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ゆるめるモ!× 朝倉加葉子監督が明かす、映画『女の子よ死体と踊れ』の撮影秘話

2015年10月23日 14:21  リアルサウンド

リアルサウンド

(C) 2015 YOU’LL MELT MORE! Film Partners


 アイドルグループ・ゆるめるモ!が、10月31日より上映される映画『女の子よ死体と踊れ』で初主演を務める。彼女たちは、音楽ライターの田家大知氏がプロデュース経験もなにもないまま立ち上げ、しかし着実にその知名度を伸ばしているというアイドル界でも異端の存在で、“ニューウェーヴアイドル”というコンセプトのもと、幅広い音楽性とメンバーのゆるさが特徴的なグループだ。今回は上記インタビューも担当している音楽評論家・宗像明将氏が、朝倉加葉子監督とメンバーへインタビューを行い、作品について深く掘り下げた。(編集部)


参考:ゆるめるモ!、トークイベントで『女の子よ死体と踊れ』裏話を披露「寒かったのが一番辛かった」


 ゆるめるモ!の初の主演映画『女の子よ死体と踊れ』の制作が発表されたときには、少なからず驚いた。インディーズのアイドルグループである彼女たちがいきなり主演映画……!? 女優経験があるメンバーは、映画『家族ごっこ』に出演しているもねだけなのだ。


 企画・制作は雑誌『TRASH-UP!!』。しかも監督は、壮絶なスラッシャー映画『クソすばらしいこの世界』で知られる朝倉加葉子だ。「クソすばらしいこの世界」は、アメリカで留学生の若者たちが次々に殺されいく、爽快なほどに凄惨な映画だった。


 その朝倉加葉子の監督でゆるめるモ!を撮った映画は、驚くほどポップな「ガーリーホラー」。どんな制作過程をたどったのか、朝倉加葉子とゆるめるモ!のメンバー(もね、けちょん、しふぉん、ようなぴ、あの。ちーぼうは欠席)に話を聞いた。


 なお、「クソすばらしいこの世界」を見ていたために朝倉加葉子に会うのが少し恐かったことは、ここだけの秘密である。(宗像明将)


■ようなぴ「ゆるめるモ!で映画をやるのが想像できなかった」


ーーゆるめるモ!で映画を撮るきっかけはなんだったのでしょうか?


朝倉:雑誌「TRASH-UP!!」の人たちとはお付き合いが長いんですが、久々に電話が来て会いにいったら「ゆるめるモ!でホラー風のアイドル映画を撮らないか」と言われて、面白そうだなと思いました。彼女達を軽く知っていたものの、以降改めて音楽を聴いたり、ライブを見たりしました。


ーーその印象はいかがでしたか?


朝倉:そこそこ音楽好きだったので、「あ、まさかESGじゃん!」って面白かったです(ゆるめるモ!の2014年作『Electric Sukiyaki Girls』はESGオマージュ)。私は仕事柄、役者さんとお付き合いすることが多いんですけど、ゆるめるモ!は普通の役者さんたちよりも生っぽい魅力があるなと思いました。


ーーその「生っぽい魅力」とは具体的にはどんな部分でしょうか?


朝倉:いい意味で芸能人じゃない感じですかね。誰かのふりをしていない感じがあったんですよ。はたから見る感じだと、アイドルって自分を押し殺してがんばる印象があったんですけど、ゆるめるモ!は無理しないで自分たちと向き合っていて、喜びも悲しみも引き受けてる感じで、被写体として画一化されてない魅力がありました。


ーーゆるめるモ!のメンバーは「クソすばらしいこの世界」は見ましたか?


全員:見てないです。


朝倉:いいんじゃないですかね、激しいホラーだし、見てほしいとも思ってなかったです。むしろ見てほしくないなと思いました。


ーーそれはなぜでしょうか?


朝倉:変な先入観を持ったり、緊張をしたりしてほしくなかったんです。


ーー失礼ながら、朝倉監督はお会いするまではどんな恐い人かと思っていたのですが、こんなに穏和な方で驚いています。


朝倉:ハートウォーミングです。ホラー映画とハートウォーミングは両立します!


