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AKB48、きゃりー、Shiggy Jr.ーーJ-POP界に定着した「ハロウィンソング」の現状とは?

2015年10月22日 18:01  リアルサウンド

リアルサウンド

Shiggy Jr.『GHOST PARTY(初回限定盤)(DVD付) 』

・変わらないクリスマス、政権交代のバレンタイン、空白地帯としてのハロウィン


 多くの人に長く聴かれる楽曲をどうやって作るか。シンプルだが非常に難しいこの問いに対する一つの回答として考えられるのが、「シーズンソングを作る」というやり方である。「この季節・このイベントと言えばこの曲」という形で人々の心に定着することで、その楽曲は定期的に思い出されるようになる。たとえば山下達郎の「クリスマス・イブ」はその典型例で、1983年の発表以来様々な形で繰り返しリリースされており、「4つの年代(1980・1990・2000・2010年代)でオリコントップ10入り」という時代を越えた広がりを見せている。


 「クリスマス・イブ」と並んでクリスマスソングの定番となっているのがマライア・キャリーの「恋人たちのクリスマス」(1995年)とワム!の「ラスト・クリスマス」(1984年)。3曲どれもが素晴らしい楽曲であるのは間違いないが、クリスマスのBGMが20年間更新されていないということについては少し不思議な気持ちになる。大規模な調査で選ばれた代表的なクリスマスソング10曲の顔ぶれを見ても(http://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001087.000007006.html)、2000年代に入ってからリリースされたものは桑田佳祐「白い恋人達」(2001年)、竹内まりや「すてきなホリデイ」(2001年)、BoA「メリクリ」(2007年)のみ。2010年代以降の曲は1曲もない。クリスマスの過ごし方が多様化する中で、音楽を通じて最大公約数的な価値を提示することが難しくなっているのかもしれない。


 一方で別の季節行事に目を向けてみると、バレンタインデーに関連する楽曲についてはここ数年で主要なBGMが国生さゆり「バレンタイン・キッス」(1986年)からPerfume「チョコレイト・ディスコ」(2007年)にスライドした印象がある。最初の「政権交代」まで実に20年以上の時間を要したことやPerfumeの人気がまだまだ健在であることを考えると、しばらくは「チョコレイト・ディスコ」の天下が続く予感がする。


 一度その席を確保すると長期的に聴かれる(そしてメディアで使用される)傾向のある「シーズンソング」は、その構造ゆえ新たに「定番」としてエントリーすることが難しい。そんな視点で考えると、ここ数年で唐突に盛り上がり始めたハロウィンというイベントが注目されるのは自然な成り行きである。「仮装することで自分もイベントの登場人物になれる」「それを写真に撮ればSNS映えする」という夏フェス(フェスTシャツや花冠)やサッカー日本代表戦(レプリカユニフォーム)と同じ構造で一気に定着したこのイベントは(奇しくも、ハロウィンもサッカー日本代表戦も渋谷のスクランブル交差点が「聖地」となっている)、「皆で集まってお祭り騒ぎをする」という音楽との親和性が高いシチュエーションでありながらまだ「テーマソング」というものが固まっていない。


 そんなホワイトスペースに、普遍的なポップスを志向する感度の高い作り手が集まるのは当然のことである。ハロウィンが日本において「街のイベント」として定着した感のある2015年、3つのアーティストが「ハロウィンソング」という舞台で競合した。


・AKB48ときゃりーぱみゅぱみゅ、ハロウィンソングを巡る代理戦争


 先鞭をつけたのはAKB48の「ハロウィン・ナイト」。10月のイベントについて歌った曲が7月に歌番組で初披露されたのは少し妙な気がしたが(「6月に選抜総選挙→7月に総選挙メンバーの楽曲披露→8月にリリース」という例年のスケジュール通りで発表された)、世の中に浸透させるためにはこのくらいの時間が必要という判断だったのかもしれない。「クラブじゃないんだ、ディスコだよ!」というキャッチコピーが掲げられたアッパーなディスコチューンには、普段のAKB48の楽曲と比べると少し淫靡なムードが漂っている。露出度の高い仮装も目立つハロウィンコスチュームとの親和性を意識したのだろうか。


 「ハロウィン・ナイト」の振付を担当したのは「恋するフォーチュンクッキー」と同じくパパイヤ鈴木。そう言えばフィリーソウル風味の「恋するフォーチュンクッキー」について、ダフト・パンク「Get Lucky」を筆頭とする「クラシカルなソウルミュージックへの回帰」というグローバルトレンドとの合致を指摘する向きがあった。今回の「ディスコ」を強調した表現も、ここ最近のディスコやソウルの影響が色濃いサウンドの隆盛(アウトプットの方向性は違うが、たとえば星野源「SUN」など)と軌を一にしていると言えなくもない。また、今作においてはアナログレコードの発売や「Disco Train」(TOKYO MXで毎週放送されている過去のディスコヒットを紹介する番組)への出演など「AKB48ファン以外の層」、もっと言えば「音楽に関心を持っている層」に向けたプロモーションも目立つ。秋元康がどこまで意識的かは不明だが、この手の取り組みからは「本当はサブカル寄りの人たちにも評価されたい」というマスを動かすヒットメーカーならではの業の深さを感じずにはいられない。


