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CRASS映像コラージュ集が伝える、伝説のパンク・バンドからの生々しいメッセージ

2015年10月22日 14:51  リアルサウンド

リアルサウンド

『CRASS:SEMI-DETACHED VIDEO COLLAGES 1978-84』より。

 世界中のパンクス、特にハードコア・パンクスたちに多大な影響を与えたバンド・CRASSの映像作品『CRASS:SEMI-DETACHED VIDEO COLLAGES 1978-84』が、世界で初めてDVD化され、10月21日にキュリオスコープから発売された。


 前回発売された『ゼア・イズ・ノー・オーソリティ・バット・ユアセルフ』は、過去から現在に至るCRASSの実際の活動や、メンバーの証言などを交えたドキュメンタリー作品だったが、今回はCRASSの楽曲に合わせて、アートワーク担当のメンバーであるジー・バウチャーが映像を重ねて編集した、全6曲の映像コラージュ作品集になっている。


 CRASSというバンドのスタイルは、“アナーコ・パンク”などと表現されることが多いが、現在のハードコア・パンクスの礎となった世界初のバンドであることは間違いない。そのメッセージは反戦・反核・動物愛護で一貫されており、メンバー全員がダイアルハウスという農業の営める土地付き住宅で、自給自足の共同生活を実践していた集団である。(参考:伝説のパンクバンド・CRASSが放つメッセージとは?最新ドキュメンタリーで明かされる素顔


 その実生活に裏付けされたメッセージもさることながら、ジー・バウチャーのコラージュも、CRASSのメッセージを伝えるツールとして非常に大きな役割を果たしていた。活動中にリリースされたレコードは、ポスタージャケット仕様のものがほとんどで、そのジャケットやインナーのポスターを見るだけで、CRASSのメッセージが視覚的に理解できる素晴らしいアートワークだった。そのジャケットやポスターを手がけていたジー・バウチャーのコラージュが、動画作品となっている本作は、白黒テレビから直接撮影した映像を多用しており、リアリティや臨場感を増すように作られている。


 また本作には、1983年に発売されたオリジナルのラストフルアルバムである『Yes Sir,I Will』のタイトル曲が、2009年にリマスターされた音源と共に2テイク収録されている。この楽曲の歌詞を理解し、映像を観ると、彼らが以前と変わらない姿勢を保ち続けていることを突きつけられて愕然とするだろう。約45分ほどある『Yes Sir,I Will』だが、アルバム発売当時もA~B面合わせてひとつの曲のようになっていて、その曲の中での展開や、メッセージに合わせた映像は見応え充分だ。


 日本語訳されたブックレットも素晴らしい。CRASSが伝えたかった「愛」のメッセージは、この日本語訳によって再び広まっていくだろう。彼らのメッセージは、何も難しく捉える必要は無い。歌詞でも言っているが、CRASSの曲はテレビドラマのテーマ曲や流行歌謡曲のようなものではない、真実のラブ・ソングだ。歌詞を理解して映像を観ることにより、CRASSというバンドが目指していたものが明確に伝わって来るだろう。また、CRASSの歌詞は、読み物としても優れており、現代の社会が直面している問題が、当時の社会でも全く同じように内包されていたことが如実に伝わってくる。


 各曲の歌詞を読み、その曲ごとに映像と照らし合わせて行くことで、この映像作品集の奥深さと、CRASSの奥深さが観る者の脳裏に自然と刷り込まれて行く。惨劇が繰り返される映像では、恐怖が染み付くような感覚にさえ陥ってしまう。一種の洗脳に近い表現ではあるが、これこそがCRASSのアートワークの真骨頂だ。メディアによって民衆をコントロールする手法を、逆手に取った表現とも言えるだろう。いまのタイミングでこの作品が発売されたことさえ、CRASSというバンドにとって必然だったように思える。


「設定ではなく その生き方を変えろ」


「自分を支配できるのは自分だけ」


 『CRASS:SEMI-DETACHED VIDEO COLLAGES 1978-84』は、混沌を極める現在の日本だからこそ、そのメッセージが響き、作品の重要性が再認識されるはずだ。(ISHIYA)