前回の記事には配信先を含め、多数の批判とともに様々な意見をいただきました。意見の中に「だったら大卒ではなく、高卒を採用しろよ」といったものもありました。まさにおっしゃる通りです。では、なぜ企業は「大卒」を採用条件にするのでしょうか?
大学全入時代を迎え、昔は有効だった「大卒なら優秀」という状況が大きく変わったのは間違いありません。にもかかわらず、採用条件に「大卒」が求められることが多くあります。その理由はなぜか。私の経験と他社の経営者や採用担当者から聞いた話をご紹介します。(文:河合浩司)
「多少確率が上がる」くらいでも助かる
新卒で大卒を採る理由には、大きく3つあります。1つめは、なんと言っても「優秀な人は非常に優秀」ということです。特に少数のトップレベルの人材を確保したい大企業であれば、有名大卒でフィルターをかける合理性があります。
「大卒であれば確実に優秀」とは言えないものの、やはり大人顔負けの立派な学生がいます。彼らと会えるのは新卒採用、それも上位校の学生に比較的多い傾向があります。実際には有名大卒でも人材の質にかなりの幅があるものの、採用にかけられる人員と時間を少しでも削りたい会社は、「多少確率が上がる」くらいでも大卒を対象とする理由になっています。
特に理系の採用では、基礎的な専門知識を入社前から持ってくれていることは企業にとって大いに助かります。会社のニーズによって大学の専攻と異なった分野の業務に就くこともありますが、それでも「素養」というものが違います。ここは普通の高校生とは決定的に違う点です。
2つめは「高校生よりは多少大人になっている」ということ。単純に年齢的なものですが、18歳から21歳になると、誰もが大人びてきます。月並みな表現をすると「落ち着いてくる」といったところでしょうか。
高卒新卒者を採用している採用担当者に聞くと、「やっぱり大学生より我慢が苦手かな」という答えでした。年齢を重ねることで解決することもあるでしょう。学校がバイト禁止で、親以外の大人と話す機会がほとんどなかった高校生もいますので、多くの大人に囲まれる「会社」という場所になじみにくい場合もあります。
中卒・高卒の採用が不自由すぎるという問題も大きい
若くして「社会人」になるリスクもあります。ある経営者から聞いた話なのですが、高卒の新入社員が仕事を頑張ってくれたから、給料を多めにあげていたら、「金遣いが荒くなってトラブルに巻き込まれて」退職せざるをえなくなったそうです。お金の使い方を知るためにも、大学生のように「自分で稼いで自分で使う」ことを高校生のうちから慣れさせてあげる方がいいのかもしれません。
3つめの理由は、身もふたもない表現をすると、現状の制度では「新卒採用が自由にできて一番やりやすいから」です。未成年を対象とする中卒・高卒は、ハローワークの介在により「自由に会えない」「面接の質問が限られている」などの規制が多く、採用時のマッチングを十分に図りにくいのが現状です。
弊社としても高卒採用を広げようとしているのですが、あまりに採用が不自由なので「だったら、大卒の方が採用業務を進めやすいし、それでいいじゃないか」という声が社内でも出ています。
いずれの理由にしても、優秀で働く気まんまんの高卒生にとっては気の毒な障壁といえるでしょう。そういう生徒に対しては「それなら大学に行けばいいじゃないか?」と安易に言いにくく、高卒でも採用する企業が増えればいいのにと思えてなりません。
「大卒が必要な業務ではない」のに書いているところも
中途採用でも、大卒が求められる理由があります。それは「高卒OKにすると求人が殺到して対処できないから」です。特に事務職の中途採用になると、数名の採用枠に応募が殺到することも珍しくありません。
知人の会社で起こった話ですが、社員6名の小さな企業が「学歴不問・事務職」でハローワークに求人を出したところ、100名近くの応募があったそうです。しかもハローワークとの関係で、全員を面接せざるをえなくなり、日常業務に支障が出てしまったとのこと。
以後、やむをえず「大卒」と書くようになったそうですが、「大卒が必要な業務ではないのですが」とこぼしていました。このような消極的な理由も含めて「大卒を採用する」のは、あくまで一つの手段でしかありません。適性を持った若い人材が能力を活かせる職場につながるよい方法を、なんとか開発したいと考えているところです。
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