ーー監督とゆるめるモ!の初顔合わせのときのメンバーの印象を教えてください。


朝倉:個人面談が最初かな? 彼女たちを知りたくて、個人面談の時間を作ってもらって、20分ぐらいお話しして。普通に「何してんの?」って、どんなことを考えているのか世間話をさせてもらいました。


ーーその結果はどうでしたか?


朝倉:薄々思っていた通り、みんなバラバラでいいなと再認識しました。協調性がないわけではなくて、己を向いているし、変に横を向いてもなくて、のびのびしていていいな、珍しいグループだなと思いました。だから、このグループを作っているプロデューサーにも興味を持ちましたね。田家(大知)さん最高だなって。


ーーゆるめるモ!のメンバーは、主演映画の話を聞いたときにはどう思いましたか?


しふぉん:主演ではなくて、まず段階を踏んだほうがいいんじゃないかと思いました(笑)。でも、自然な演技でできたので、一番最初の映画としてはレアな映画だと思います。いい体験できたなと思います。


あの:ホラーとも聞いてなかったんで、どんな感じの映画なんだろうと思ってました。台本が来てからは「あ、死人なんだ……」とだけ(笑)。


ようなぴ:ゆるめるモ!で映画をやるのが想像できなかったですね。「映画やるの!? ほかにもやることがあるんじゃないかな、今なんだ?」って。


もね:「ドキュメンタリーにしたらいいのに」と思いました。演技ができないから、ライブまでの過程とか。


ーーもねさんはすでに映画にも出演していたのでウェルカムな感じではなかったんですか?


もね:ウェルカムな感じまでではないです(笑)。ひとりとグループではまた違うから。


けちょん:「演技できるかな? セリフ覚えられるかな? 演技教えてもらえるのかな? 演技できないけど大丈夫?」って思っていました。


ーー大丈夫でしたか?


けちょん:(メンバーに)セーフ? ギリギリかな?(笑)


全員:(笑)


朝倉:でも、みんなしっかりセリフを覚えてきてくれて、びっくりしました。役柄は私から見た各人の発展形ではあるけど決してイコールではないから難しかったと思います。真摯に取り組んでくれて、よくやっていただきました。ありがたかったです。


■あの「顔色が悪いところは死体役に向いてるかなと思いました(笑)」


ーー『女の子よ死体と踊れ』は『クソすばらしいこの世界』のようなグロテスクさがないですね。ポップなぐらいで驚きました。


朝倉:ホラーやサスペンスは好きですけど、ガーリーな映画も好きなので、無理したとかはないですね。


ーーアイドルを撮るにあたって特段意識されたことはありますか?


朝倉:アイドルに限らず、役者さんが10代、20代のときに意識するのは「今」はその時しかないって感じですかね。それはしっかり目を逸らさずに撮りたいなと思いました。


ーー最年少のちーぼうさんに、重要で難しい役を割り当てたのはなぜでしょうか?


朝倉:ちーぼうは、セリフも覚えないといけないし、演出やお芝居の量もあるので、とてもがんばってもらったと思います。ゆるめるモ!って、個性があって、かつ普遍性があって、普通にいる日本の女の子が寄り添いたくなるようなグループだと思うんです。それの入り口にはちーぼうが適任だと思いました。なんとなく(笑)。


ーーあのさんを死体役に起用したのは?


朝倉:あのちゃんは死体に適任とも思ってないんですけど(笑)。死体が復活するホラーってそこそこあるけど、グロくしたくなかったんです。動かない人間が動き出すお芝居をするなら、あのちゃんが表現してくれるかなと思いました。


ーーあのさんは自分が死体役に向いてると思いましたか?


あの:顔色が悪いところは向いてるかなと思いました(笑)。じっとするシーンと、体を張るシーンが多くて、極端な振り幅が得意な方なので、大変だけど楽にできました。細かいことあんまり気にせずにできました。


■もね「お手洗いに行けないのが一番大変でした」


ーーゆるめるモ!のメンバーの皆さんが大変だったところはどこでしょうか?


