舞台『フェードル』が、12月4日から東京・池袋の東京芸術劇場シアターウエストで上演される。
『フェードル』は、フランスの劇作家ジャン・ラシーヌが手掛けた悲劇。ギリシャ・ペロポネソス半島の都市トロイゼーンにあるアテナイ王・テゼーの宮廷を舞台に、テゼーの妻・フェードルの禁断の恋を描いた作品だ。
主演を務めるのはとよた真帆。共演者には、テレビドラマ『仮面ライダー鎧武/ガイム』や映画『ライチ☆光クラブ』などに出演している松田凌をはじめ、高橋洋、馬渕英俚可、中島歩、堀部圭亮が名を連ねている。
演出を手掛けるのは、映画『Helpless』『EUREKA』『サッド ヴァケイション』『共喰い』などの監督作で知られる青山真治。青山は同作のプロデューサー笹部博司と共に翻案も担当している。チケットは現在販売中だ。
■青山真治のコメント
『フェードル』と出会ってどれくらいになるか。
わがプロデューサー笹部博司に教えられ、欲望の塊となって舞台を暴れまわるこの怪物のような女について何度も語らい、可能性を探り続け、いつしかある結論に辿り着いた。
これを現代の日本語で上演したらどうなるか。
もちろんフランス語で書かれた最も美しい古典戯曲であることは知っている。そしてこれまたこの上ない詩的な翻訳によって大家・渡辺守章氏の演出が大成功を収めたことも知っている。そして何より、これが悲劇であることも。
だが、私もまたこの怪物に魅せられたのだろう、二十一世紀の劇場を血に染める女をどうしても見たくなった。
数年前、ストリンドベリの『私の中の悪魔』を共に上演した女優・とよた真帆となら可能なのではないか。悪魔の次は怪物か、と半ば冗談のように我ながら呆れ、イポリット同様怪物に虐殺されるならされたときのことと覚悟を固めたものの、いまだ確たる根拠も方策も見つかっていない。
ただひとつだけ、もしも客席から笑いが起きるとしたら、そのときフェードルも私もこの時代において「浄化」されるだろう、という予感めいたものがある。悲劇の神聖さをかなぐり捨てて現代とともに古典を上演することの新たな可能性として。