ファッションの批評誌「ヴァニタス(vanitas)」No.004が発売された。創刊号から3年、ファッションの批評空間の構築に寄与してきたヴァニタスだが、同号から新たな取り組みとして特集ページを設け、販路拡大のため出版社からの発行も決めた。ネクストステージに進むことを決めたヴァニタスの狙いとは?
批評誌「ヴァニタス」第4号発売の画像を拡大 蘆田裕史と水野大二郎が立ち上げたヴァニタスは、研究者やキュレーターによる論考からファッションデザイナーへのインタビューまで、様々な視点でファッションにおけるアーカイブの現状と今後の展望を議論することを目的とした書籍で、創刊号は2012年3月に刊行。前号まで自費出版で展開していたが、「fashionista」No.001(2号目からヴァニタスに名称変更)から興味を持っていたという編集者の足立亨にオファーし、販路を広げるため今回からアダチプレスで発行することになったという。蘆田裕史は「出版業界もかなり厳しいとは思いますが、宇野常寛さんの『PLANETS』、東浩紀さんの『思想地図β』や『ゲンロン通信』など、他と差異化を図っている書籍・雑誌であればまだまだ売ることは可能なはず。『ヴァニタス』は広報に力を入れられていないためまだまだ認知度は低いですが、可能性はあるのではないかと自負していて、足立さんにもそうした可能性を評価してもらえたのではないか」とコメントしている。
「アーカイブの創造性」と題した特集では、服というモノ、ネット上の情報などの多様な蓄積をいかに利活用していくかという問題設定のもと、デザイナー、キュレーターから情報学研究者、アーカイブ研究者まで幅広い書き手が登場。スズキタカユキやドミニク・チェンのインタビューに加え、ファッションにおける知的財産権に関するポイントを整理したガイドライン「Europeana Fashion IPR Guidelines」の日本語翻訳や立命館大学 衣笠総合研究機構 客員研究員の松永伸司による"おしゃれ"という概念を分析した論考「なにがおしゃれなのか ファッションの日常美学」なども掲載されている。
「ユリイカ」や「現代思想」のように特集を組むかどうかは、創刊号の企画立案時から考えていたようだが、ヴァニタスではファッションの批評を下支えする理論の構築を目的としているため、間口を狭くしてしまうことに抵抗があったという。3号までさまざまなアプローチでファッション論・ファッション批評を提示していくことに注力し、作り手にも受け手にも批評に興味を持つ人が少しずつ増えてきたという制作側の判断から、今回「アーカイブ」にフィーチャーした特集を設けたという。業界ではファッション批評について否定的な意見もあるが、徐々に販路を拡大しているヴァニタスの10年、50年後を視野に入れた今後の動向に注目が集まる。