に相応しく東京中を巻き込んだ大イベントへと拡大しております。すでに会期の半分が過ぎてしまいましたが、ここまでの上映作品を振り返りながら、今年の映画祭の注目すべきポイントを紹介していこうと思います。


参考:東京国際映画祭レッドカーペットに本田翼が着物姿で登場 タキシード姿の佐藤浩市がエスコート


 まずは映画祭の目玉とも呼ぶべきコンペティション部門。今年は16本の作品がサクラグランプリを目指して上映されます。11年ぶりに3作品の日本映画が選出され、その中でも注目すべきは小栗康平監督の最新作『FOUJITA』。パリ派を代表する日本人画家レオノール・フジタの生涯を描いた日仏合作の本作は、1920年代のフランスを舞台に脚光を浴び始めるフジタの姿を描く前半と、1940年代の日本で戦争画家として暮らす彼と、妻や周りの人々の生活を描き出した後半に明確に分けられ、淡々としたタッチで静かに流れていく物語に、近年の日本映画ではあまり出会えない、芸術映画の香りを存分に味わうことができます。グランプリはもちろんのこと、主演のオダギリジョーの男優賞にも期待ができます。


 他に評判の高い作品では、デンマーク映画の『地雷と少年兵』。1945年のデンマークを舞台に、海岸沿いに埋められた地雷撤去作業に動員されたドイツ兵の少年たちと、デンマーク軍軍曹との交流を描いた戦争ドラマです。目を背けたくなくなるような残酷な描写の数々の中で、戦争ドラマとして充分すぎるほどに、戦争の無力さと人間の尊厳を描き出す力強さに圧倒されます。27日で本映画祭での上映を終えますが、すでに日本での配給が決まり、来年公開予定とのことですので、再び話題になること間違いなし。


 この2作品以外にも、近年再注目のイラン映画界が放つ珠玉のドラマ『ガールズ・ハウス』や、今年のオスカーレースでも注目されるであろう実在のトランペット奏者を描いた『ボーン・トゥ・ビー・ブルー』、主演を務めたアンドロイド・ジェミノイドFが主演女優賞を獲るのではないかと噂される深田晃司監督の『さようなら』など、各国の個性が色濃く反映された作品が会期後半に上映されます。


 今年のコンペ部門審査委員長に選ばれたのは『ユージュアル・サスペクツ』などで知られるブライアン・シンガー監督。また審査員には『ノルウェイの森』のトラン・アン・ユン、昨年この部門で上映された『1001グラム ハカリしれない愛のこと』のベント・ハーメルら、日本でもファンの多い個性派映画人が顔を揃え、彼らがどの作品を推すのかにも注目が集まります。


 一方で、これまで映画祭の顔として君臨してきた特別招待作品部門。例年公開が決まっている作品を中心に20本前後の作品を上映していたこの部門は、今年は8作品と少なめ。その代わりに新しく設置されたパノラマ部門が、映画祭に華を添えます。31日からロードショー公開される『WE ARE Perfume –WORLD TOUR 3rd DOCUMENT』や、Netflix制作ですでに配信もされている『ビースト・オブ・ノー・ネーション』といった話題作がすでに上映されております。


 今年新たに設置された、JAPAN NOW部門からも目が離せません。この1年の間に公開され話題を呼んだ日本映画と、このあと公開される日本映画、さらに今日本で最も乗っている監督の作品を特集するこの部門は、どうしてこれまでなかったのだろうかと疑問に思うほど、世界に日本映画を発信する東京国際映画祭らしい部門となっております。今年は『海街diary』や『百日紅 ~Miss HOKUSAI~』といった海外の映画祭で高い評価を獲得した日本映画を中心に、11月公開の橋口亮輔監督の最新作『恋人たち』や、来年公開の山田洋次監督の『家族はつらいよ』の上映がこの後予定されております。


 さて、東京国際映画祭といえば、普段映画館で観ることができない珍しい国の作品を観られる貴重な機会としておなじみです。コンペティション部門はもちろんのこと、とくにアジア映画ファンにとっては注目せずにはいられないでしょう。昨年から、アジアの若手監督の作品をフィーチャーするアジアの未来部門と、特定の国をピックアップし、近作や有名監督の作品を上映するCROSSCUT ASIA部門が新設されました。