けちょん:私はそんなに大変ではなかったけど、強いて言えば、銃を撃つシーンのマシンガンが重くて、指が痛かったくらい(笑)。あと、銃で追いかけるシーンの廊下がすごく滑って、曲がり角でコケないように走るのが大変でした(笑)。


もね:お手洗いに行けないのが一番大変でした。寒いけど、1時間は我慢してようと時計を車で見ていて、トイレが近くなってくると発作が(笑)。簡易トイレが欲しいなと思ってました。


朝倉:ロケが山の中だとトイレがないので、撮影中に車で「トイレ便」を出したんです。


ようなぴ:寒かったこと以外はないかも。あと、待ち時間が長いから、車の中で待ってるとケータイも電池が無くなるし、寝てました。山の中で電波もないし、雨も降ってるから外にも出られないし。


あの:いっぱいあって(笑)。1日目の初の撮影が、森に行ってひとりで銃に撃たれるシーンで、一発OKじゃないといけなくて。緊張感の中、森の地面に倒れると痛いし、「この先大丈夫かな」と思ったんですよ。常に寒いけど、死体だからじっとしてないといけなくて、体がカチコチになって「この先やってけない」と思ったり(笑)。3日目か4日目は、崖を登るシーンがあって大変で、スタッフさんに支えられても登れないんです、ミミズやダンゴムシがいるから嫌だし。屋上のシーンも寒いのに、ロウソクのロウが垂れて飛んできちゃうんですよ、「ワーッ!」ってなって(笑)。みんなが血を垂らすシーンでも、寒いのに冷たいものが私に落ちてきたので、SMプレイかなって(笑)。


しふぉん:森の中で武器を見つけて持って逃げながら転ぶ演技のシーンは、地面がグチャグチャだし、着替えもないし、ドロドロで何度もやったんで、心が痛くなりました(笑)。


ーー泥だらけの衣装はどうしていたんですか?


しふぉん:次の日までにマネージャーが洗って乾かしてました。


朝倉:衣装がステージ衣装だから一着しかないんです。話を聞いていて、いやー、ありがたくなってきました。ひどいことが行われている。映画撮影って恐ろしい。


ーーなんで他人事みたいなんですか(笑)。


朝倉:寒い中、みんなはつなぎで多少は暖かかったけど、あのちゃんは衣装が違って地獄だったと思います。


あの:地獄でした(笑)。


ーー監督から見たメンバーの演技はいかがでしたか?


朝倉:あのちゃんは、大きく振り幅があると本人も言ってましたけど、死んでるときと、再び生きだすときと、最後と、いろんなシチュエーションがあってがんばってくれました。映画のキーともなる死体をマイナス要素があるものにはしたくはなかったんです。お人形さんみたいに見えてほしくて、そこはとても素敵にやっていただけたなと。しほさん(しふぉん)は、いろいろお願いを言ってがんばってもらったなと思います。具体的には、セリフの言い回しとか。彼女は語尾が疑問形として上がらないんですよ。「これはペンですか?」が「これはペンですか!」みたいになって。疑問形を言い直していて、大変みたいでした。


ーーしふぉんさん、今は疑問形を扱えるようになりましたか?


しふぉん:あんまり人に疑問を持たないかも?(笑) 生きてきて質問とかしない人間なのかな……? でも鍛えられたので、疑問形のセリフが次に来たらがんばります(笑)。


朝倉:難しいことをお願いしたと思うんですけど、持ち前の部活ノリでがんばってくれました。なぴちゃん(ようなぴ)は、非常にお芝居が明確というか明晰というか、「これをこうするんだ」というのがはっきりしていて、見ていて気持ちいいというか。なぴちゃんには、何か情報を知らせるセリフを意識的に回しましたね。しっくりくるなと思って、期待通りになりました。


ようなぴ:演技したって感覚があんまりないです。自然にその状況に合わせました。


朝倉:イントネーションの付け方や声の出し方も、非常に情報処理能力が高い演技でしたね。いろんなタイプの役者さんがいるけど、なぴちゃんは「情報系」という認識です。もねちゃんは、「存在感」という面白い能力の持ち主だと思います。今回漫画っぽい役柄をやってもらったと思っていて、ガーリーな映画で記号的にガーリーな女の子の役が必要なんだという話をして、それをやってもらいました。彼女のほうからぬいぐるみのクマのイヤリングをつけることを提案してもらったり、お願いしたポイントを100%理解して表現してくれましたね。


もね:あんまり役を作らなくても、可愛いものが好きなので。でも、クマのイヤリングをつけたのはやりすぎたかな?(笑)


朝倉:きっと普段のもねちゃんならやらないようなこともやってくれました。けちょんは、いろいろ相談してゴスっ子をやってもらったんですけど。ゴスっ子の描き方ってどんな映画でも非常に重要だと思うんです。けちょんの柔らかい感じを、魅力的なゴスっ子にあてはめてもらったなという感じがします。けちょんの「本体」にもご出演いただき……。


ーー本体……? あ、けちょんさんの手のひらの目が印象的でした!


