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SEKAI NO OWARIの楽曲はどう変化してきた? ソングライティングのあり方から読み解く

2015年10月21日 07:01  リアルサウンド

リアルサウンド

SEKAI NO OWARI オフィシャルサイト

 SEKAI NO OWARIが今年リリースした2枚のシングル『ANTI-HERO』(7月29日リリース)と、『SOS/プレゼント』(9月25日リリース)は、どちらも映画『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』とその後編『『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN エンド オブ ザ ワールド』のために書き下ろされた主題歌である。『ANTI-HERO』は、ゴリラズやカサビアンのプロデュースなどで知られるダン・ジ・オートメイターが、『SOS/プレゼント』は、シガー・ロスなどのプロデューサーであるケン・トーマスが制作に関わっており、昨年リリースされたセカンド・アルバム『Tree』のファンタジックな世界観から大きくシフトチェンジ。歌詞も全編英語で書かれるなど、世界進出へ向けて大きな一歩を踏み出していている。


 では、楽曲の骨子であるソングライティングの部分はどのように変化してきたのだろうか。セカオワといえば、「バンド内に複数のコンポーザーがいる」という特徴が挙げられるが、ここでは彼らがこれまでにリリースしてきたシングル曲を中心に、“変わった部分”と“変わらない部分”を検証していきたい。


 まずは、彼らが「世界の終わり」名義でリリースした初期の代表曲「虹色の戦争」(アルバム『EARTH』収録)を聴いてみよう。この曲のアレンジは、疾走感あふれる8ビートとストレートなギターカッティングを基調としており、その後の緻密なサウンド・プロダクションに比べると、かなりシンプルで荒削りだが、そのぶんFukaseの書くメロディの美しさが際立っている。コード進行は、Aメロが<D - Dmaj7 - G - Gmaj7 - F#7 - Bm - G - A>。メジャー7thで浮遊感を出しつつ、F#というセカンダリー・ドミナントコード(「『自由の解放の歌』を」と歌われる部分)を差し込むことで、胸をぐっと鷲掴みにする。サビは<D - G - A - F#7 -Bm - B♭aug - DonA - G#m7-5 - G - A>で、ここでもセカンダリー・ドミナントコードF#7が登場。後半はベースがシの音から半音ずつ下降する「クリシェ」が用いられ、切なさと焦燥感が入り混じったような感情を喚起させる。いずれもポップミュージックとしては王道のコード展開であり、一歩間違えると野暮ったくなりがちだが、Fukaseのイノセントな歌声、ファルセットを効果的に使った透明感のあるメロディにより、絶妙なバランスを保っている。


 そんなセカオワの音楽性にファンタジックな要素が加わり、唯一無二の世界観として確立したのが『Tree』。このアルバムに収録されたシングル曲のうち、「スノーマジックファンタジー」と「炎と森のカーニバル」、それから「Dragon Night」の3曲には大きな共通点がある。それは、いわゆる「カノンコード」と言われるコード進行か、そのヴァリエーションによってできているのだ。


 「カノンコード」とは、バロック時代のドイツの作曲家であるヨハン・パッヘルベルが用いたコード進行。ハ長調(Cのキー)でいうところの、<C- G - Am - Em -F - C - F - G>で、例えば、森山直太朗の「さくら」、山下達郎の「クリスマスイブ」、AKB48の「ヘビーローテーション」「上からマリコ」などでも使用されている、日本人が大好きな“ポップスの黄金律”だ。


 セカオワの5枚目のシングル曲「スノーマジックファンタジー」は、サビが<D - A - Bm - D - G - D - Em7 -A>で、4番目のDがIIImの代わりにトニックコードIを、7番目と8番目がサブドミナント→ドミナントという進行の代わりにツーファイヴのIIm - Vを用いているものの、基本形はカノンコード。続く6枚目のシングル「炎と森のカーニバル」は、Aメロが<A - EonG# - F#m - C#m - D - C#m - D - E>。2番目のコードが分数コードになっているのと、6番目のコードがトニックの代わりにIIImを使っているが、これもカノンコードのヴァリエーションだ。そして7枚目のシングル「Dragon Night」だが、こちらはAメロもサビも基本形は<B♭ - FonA - Gm - F - E♭ - B♭onD - E♭ - F>の繰り返し。やはり分数コードを使っているのと、4番目のIIImがトニックコードになっているがカノンコードを下敷きにしている。


 メロディも、いわゆるテンションノートなどは極力使わず、コードの構成音によって成り立つシンプルなものが多い。しかも、ランダムに飛び回るというよりは、階段を駆け上がるような旋律を好んで用いているため(「スノーマジックファンタジー」がわかりやすい)、聴き手に高揚感をもたらす効果を上げている。Fukaseは作曲方法について、「自転車に乗っている時に思い浮かぶことが多い」「お気に入りのコースを周っているうちに曲が完成する」と語っていたことがある。技巧的な作り方をせず、思い浮かぶままにメロディを紡ぐことにより、彼の中に染み込んだ様々なポップミュージックの引き出しが、自然に開かれているのだろう。


 また『Tree』以降の彼らは、まるでディズニー音楽を彷彿とさせるような、ファンタジックでドリーミーな世界観が持ち味となっている。これは、Fukaseとともに多くの楽曲で作詞作曲を務めるSaoriの存在によるところが大きいはずだ。高校、大学と音大に通い、音楽科の教員免許を持つ彼女による、音楽的素養に裏打ちされたシンフォニックなアレンジメント、音世界と密接にリンクしたライヴの舞台演出。それらが渾然一体となり、唯一無二のセカオワ的世界を構築しているのである。


 そして、今年リリースされた「ANTI-HERO」と「SOS」。特に驚かされたのがNakajin作曲の「ANTI-HERO」で、コードは基本的に<Fm D♭ C Fm A♭ B♭>の繰り返し。ラップ調のメロディは、サビでもグッと抑揚が抑えられたままだ。ここにはカノンコードも、駆け上がるようなメロディもない。ブレイクビーツ、ウッドベース、6連のテーマを奏でるピアノ、そしてカウンターメロを弾くギターが、メロディと“等価値”で鳴らされている。Jポップの世界ではイビツともいえる、この曲のミックスバランスも“洋楽っぽい”と感じる大きな要因だろう。 こうした方向へと多く舵を切ったのは、13年のアリーナツアー以降Fukaseに代わってリーダーを務めることとなった、Nakajinの影響力が大きいはずだ。


 続く「SOS」はFukase作曲。ミックスバランスは「ANTI-HERO」同様に“洋楽的”だが、サビが<G - DonF# - Em - Bm - C - G - C - D>となっており、2番目のコードを分数コードにしたFukase得意のカノン進行である。ただしメロディの抑揚は控えめで、これまでのセカオワが持っていたファンタジックな高揚感とはまた違う、心にじんわりと染み渡るような世界観へと移行しているようだ。


 ポップスの黄金律をてらいなく駆使するFukaseと、ファンタジックでドリーミーな世界観を構築するSaori、洋楽的な手法を大胆に取り入れるNakajin。そんな三者三様のコンポーザーを抱えたセカオワは、海外のクリエーターたちとタッグを組むことによって、さらなる深みへと進んでいる。今後、彼らの音楽がどのように変化していくのか、ますます目が離せない。(黒田隆憲)