 8月26日に発売された「ハロウィン・ナイト」の1週間後にリリースされたきゃりーぱみゅぱみゅの「Crazy Party Night ~ぱんぷきんの逆襲~」は、AKB48の「淫靡さ」に対してテーマパーク的な「かわいさ」を前面に押し出した楽曲である。街中に仮装が溢れだす以前のハロウィンは主にディズニーランドなどのテーマパークの中で行われていたことを考えると、きゃりーぱみゅぱみゅがこの曲で表現している雰囲気こそ「本来の日本のハロウィンの姿」に近いのかもしれない。彼女は3年前の「ファッションモンスター」でもハロウィンをモチーフにしたPVを発表していたが、誰かのルールに縛られたくないと叫ぶ「ファッションモンスター」と<みんなで踊ろうよ>と呼びかける「Crazy Party Night ~ぱんぷきんの逆襲~」ではメッセージに大きな違いがあるように思える。この数年でハロウィンというものの価値が「みんなと違う衣装を着ること」から「みんなと違う衣装を着て、みんなで一緒にいること」に変容した証左として捉えると興味深い。


 AKB48の総合プロデューサーである秋元康と、きゃりーぱみゅぱみゅの全楽曲を手掛ける中田ヤスタカ。この2人は前述した「バレンタイン・キッス」「チョコレイト・ディスコ」それぞれの作者でもある。バレンタインデーを巡る陣取り合戦が、ハロウィンでも同じように行われていると思うと非常に面白い。世が世なら小室哲哉やつんくも参入していたかもしれないと考えると、いろいろと妄想が膨らむ。


・大物たちの闘争に飛び込む新鋭、Shiggy Jr.の信念


 原田「自分は「いつ出るか」っていうのが決まってないと曲ができないんです。その季節感とかが自分にとってはとても大事で。コンセプトとかお題目ありきじゃないと中々…。」(Spincoaster 2014年10月22日「アーティスト対談 Jess(give me wallets)×原田茂幸(Shiggy Jr.)」)


 6月のメジャーデビュー時には夏の情景を描いたラブソング「サマータイムラブ」と「6月のリリースだから雨の曲を」というコンセプトで制作された「keep on raining」の2曲を発表したShiggy Jr.。10月14日にリリースされた2枚目のシングル「GHOST PARTY」では、この時期の新たな風物詩となったハロウィンパーティーがモチーフになっている。


 この曲で注目すべきは、バンドの楽曲制作を一手に引き受けるギタリストの原田茂幸がギターではなくシンセサイザーを担当していること。ベースの森夏彦もライブではシンセベースを弾いており、「楽曲の良さを引き出すためにバンドの形自体を変えていく」というShiggy Jr.の特徴が端的に表れている。バンドやプレーヤーとしてのエゴよりも、いかにその曲がポップになるかこそ重要。徹底した楽曲至上主義には清々しさすら感じる。


 「サマータイムラブ」から一転してエレクトロに振り切ることでパーティー感を強調した「GHOST PARTY」を引っ提げて、Shiggy Jr.はAKB48×秋元康、きゃりーぱみゅぱみゅ×中田ヤスタカという大物が競合する今年のハロウィンソング戦線に飛び込んでいった。もちろん現状の知名度で言えば圧倒的に劣っているのが実態だとしても、「いきものがかりのような立ち位置になりたい」と公言する彼らが新しい国民的イベントの曲に取り組むのは至って自然なことでもある。尖ったロックバンドであれば「季節の行事にマッチする楽曲を作る」というテーマに正面から向き合うことは「自己表現」とのせめぎ合いで難しいかもしれないが、Shiggy Jr.は「それでみんなが聴いてくれるのならば」とベタなことでも衒いなくやってのける。そんな姿勢に対して、「もう一度J-POPというものをエンターテイメントの中心に引き上げてくれるのではないか」という期待を寄せたくなる。


 原田は「影響を受けたミュージシャン」として山下達郎の名前を挙げることが多い。クリスマスの定番を生み出した先達にならって、Shiggy Jr.は長年にわたって聴き続けられる「シーズンソング」を作ることができるか。まだデビューしたばかりのバンドへの問いかけとしては過大なものかもしれないが、長い目で注目していきたいと思う。(レジー)