 アジアの未来部門で上映される10作品の中では、この映画祭でお馴染みの香港の映画監督パン・ホーチョンの弟子にあたるジョディ・ロック監督の『レイジー・ヘイジー・クレイジー』が大盛況で迎えられ、この後も、台湾の女性監督が描く青春ドラマ『The Kids』や、内モンゴル出身の女性監督の自伝的作品『告別』が上映されます。


 昨年はタイ映画の特集が組まれたCROSSCUT ASIA部門では、今年はフィリピン映画をピックアップ。昨年この映画祭で上映された『北 –歴史の終わり-』のラヴ・ディアス監督など、現在世界中の映画祭で注目されはじめている一方、日本ではほとんど観ることができないフィリピン映画。その中心的存在である若き巨匠ブリランテ・メンドーサの5作品を中心に、フィリピン映画界の先駆者イシュマエル・ベルナールの傑作『奇跡の女』のデジタルリストア版や、キドラット・タヒミックの新作も上映。残念なことに、ほとんどの作品が会期前半で終わってしまいましたが、まだ幾つかの作品で上映が残っております。この貴重な機会に一度フィリピン映画のパワーに触れてみるのもいかがでしょうか。


 そして、おそらくほとんどの映画ファンの興味の中心は、ワールド・フォーカス部門でしょう。まだ日本公開が決まっていない、世界中の有名監督の最新作や、三大映画祭で話題になった作品をお披露目するこの部門。他の国際映画祭ではコンペティションで上映されるような作品ばかりを集めた豪華なラインナップは、眺めているだけで心躍ります。


 ヨーロッパ勢からは『シルビアのいる街で』が日本でも公開されたホセ・ルイス・ゲリンの新作『ミューズ・アカデミー』や、イタリア現代映画界の巨匠マルコ・ベロッキオの『私の血に流れる血』、さらに日本でもカルト的人気を誇る『ポゼッション』のアンジェイ・ズラウスキ監督の久々の新作『コスモス』など最強の布陣。


 とくに注目すべきは、今年のカンヌ国際映画祭『ある視点』部門で審査員賞を獲得したクロアチア映画『灼熱の太陽』。若き俊英ダリボル・マタニッチ監督が手がけた本作は、クロアチア紛争の時代から三つの時代を、それぞれ異なるキャラクターの物語で構成し、民族問題をラブストーリーという土台の上で描き出した意欲作。主演の二人が、異なる時代の三つの役を演じ分けるというアイデアと、練りこまれた構図の画面から目が離せません。これは日本公開を切望する声が上がること間違いなしの一本です。


 そんなヨーロッパ勢を迎え撃つアジア勢も錚々たる顔ぶれ。韓国からホン・サンス、香港からダンテ・ラムと、近年日本でも作品が公開される人気監督を始め、インドのマニラトナムやインドネシアのガリン・ヌグロホのような映画祭でしか観ることができない実力派監督の作品が並びます。


 すでに上映は終了しましたが、ガリン・ヌグロホの『民族の師 チョクロアミノト』はとても忘れがたい大作映画でした。『アクト・オブ・キリング』で60年代の大虐殺事件が取り上げられるなど、近年少しずつ知られるようになってきたインドネシア史。オランダ領時代に活躍した、建国の父の一人であるチョクロアミノトの物語を描いた本作は、インドネシア史を知る上で最も重要な映画といえるでしょう。ヌグロホ監督は3年前のこの映画祭で上映された前作『スギヤ』で、同じく建国の為に身を投じた司教スギヤプラナタを描いており、どちらも重厚なテーマでありながら、決して重苦しくないタッチで、歴史と向き合うことができます。


 今年は前述した主要部門以外にも「ガンダム特集」や、「寺山修司特集」。没後1年を迎える高倉健さんの特集上映、7年ぶりに復活した「日本映画クラシックス」など、興味深い企画が勢揃い。共催企画として行われている「生誕100年オーソン・ウェルズ」は京橋のフィルムセンターで11月中も上映が行われておりますので、この機会に思う存分映画の世界に浸ってみてはいかがでしょうか。(久保田和馬)