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Silent Sirenの“硬派な音楽性”はどう確立したか 活動スタンスから紐解く

2015年10月25日 17:21  リアルサウンド

リアルサウンド

Silent Siren『alarm(初回生産限定盤)(DVD付)』

 Silent Sirenが11月4日にリリースするシングル曲「alarm」のミュージックビデオが公開されている。日本テレビ系列ドラマ『いつかティファニーで朝食を』の主題歌になっており、台本を読んで、すぅ(Vo.&Gt.)が書き下ろしたという。印象的なイントロのギターストロークで始まり、哀愁感ある刹那メロディーを、透明感のあるすぅの歌声が優しい表情を見せながら包み込んでいく。少し肌寒くなった今の季節の朝にぴったりな曲である。


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 今年1月にはデビューから2年2ヶ月という女性バンドとして最速となる日本武道館公演を成功させ、4月からは全国ツアーを実施、7月には香港・台湾公演も行った。8月には昨年より主宰している<サイサイフェス>で片平里菜、パスピエ、9nineらを迎え大盛況を収めた。今、まさにノリに乗っているガールズバンド“サイサイ”であるが、振り返れば「全員が読者モデル出身」という肩書きが武器となる反面、「ちゃんとバンドとして見られない」といった偏見や誤解もあったりと、苦悩と葛藤にまみれながらの活動でもあった。一方で、バンドに対する実直な姿勢に「意外とガチ」などの声があったりもする。少なくとも、“キュートなガールズバンド”といった安易な言葉で片付けることの出来ない魅力がサイサイにはある。


■ひたむきなバンド活動


 改めて説明すれば、企画的に集められたわけでもなければ、「人気モデルがバンド組んじゃいました」という軽いノリでもない。読者モデルとして活動していた吉田菫(すぅ/Vo.&Gt.)と、梅村妃奈子(ひなんちゅ/Dr.)が撮影現場にて音楽の話で意気投合。楽器経験もあった二人が「バンドをやろう」とメンバーを集めるところから始まった。「モデルで稼いで、そのお金をバンド活動に費やす」というアマチュアバンドと何ら変わりのない地道なプロセスを踏んでいる。「練習スタジオの深夜パックは安いし、カップラーメンがついてるから」というバンドマンなら誰もが経験する道を通りながら活動をしてきた。朝から楽器を担いでモデルの撮影現場に行き、夜はスタジオでバンド練習といった、二足のわらじともいえる自発的な活動を続け、頃合いを見計らいバンドを組んでいることを所属事務所へ報告。「バンドやりたいんで、もうモデルやりたくない」「ソロならやりません」という、すぅの決意表明であった。


 読者モデルのバンドだからといって、華々しくデビューを飾ったというわけでもない。イベント出演、ライブハウスからのスタートで地道に動員と人気を伸ばしてきた。読モとしてカリスマと呼ばれるほど人気があったとはいえ、それがイコール動員に繋がるというわけでもなかった。読モのファンからは「応援してます」と声を掛けられてもバンドとしての姿は知られず、音楽ファンからは「読モがやってる企画モノ」といった目で見られるという、どっちつかずの状態である。そうした悔しさを胸に、ひたすら練習に打ち込んで、メジャーデビューまで2年半、ひたむきなバンド活動を歩んできた。現に、モデルとしてすでに事務所に所属していたすぅ以外のメンバーは、メジャーデビューまで事務所に所属していない。


 ひなんちゅがメジャーデビュー時にブログで綴った「アイドル、ユニット、色々言われてもいいです。わたしたちは、『バンド』です。それを知ってもらえてないのは、わたしたちがまだまだだから」という気持ちは、たとえ音量規制などで音響的にみれば正直限界もあるショッピングモール等でのイベントにおいても、バンドの生演奏にこだわり、アンプや電子ドラムに至るまでの機材をフルセットで持ち込む姿にも現れている。


■硬派なバンド


 サイサイのバンドとしての特徴は、“質の高い歌モノ楽曲”をストレートにきっちりやるということだろう。突飛な音楽性でもゴリゴリなサウンドでもない。では、ありきたりのポップロックなのか?と問われれば、そういうわけでもない。「~っぽい」という印象をまったく受けないのだ。タイトなリズムに、ツボを抑えたベースライン、歯切れ良く刻まれるギター、アナログシンセ的なキーボードがきらびやかに華を添える。そこに印象的な歌声のキャッチーなメロディーが乗っていく。奇抜なサウンドアプローチやバンドサウンドを分厚くするためのギミックは施されていていない。音圧のあるディストーションギターや音数を重ねていくようなオーバーダビングとは別方向のサウンドが一貫して構築されており、驚くほど削ぎ落とされたシンプルなものである。ピアノやストリングスがフィーチャーされるバラードでも、この基本サウンドは崩さない。バンドの基本姿勢ともいえる、誤魔化しの効かないところで勝負しているとも取れる。奇をてらうような個性際立つ音楽とサウンドを持つバンドが多い中、こうした硬派な音楽性を貫いているバンドも珍しい。それが彼女たちの個性にもなっているのである。


