いよいよ明日開幕を迎える、フォーミュラEの第2シーズン。昨年はワンメイクマシンで争われていたフォーミュラEだが、今季からはパワートレインの開発が解禁されており、その勢力図がどうなるか、注目されるところだ。
第1シーズンのパワートレインは、マクラーレン製のMGU(モーター・ジェネレータ・ユニット)1基とヒューランド製5速ギヤボックスを組み合わせていた。しかし第2シーズンからは、MGUの開発が自由化されたばかりではなく、最大2基までの搭載が可能となった。また、ギヤボックスは最大6速と規定されているのみ。つまり、チームにとってはMGUの数、そしてギヤレシオの選択において自由度が格段に広くなり、第2シーズンに向けてもそれぞれ考え方の違いが如実に現れ、この点だけでも実に面白い。
オフシーズンのテストは、8月10~11日、8月17~18日、そして8月24~25日の合計6日間にわたって、英国のドニントン・パーク・サーキットで行われた。このテスト結果を基に、今季の勢力図を少し占ってみると共に、各チームが選択したパワートレインの概要をお知らせしていこう。
オフシーズンテストでベストタイムをマークしたのは、アプト・シェフラー・アウディ・スポートのルーカス・ディ・グラッシ。唯一1分30秒を切る、1分29秒920だった。ディ・グラッシは、フォーミュラEの初代ウイナー。チームもアウディとシェフラーという協力なバックアップを得て、今季も上位を争うことが予想される。まさにトップグループの最有力候補と言って過言ではないだろう。チームメイトのダニエル・アプトも2番手タイムを記録しており、その速さは疑いようの無いところ。しかも、ふたり合わせて245周と順調に周回数を重ねており、死角は感じられない。彼らは1基のMGUを搭載し、ギヤボックスは3速である。
同じく自動車メーカーの強力なバックアップを受けるルノー・e.ダムスも、チャンピオン最有力候補のひとつ。昨年同様、セバスチャン・ブエミとニコラス・プロストのドライバーコンビも安定している。そして、チーム名が示すとおり、ルノーとの協力関係も強化された(昨年はe.ダムス・ルノーというチーム名だったが、今季はルノーの名が前に出されている)。パワートレインもルノー・スポール製であり、初年度の結果を活かして上位を争うパフォーマンスを発揮する可能性は高い。そして特筆すべきは、アプト・シェフラー・アウディ・スポートの倍近い、426周というオフシーズンの周回数。速さもさることながら(ベストタイムはアプト・シェフラー・アウディ・スポートに次ぐ2番手)、その走破距離は驚くべきもの。チームタイトル連覇はもちろん、初年度は寸前のところで逃してしまったドライバーズタイトルの栄冠を、今季こそ掴み取りたいところだろう。ルノー・e.ダムスもMGUは1基ながら、ギヤボックスは2速である。
さらに今季より自動車メーカーの支援が加わったのが、ヴァージン・レーシング。プジョー・シトロエン・グループのブランドであるDSがパートナーになり、チーム名もDSヴァージン・レーシングと改められた。マシン名にも“DSV-01”と、DSの名が入る。巨大自動車メーカーグループの技術支援が、チームを強力に後押しするのはもちろん、第1シーズン2勝のサム・バードに加え、デビュー初戦からポールポジションを獲得するなど速さを見せた、ジャン-エリック・ベルニュをアンドレッティから迎え入れ、ドライバー陣も強化されている。しかもDSヴァージンはMGUを2基搭載し、ギヤボックスは1速。オフシーズンのテストでもしっかりと周回を重ねており、上位争いの一角にいることは間違いなさそうだ。
これに次ぐのは、インド国籍のマヒンドラ・レーシング。昨年序盤~中盤にかけては速さを見せたが、終盤にかけて失速。チームランキングも下位に沈んだ。しかし、このオフのテストは好調のうちに終えており、415周を走行して、4番手のタイムを記録している。ドライバーは、前期から残留のブルーノ・セナと、F1での実績も豊富なニック・ハイドフェルド。いずれもまだフォーミュラEでのトップチェッカーはなく、悲願の優勝を目指して戦う。マヒンドラはMGUこそ昨年ワンメイクとして使用されたマクラーレン製を1基搭載という形だが、ギヤボックスは新規開発の4速仕様である。
ドラゴン・レーシングとベンチュリ・フォーミュラEチームは、共にベンチュリ製のパワートレインを搭載した“VM200-FE-01”を走らせる。両チーム合わせて811周を走破させており、その信頼性の高さは脅威。なおVM200-FE-01は、マヒンドラ同様昨年仕様のマクラーレン製MGUを1基搭載し、4速の新規開発ギヤボックスを組み合わせたものである。ドライバー陣は、第1シーズンでも安定した速さを見せたジェローム・ダンブロジオとロイック・デュバルがドラゴンから参戦、そしてベンチュリはステファン・サラザンを起用する。そして特に注目を集めているのは、F1王者として初めてフォーミュラEに挑むジャック・ビルヌーブがベンチュリ入りを果たし、どんな走りを見せるのかという点。2006年以来のフォーミュラカーでのレースだが、オフシーズンに217周を走行しており、習熟度は十分だろう。本人も「音が無いのに慣れるまでに数周を擁したけど、ドライブ自体は問題ない」と語っている。
チーム・アグリは、昨年と同じパワートレインを使用するチーム。1年間にわたって使われた、その信頼性が最大の武器だ。ドライバーは昨年1勝を挙げたアントニオ・フェリックス・ダ・コスタと、新人のナタナエル・ベルトン。ただ、ダ・コスタはオフシーズンに1周も走行しておらず、今季仕様のマシンにどこまで対応することができるのか? 不安視されるところだ。