けちょん:そうです、目が「本体」です。今日は家で見張りをしています。


ーーあれ、今日はけちょんさんの手のひらに目がない……? 「本体」は描いてるんですか?


けちょん:やめてください、描いてるとか!


ーーすみません、やっと「本体」について飲み込めました……。


朝倉:けちょんは話し方が魅力的だなと思いました。この映画は、女の子たちがワイワイ言いながら、ちょっとのんびりもしつつ、ゆるっとしてかわいいものにしたかったので、死体やアクションやVFX効果もありつつ、ベースの部分はけちょんの話し方のような空気にしてもらいたくて、なるべく無理をしないで話してほしいなと思いました。


■朝倉「ちょっとねじ曲がったファンタジーが作れたらいいなと」


ーー『女の子よ死体と踊れ』は、エンディングがとても美しいです。監督はどんなイメージで撮影しましたか?


朝倉:あのちゃんがみんなといたかもしれない1日を最後のシーンとして撮りたいなと思いました。パラレルワールドというか、空間が歪んでいる。みんながいる世界を美しく終わらせるにはどうしたらいいのかなと考えて、踊ってもらうことにしました。楽しくて儚くするために、シャボン玉や花びらを使うことを直前に決めましたね。


ーーそういうイメージはどこから湧いて来たのでしょうか?


朝倉:主人公が女の子ではないけれど、『アリゾナ・ドリーム』という映画でジョニー・デップが歩いてるとピラルクーと遭遇したりして、そういうちょっとねじ曲がったファンタジーが作れたらいいなと思いましたね。


ーー『女の子よ死体と踊れ』は、ゆるめるモ!のファン以外にはどう受け取られると思いますか?


朝倉:まずはファンの方達に届くといいなと思います。でも、ゆるめるモ!のいいところって普遍性の高さだと思っていて、誰にも楽しめる話を作ったつもりなので「ゆるめるモ!を知らないから見ない」とか思わずに見ていただけたらいいなと思っています。


ーー『女の子よ死体と踊れ』の見どころを、ゆるめるモ!のメンバーの皆さんから教えてください。


しふぉん:最初から最後まで見て、メンバーの成長が見えるなと試写会で思いました。清掃員としてキャバ嬢役の家に行ったシーンも面白くて発見があるので見てほしいです。清掃会社の社長役が怖くて、リアリティーがあるなと思いました。


ようなぴ:こわかった、女優さんってすごいなと思いました。


あの:ヤクザ役の方に首を絞められてるシーンで、死んでるから痛みを感じないけどビックリしなきゃいけないから、「なにそれ」って難しくて。ヤクザ役の方の顔がすごくて(笑)、近くて、こっちもそういう顔になっちゃって(笑)。ちーぼうと長文のセリフで話すシーンが、撮影のすごく最後のほうにあったけど、みんな集中力が高まってて、長セリフを覚えてやるのは新しい経験で面白かったです。


ーーふだんそんなに集中することはありますか?


あの:あんまりしないです、適当にやればいいやつばっかだから(笑)。


けちょん:清掃会社の社長に遅刻して怒鳴られるシーンで、マジでビビッて車に乗り込めなくて(笑)。すごい演技力だなと思いました。


もね:6人揃ってるシーンが意外とないので、クライマックスの踊っているところに映画全体の集大成が詰まってる感じがします。映画で初見の人がゆるめるモ!のライブを見るとどう思うのかな、すごく知りたいですね。


ようなぴ:「アイドル映画」で終わりじゃもったいないなと思うので、ゆるめるモ!とか関係なく見てほしいです。この6人で過ごす時間が、最後終わるじゃないですか? 6人は途中まで当たり前に一緒の時間を共有してるんだけど、それがなくなってしまうところは普通でもあることだと思うので、日常だと思っていたことが非日常だった、みたいなところを感じてほしいです。(宗像明将/竹内洋平)


(続きはリアルサウンド音楽にて10月24日公開予定)