 「サイサイのアルバムに捨て曲ナシ」というと乱暴な言い方になるが、それぐらいどの曲も非のうちどころのないキャッチー性とポップ性を共存させている。アルバムを通してみてもシングル曲のみ際立つということがないのである。大半の楽曲を制作しているのはクボナオキ。サイサイのサウンド・プロデューサーでもある。ひなんちゅの同級生であり、バンド結成当初は同じステージに立つメンバーでもあった。活動途中でサイサイをプロデュースする裏方に回っている。しかし、表に出てこないだけで、制作現場はもちろんのこと、メンバーからも「なおきゃん」の愛称で話題に上がることも多く、今でも正式メンバーといっても過言ではないだろう。クボの他に楽曲制作に関わっているのは、今年9月24日に31歳という若さで亡くなったVOCALOIDのクリエイター、samfreeだけである。


 外部プロデューサーを迎えたり、他アーティストからの楽曲提供を受けるバンドも少なくはないが、サイサイはそれが行われていない。その必要性がないほどに、バンドとしての確固たる意思と明確なビジョンが存在し、それをちゃんと理解しているマネジメント側との信頼関係が築かれていることがわかる。もし、彼女たちが話題性だけに重きをおいた“ただの読モバンド”であるのなら、早い段階でそうしたことが行われていたことだろう。クボが曲を書き、メンバーが詞を書いて、バンドとして全員でアレンジを煮詰めていく。結成当初から変わらないスタンスであり、実質のセルフプロデュースである。


 女子力全快のキラキラオーラといった印象の強かった彼女たちだが、「技術面でやれることが増えた」と語る、現時点での最新アルバム『サイレントサイレン』(2015年2月リリース)では、飛躍的な音楽性の広がりを見せた。骨太なロック「Routine」、オルタナティブ・ロック全快の「女子校戦争」、4つ打ちのようで4つ打ちではないダンスナンバー「DanceMusiQ」など、今まで見られなかった新境地を開拓している。だが、新たな側面を見せながらも、どこをどう聴いてもサイサイの楽曲に仕上がっていることが特筆すべきところでもある。増やしていく“足し算式”ではなく、要らないものは削ぎ落としていく“引き算式”なアレンジとサウンドメイクの賜物でもあるだろう。


 シンプルなサウンドを全体的にスッキリとしたミックスダウンとマスタリングで仕上げていることも特徴的である。低音と高音が強調された“ドンシャリ”サウンドや、音量ピークをギリギリまで追い込んだコンプレッション強めのザラついたサウンドの派手な音作りとは真逆のアプローチだ。図太いスネアドラムが司るドッシリとしたバンドサウンドに支えられ、歌がハッキリと前面に出たミックス。ある種、古き洋楽的なベクトルを向いているところが興味深い。これは圧縮音源などではなく、ちょっと良質なスピーカーやヘッドフォンでじっくり聴いてみることをお勧めする。すぅの透明感ある歌声から響く倍音や、シンバルの伸び切った残響まで、細部に渡り丁寧に仕上げられたサウンドを堪能できるはずである。


■ライブに見るバンドらしさとエンタメ性


 ライブに目を向けてみよう。技術を誇るようなバンドではないが「バンドが好き、楽しい」といった健気な心意気を感じる“説得力のある”演奏だ。特にリズム隊の放つグルーヴは特筆すべきだろう。ブレのない上半身、ひなんちゅの凛々しいドラミングが繰り出す、平静にして正鵠を射るかのごとく図太いスネアのショット。粒立ちの揃ったロールと間の取り方が絶妙なフィルは、楽曲の抑揚とアンサンブルの要として大きなフックになっている。あいにゃん(Ba./山内あいな)の楽曲とサウンドを支える役割としての安定感を持ちつつも、時折うねりをあげるメリハリを利かせたベース。そして、ベースが動けばドラムはシンプルに、ドラムが動けばベースはシンプルに、といった巧妙なリズムアンサンブルが練られていたりもする。


 硬派なバンドの姿勢を見せながらも、決して斜に構えることはせず、可憐なヴィジュアルを活かし、アイドル的な部分を否定することもしない。そこのバランス感覚が絶妙だったりする。“青文字系”読モのメンバー内で唯一の“赤文字系”出身ながら、最もアイドル特性の高いゆかるん(Key./黒坂優香子)の煽動する“振り付け”や、テレ朝動画『サイサイてれび!~おちゃの娘サイサイ~』に付随するような「サイサイコーナー」と呼ばれるバラエティ要素をライブにブチ込んでくるのも、彼女たちならではのエンターテインメント性である。


「アイドル的な見方をする人もいるだろうし、バンドとして見てくれてない人もいるかも知れない。でもどんな形で見られていても、最終的に好きになってもらえればいいと思ってるんです」ーーゆかるん Silent Sirenアーティストブック『CHIRANAIHANA』(2015年)より


 今の4人に迷いは微塵もない。いや、迷いなどは始めからなかったのだ。「根拠のない自信だけで、ここまでやってきた」と、すぅは武道館で語った。“根拠のない自信”ほど、頼もしく無敵なものはないだろう。


 Silent Sirenというバンドの信念を貫きながら“自分たちにしか成し得ないモノを突き詰めていく姿”を見ていると、読モバンドだとか、アイドルバンドだとか、ロックバンドだとか、そんな上辺のカテゴライズが無意味なほど、バンドとして、アーティストとして、表現者としてのあるべき“かたち”が見えてくるのである。(冬将軍)