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「誰かが自分を監視している!」 幻聴、幻覚に襲われる「統合失調症」の壮絶な実態

2015年10月24日 11:40  キャリコネニュース

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世の中には、実に色々な人がいる。僕のような平凡な人間にとってみれば、自分の理解の範疇を超えるほどの病に苦しむ人々の存在は、時に大きな衝撃となる。自分の無知を恥じるとともに、住む世界は同じはずなのに、目にしている景色が全く違うように感じられる人々と、これまで数人ほど出会ってきた。

10月21日放送の「ザ!世界仰天ニュース」(日本テレビ系)で、「誰かが自分をバカにしている…恐怖の幻聴と闘う!」と題した特集が放送された。キャリコネニュースの編集さんに「おう、サンダーバードの再放送ばっか観てねえで、たまにはこういうのも観ろ」と言われ、この放送を観ることにした。(文:松本ミゾレ)

原因は中学時代のいじめ、19歳のころから幻聴に悩まされる

山梨県在住の佐久本庸介さんは現在31歳。一見するとどこにでも居そうなルックスの佐久本さんは、もう10年以上もある病と闘い続けている。その病名は、統合失調症。

統合失調症とは、日本では100人に1人が発症するといわれる精神疾患の一種だ。発症のきっかけは人それぞれ。家庭環境に原因があるというケースもあれば、それ以外の人間関係が起因して発症するケースもあるという。

佐久本さんの場合は、中学時代のいじめが原因となった。元々肌が弱かった佐久本さんはフケが目立つということでいじめの対象となり、クラスメイトの目を気にするようになった。次第に友達から孤立するようになり、高校生になってからも一人ぼっち。大学に進学後も周囲と上手くなじめず、いわゆる大学デビューにも失敗した。

その後、周りの人がなにか噂話をしているだけで、「自分の悪口を言われているのでは?」と思い込むようになっていった。そして19歳の夏の夜、決定的な出来事が起きる。

一人暮らしをしているアパートで肌のケアをするためのクリームを塗っていると、「今日も塗ってるね」「塗ってる塗ってる」という話し声が聞こえてきた。驚いて中断すると「やめるの?」という声が。もちろん、部屋の中には自分以外誰もいない。

監視の恐怖から引越しをするも幻聴が止まず、やがて入院

佐久本さんはその話し声に聞き覚えがあった。隣の部屋の住人のものとそっくりだったそうだ。この日以降、似たような現象が頻発するようになり、隣の住人の、自分をあざ笑うような声がはっきりと聞こえるようになっていった。

自分はどこかで監視されている思い込んだ佐久本さんは、玄関の覗き窓をテープで塞いだり、盗撮されているのではないかと、部屋中をひっくり返したりするようになった。しかし、幻聴はいつでも、どんなことをしていても聞こえるようになった。

やがて恐怖心から、佐久本さんは引越しを決意した。これで隣の住人から逃れられる……そう思ったのも束の間。今度は家の外や大学の教室にいても声が聞こえるようになった。もちろん、実際には誰も彼を監視していないし、悪口も言っていなかった。

番組によると、日本には現在、統合失調症で通院している患者は79.5万人。入院患者は10万人いるとされる。100人に1人が発症するというだけあって、非常に膨大な数に上っているというのが率直な感想だ。

発症メカニズムは解明していないが、一説には脳内の情報を伝達する神経伝達物質のバランスが崩れることで様々な症状が出ると考えられている。妄想、幻聴、幻覚が発生するのがこの疾患の特長だ。しかし、当人にとってそれは妄想でもなんでもなく、現実のことと認識してしまうのが、この病気の恐ろしいところだ。

佐久本さんの場合、酷い状況になるとひっきりなしに幻聴が聞こえて、とうとう幻覚も見えるようになった。幻聴に反応して独り言もいうようになり、異変に気づいた同級生が両親に連絡。両親の勧めで病院に行き、しばらく入院することとなる。

小説を読んでいる間は幻聴が聞こえないことに気づく

統合失調症の基本的な治療方法は、心理的治療と投薬の2種類がある。投薬治療では向精神薬などで過剰分泌される脳内物質の量を調整し、幻覚や幻聴などの症状を改善していく。

入院時、佐久本さんは絶えず無気力感に襲われていた。これも統合失調症の陰性症状であった。さらに投薬の副作用で手が震えるようになる。しばらくして病状が少し落ち着いたので一旦退院することとなったが、相変わらず幻聴は聞こえ続けた。

再度病院に戻り、今度は2か月の入院生活を送ることとなった。そんな彼に医師が、薬の量を減らすことを提案する。

向精神薬の効き目には個人差があり、量を患者ごとに細かく調節しないと効果が上手く発揮できないというのである。さらに佐久本さんは入院時に、小説を読むという習慣に出会う。これも症状の改善に効果があった。小説を読んでいる間は、不仕事と幻聴に悩まされることもなかったそうだ。そして、今度は医師のすすめでリハビリ施設にも足を運ぶようになる。

ここで出会った職員との交流によって、少しずつ病気だけではない、自分自身も見つめなおすようになった。そして、読み続けてきた小説にインスパイアされ、自分でも小説を書くようになった。

完成した小説をインターネットに投稿すると、読者から好評化をもらった。佐久本さんは少しずつ自分に自信を持つようになる。そして、昨年ある文芸賞で新人賞を受賞。今年6月にデビュー作「青春ロボット」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を発売している。

統合失調症からの回復には周囲のサポートが必須

ところで、僕には少し以前、統合失調症に苦しむ交際相手がいた。付き合ってみて分かったことは、ともかくこの病気は、本人だけの努力ではどうしようもないということだ。家族と恋人の献身的なサポートが、かなり重要になってくる。

こうして文字にするのは簡単だけど、僕はこれができなかった。統合失調症は、きっと実際に自分がその症状を味わわないと、本当の意味で親身になって一緒に完治を目指すことは難しい。

それから、統合失調症についての造詣の深い医師の存在も同じぐらい重要だ。多くの症例を見てきた医師の助けが何より重要なのに、安心できる医師はなかなか多くない。見えないもの、聞こえないものに混乱する者を、統合失調症ではない人間が救うことは、一朝一夕にできることじゃない。病状に悩む当人も苦しいが、周囲で支える人間も相当に苦しい日々を送っている。

統合失調症という病のメカニズムが解明され、完璧な治療法も確立されれば、日本で100人に1人いるとされる全ての患者と、その家族や恋人、友人が、どんなにか救われるだろう。そんな日が、明日にでも訪れることを、涙を流しながら待っている人々が、私たちの周りに存在している。

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