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『トランスポーター イグニション』は新たな才能を発掘するか? ヨーロッパコープ映画の魅力と役割

2015年10月26日 07:11  リアルサウンド

リアルサウンド

(c)2014 – EUROPACORP – TF1 FILMS PRODUCTION/Photo:BrunoCalvo

 いよいよ10月24日より公開が始まる『トランスポーター イグニション』。ジェイソン・ステイサムを一躍スターダムにのし上げた『トランスポーター』シリーズの実質リブート作であり、リュック・ベッソン率いるアクション映画シーンの雄「ヨーロッパコープ」映画の最新作だ。


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 ベッソンと言えば、90年代『グラン・ブルー』『レオン』『ニキータ』などの傑作を生み出し、時代の寵児となった男だ。そんなベッソンが2001年に設立した映画スタジオがヨーロッパコープである。このヨーロッパコープが、年々アクション映画シーンで存在感を増してきている。


 ヨーロッパコープのアクション映画は、基本的にベッソンが制作・脚本を担当し、監督は別の人間が担当するというスタイルになっている。この体制の下、多くの作品が生み出されたが、そのストーリーはすべて「圧倒的に強くてカッコいいヒーローが、同情の余地もない極悪人を叩きのめす」と要約できる。付け加えると、美女のセクシーなシーンと、ド派手なアクションもお約束だ。ヨーロッパコープのアクション映画は、基本的にこのスタンスを崩すことはない。ほとんど紋切型と言ってもいいだろう。


 しかし、そんな量産を念頭に置いた体制だからこそ、監督や主演の手腕や、俳優の個性が問われるのだ。そういう意味では、往年のロジャー・コーマン映画のようでもある。コーマンは低予算のB級映画を量産した映画プロデューサーだが、彼の下からは多くの偉大な映画人が生まれた。フランシス・フォード・コッポラ(『地獄の黙示録』『ゴッドファーザー』)、ジェームズ・キャメロン(『タイタニック』『アバター』)などの一流映画人が、コーマンの下でキャリアをスタートさせたのは有名な話だ(劣悪な現場で凄まじく苦労したらしいが)。いわば、そこは映画人たちの修行の場だったのである。一部のファンはそんなコーマン体制のことを、「コーマン学校」とも呼ぶ。そしてヨーロッパコープも、いわば「ベッソン学校」なのだ。


 例えばそれまで脇役ばかりだったジェイソン・ステイサムを『トランスポーター』で主役に抜擢し、アクションスターとして大ブレイクさせた。近年では、それまでアクションのイメージのなかったリーアム・ニーソンを主演に『96時間』を大ヒットさせ、多くのフォローワーを生み出すことになった。また、俳優だけではなく、『トランスポーター』の監督であるルイ・レテリエは、同作の続編やジェット・リーの『ダニー・ザ・ドッグ』などをベッソンの下で監督し、『インクレディブル・ハルク』『グランド・イリュージョン』などの大作を任される人気監督の一人となった。彼らは皆、ベッソン学校の卒業生とも言えるだろう。


 『トランスポーター イグニション』は、そんなベッソン学校の「生徒」であるカミーユ・ドゥラマーレの監督作品だ。カミーユはヨーロッパコープの編集マン出身で、本作が監督2作目である。編集出身らしく、全編をテンポの良くまとめている。アクションシーンの迫力や、コミカルなシーンの間の取り方など、すべてが堅実だ。その手腕から、今後も幅広く活躍することが期待される。主演のエド・スクレインはステイサムに比べると存在感で見劣りするのは否めないが、一方で主人公の父親を演じる助演のレイ・スティーブンソンが輝いている。レイは『パニッシャー ウォーゾーン』のパニッシャー役など、強面なイメージの強い役者だが、本作では自分を拉致した女性を口説き出すなど、コミカルな中年男性を好演している。


 ヨーロッパコープ映画は、きっとこれからも一定クオリティのアクション映画を量産し続けるだろう。そこから新たな才能が排出されることもあるだろうし、俳優の新境地が開拓されることもあるはずだ。『96時間』のように、映画界に一つのトレンドを巻き起こすこともあるかもしれない。いわば未来の才能を青田買いできるのだ。これこそ、ヨーロッパコープ映画の最大の魅力といえるだろう。(加藤ヨシキ)