2015年10月26日 13:11 弁護士ドットコム
ひとり親世帯に対して政府が支給する「児童扶養手当」。その2人目以降の子どもへの支給額の増加を要望するインターネット署名活動が10月22日に始まった。この日、署名を呼びかけている有志らは、東京・霞ヶ関の厚生労働省記者クラブで記者会見を開いた。その中には、作家で教員経験がある乙武洋匡さんの姿もあった。
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弁護士ドットコムニュースは、記者会見の模様を取材し、同日、記事を掲載した。記事の中では、乙武さんのコメントを紹介。「経済的理由で子どもたちのスタートラインにばらつきがあることに対して、現場でもどかしさを感じていた。他者と同じだけのチャンスが平等に与えられる、本当の意味で豊かな社会を作るためにも、このキャンペーンを成功させたい」という言葉を伝えた。
この記事について、翌23日の午前9時ごろ、大阪市の橋下徹市長が「これは気を付けないと低所得者に対しての逆差別になります。ひとり親かどうかではなく所得を基準とすべきです」と批判的なツイートをした。これに対して、乙武さんが「そこまで大がかりな制度転換は困難」などと反論し、ツイッター上で熱い議論が交わされた。
橋下市長のツイートに対して、乙武さんは約2時間後に反応。「ひとり親家庭のなかにも経済的に困ってない層は存在しており、そうした世帯への支給まで増やすことは逆差別につながるのではというご指摘よくわかります」と理解を示した。
その一方で、「所得」を基準に給付する制度の難しさについて投稿を続けていった。
「もしフリーハンドで制度設計できる権限があり、ゼロから理想の仕組みをつくることができるのであれば、市長ご提案の通り、あくまで『所得』を基準に給付をすべきなのかもしれません。しかし、そこまで大がかりな制度転換は困難をきわめ、また可能だとしても長い時間を要します」
「そうしたなかで、官邸が『子どもの貧困』を政治的課題と捉え、解決に向けて取り組む動きを示し始めました。それに呼応するように、厚労省も貧困率が5割を越えるひとり親家庭の支援額を増やすことに対して、前向きな検討を始めました。これは今までになかった大きな変化です」
「理想を追い求め、その実現に向けて努力をすることは重要です。しかし、たとえ理想形ではなくとも、いま目の前にある現実をしっかりと見つめ、そこへの解決策をスピーディーに実行し、人々の暮らしをわずかでも改善していく。これもまた重要なことではないかと考えております」
乙武さんの一連のツイートに対して、橋下市長は「すみません、言葉足らずでした。ひとり親支援大賛成です。大阪市も相当力を入れています。ただ根本的に突き詰めると所得を基準にしないと、両親のある家庭でより低所得の世帯が救われないことに気付きました」と釈明するツイートを返し、次のように続けた。
「ひとり親であることの不便をサポートする話と所得を補う話は別個ではないかとの結論に自分なりに至りました。サポートすることは大賛成ですが、金銭サポートは両親のある低所得者世帯との公平性も考えなければならないと」
「ひとり親だけでなく両親があっても低所得の世帯にも同じようにサポートしましょうという考えです」
乙武さんが言及した制度転換の難しさについては、「制度転換は難しくはない」との持論を展開した。
「世帯所得で児童手当の額を決めればいいだけ。問題は財源。今回ひとり親世帯には対応していますが、両親世帯の子どもが救えていません。そうであれば一世帯の給付額は薄くなるかもしれませんが世帯所得で決める方が公平とういのが持論です」(原文ママ)
さらに橋下市長は、「僕は低所得者世帯の子どもの教育環境を何とか改善したいという思いでやってきました」として、大阪市が全国で初めて取り組んでいる「教育バウチャー制度」に言及した。
「一月一万円の教育バウチャー制度を始めています。これで塾に通ってくれています。ひとり親のみならず低所得世帯の子どものサポート。政治の仕事です」
「僕は低所得世帯に限らず、生まれてから大学まで教育費完全無償化の国を目指したいですね。日本のあらゆる課題解決に繋がると考えております。またお話しさせて下さい」
これをうけて乙武さんは「市長ご指摘の通り、ひとり親家庭に限らず、苦しい立場にある人に適切な支援が行われることが何より肝要と考えます」「私も教育の力を信じ、私にできるかぎりの尽力をしてまいりたいと思います」とツイートした。
橋下市長も「お会いできるのを楽しみにしております」とツイートし、2人の意見交換は終了した。
乙武さんと橋下市長のやりとりに対して、ネット上では「『子供に平等なチャンスを』橋下さんも乙武さんも、根っこは同じなんだと思った」「橋下さんと乙武さんの様に、知的に情熱込めて意見を交わされたら、世の中もっと建設的に変化しそう」といった反応が見られた。
(弁護士ドットコムニュース)