アンドレッティには、第1シーズンにチーム・アグリをスポンサードしていた保険会社アムリンが、第2シーズンよりメインスポンサーについた。見た目は、昨年のアムリン・アグリのマシンにそっくりだ。パワートレインは新規に開発を進めていたもののトラブルに見舞われてしまったため、チーム・アグリ同様第1シーズンに使用したパワートレインをそのまま搭載することになった。ドライバーは、昨年の最終戦ロンドンePrixの2レースにスポット参戦したシモーナ・デ・シルベストロと、今週末がフォーミュラEデビュー戦となるロビン・フラインスという、いずれもフォーミュラE経験が少ないコンビである。
フォーミュラEの初代チャンピオン、ネルソン・ピケJr.を擁するネクストEV TCRは、オフシーズンテストで周回数こそ重ねた(221周)ものの、タイムシート上では下位に沈んでしまい、不安なシーズン開幕となってしまいそうだ。彼らもDSヴァージン同様、ツインMGU/1速ギヤボックスを採用しているが、この性能に難があるのか? その答えは開幕戦で見ることができるだろう。
ドライバーは前出のピケJr.に加え、スーパーGTでも活躍中のオリバー・ターベイを起用。ターベイは昨年のロンドンePrixの2レースのみフォーミュラEを経験したが、初戦にも関わらず速さと適応力の高さを見せた。今季はフル参戦するとしており、その活躍に注目が集まる。
最も大きな不安を抱えたままシーズンインするのが、トゥルーリ・フォーミュラEチームだ。第1シーズンでチームオーナーを務めながらステアリングを握ったヤルノ・トゥルーリが退き、F1やスーパーGTで活躍したビタントニオ・リウッツィと、昨年はチーム・アグリに在籍していたサルバドール・デュランにコクピットを託す。しかし、マシンの仕上がりは実に不安。6日間のテストで僅か7周しかこなすことができず、計測周回を行うこともできなかった。Motomatica JT-01と名付けられたマシンは、1基のMGUと4速ギヤボックスでパワートレインを構成するが、信頼性が著しく損なわれているようだ。チームは第1シーズンのワンメイクパワートレインに戻すことも検討したものの、結局はMotomaticaのパワートレインで、北京ePrixに臨むようだ。
このように、チームによってMGU、そしてギヤ数が大きく分かれたフォーミュラE第1シーズン。まさに開発競争がここから始まった……そんな印象を感じさせる。また、レース中の最大出力が引き上げられるなど、第1シーズン以上に戦略面でも非常に難しくなりそう……より深く、見応えあるレースが展開されそうな予感だ。
フォーミュラE第2シーズン開幕戦北京ePrix決勝は、10月24日(土)17時(日本時間/現地時間16時)スタート予定。日本でも、CSテレ朝チャンネル2で生中継がされると共に、オンボードカメラ映像のインターネット生中継(http://fe-live.jp)も視聴することができる。
■フォーミュラE 2015-2016シーズン開幕戦 北京ePrixエントリーリスト
1. ネルソン・ピケJr.(ネクストEV TCR/ネクストEV TCR フォーミュラE001/MGU2基/1速)
2. サム・バード(DSヴァージン・レーシング/ヴァージン・レーシング・エンジニアリングDSV-01/MGU2基/1速)
4. ステファン・サラザン(ベンチュリ/ベンチュリVM200-FE-01/MGU1基/4速)
6. ロイック・デュバル(ドラゴン・レーシング/ベンチュリVM200-FE-01/MGU1基/4速)
7. ジェローム・ダンブロジオ(ドラゴン・レーシング/ベンチュリVM200-FE-01/MGU1基/4速)
8. ニコラス・プロスト(ルノー・e.ダムス/ルノーZ.E15/MGU1基/2速)
9. セバスチャン・ブエミ(ルノー・e.ダムス/ルノーZ.E15/MGU1基/2速)
10. サルバドール・デュラン(トゥルーリ/Motomatica JT-01/MGU1基/4速)
11. ルーカス・ディ・グラッシ(アプト・シェフラー・アウディ・スポート/アプト・シェフラーFE01/MGU1基/3速)
12. ジャック・ビルヌーブ(ベンチュリ/ベンチュリVM200-FE-01/MGU1基/4速)
18. ビタントニオ・リウッツィ(トゥルーリ/Motomatica JT-01/MGU1基/4速)
21. ブルーノ・セナ(マヒンドラ・レーシング/マヒンドラM2ELECTRO/MGU1基/4速)
23. ニック・ハイドフェルド(マヒンドラ・レーシング/マヒンドラM2ELECTRO/MGU1基/4速)
25. ジャン-エリック・ベルニュ(DSヴァージン・レーシング/ヴァージン・レーシング・エンジニアリングDSV-01/MGU2基/1速)
27. ロビン・フラインス(アンドレッティ/SRT01-E/MGU1基/5速)
28. シモーナ・デ・シルベストロ(アンドレッティ/SRT01-E/MGU1基/5速)
55. アントニオ・フェリックス・ダ・コスタ(チーム・アグリ/SRT01-E/MGU1基/5速)
66. ダニエル・アプト(アプト・シェフラー・アウディ・スポート/アプト・シェフラーFE01/MGU1基/3速)
77. ナタナエル・ベルトン(チーム・アグリ/SRT01-E/MGU1基/5速)
88. オリバー・ターベイ(ネクストEV TCR/ネクストEV TCR フォーミュラE001/MGU2基/1速)