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スケールアップした“ガールズ・ムービー”続編 『ピッチ・パーフェクト2』の見どころは?

2015年10月18日 18:31  リアルサウンド

リアルサウンド

(c)2015 Universal Studios.

 TOHOシネマズ六本木ヒルズでの先行上映を経て、10月16日(金)より『ピッチ・パーフェクト2』の全国上映がスタートした。本国アメリカでは、同日に公開された『マッドマックス 怒りのデス・ロード』を抑えて初週興行成績のトップを獲得。ミュージカル映画としては、『レ・ミゼラブル』(2012年)、『マンマ・ミーア!』(2008年)を超えて、歴代1位の好成績を収めるなど、爆発的なヒットを記録した本作。『2』とついていることからも分かるように、そのヒットの背景には、観客たちから予想を超える大きな支持を獲得した前作『ピッチ・パーフェクト』(2012年/日本では今年5月に公開された)の存在があるのだが……『2』の話をする前に、まずは前作の内容を振り返っておくことにしよう。


参考:菊地成孔が見通す、音楽映画の未来「愛や希望だけじゃない、ダークサイドを描く作品が増えていく」


 物語の舞台となるのは、アメリカのとある大学。DJを目指す音楽好きの女子大生ベッカ(アナ・ケンドリック)は、入学早々なぜかアカペラ部に入部してしまう。伝統ある女子アカペラ部「バーデン・ベラーズ」。かつては、そこに入部を許可されること自体が、淑女としてのステイタスだったにもかかわらず、現在は時代遅れの「ダサいもの」として、学生たちの失笑を買うような状態になっている。しかも、現在入部してくるのは、個性の強すぎる、変わった女生徒ばかり。しかし、アカペラの魅力に開眼したベッカを中心に、お互いの個性を認め合うようになった「ベラーズ」は、やがて一致団結。個性豊かなハーモニーと派手やかなステージを武器に、全国大会で快進撃を果たすのだった。


 『ハイスクール・ミュージカル』や『glee/グリー』……「学園もの」に「音楽」の要素を加えたテレビ・ドラマの人気を受けて、当初は低予算の小規模な映画として企画された『ピッチ・パーフェクト』。しかし、往年のポップソングのアカペラ・アレンジの秀逸さはもとより、「さまざま個性が一体となって生み出されるハーモニーの美しさ」という、テーマと直結した表現の分かりやすさ、そして『がんばれ!ベア―ズ』(1976年)以来、もはやアメリカ映画の王道ネタとなっている「落ちこぼれたちの会心の一撃」を描いた物語が、観客の熱烈な支持を獲得。劇中に登場する「CUPS(カップス)」と呼ばれる演奏スタイル(カップを鳴らす音と手拍子だけで歌うスタイル)が世界中で大ブームを巻き起こしたことも相まって、晴れて続編の製作が決定。それがこの『ピッチ・パーフェクト2』という次第なのである。


 主演のアナ・ケンドリックをはじめ、“ファット・エイミー”役のレベル・ウィルソン、ブリタニー・スノウ、アンナ・キャンプなど、「バーデン・ベラーズ」のメンバーが勢ぞろいした本作。そこで描かれるのは、前作から3年後の世界だ。前作で見事全米チャンピオンとなった「バーデン・ベラーズ」は、オバマ大統領の誕生日を祝う祭典で、とっておきのパフォーマンスを披露する。しかし、そのパフォーマンスの最中に、思わぬ大失態を演じてしまった彼女たちは、以降国内で行われるアカペラ大会への出場禁止を言い渡され、さらには全米チャンピオンとして臨むはずだった全国ツアーも取り消されてしまう。彼女たちの代わりにツアーを行ったのは、欧州チャンピオンであるドイツ代表「ダス・サウンド・マシーン(DSM)」。テクノを取り入れた先鋭的なパフォーマンスを披露するライバルの出現に動揺しつつも、ベッカを中心に再び一致団結した「ベラーズ」は、処分の範囲外である世界大会に照準を絞り、新たにトレーニングを開始するのだが……。


 本作の見どころは、何と言っても、予算と規模を拡大して展開されるアカペラのステージである。前作でお馴染みのメンバーに、『はじまりのうた』(2014年)などにも出演している新鋭ヘイリー・スタインフェルドを加えた新生「ベラーズ」が繰り広げる、華やかなライヴ・パフォーマンスの数々。その選曲も、マイリー・サイラスやテイラー・スウィフトといった昨今のヒット曲はもちろん、ア・トライブ・コールド・クエスト、ローリン・ヒルといった90年代ヒップホップ、さらにはアン・ヴォーグ、ハンソン、ジャーニー、シュープリームス、KC&ザ・サンシャイン・バンドといった懐メロまで、前作以上に幅広いものとなっている。そして、「リフ・オフ」と呼ばれる即興アカペラ・バトルのシークエンス。ラッパーのマイク・バトルさながら、「お尻に関した歌」、「カントリーソング」、「ジョン・メイヤーと付き合った人の歌」といったトリッキーな「お題」に対して、それぞれのチームが即興で楽曲を歌い上げ、そのセンスと技量を競うこのシークエンスは、まさしく圧巻……というか、ある意味爆笑の連続なのである。


 そう、この映画は、音楽映画であると同時に(あるいは、それ以上に)、かなりハイブロウなコメディ映画でもあるのだ。下ネタや人種ネタ、性差別ネタなど、きっと眉をひそめる人もいるであろうギリギリの笑いを含む、数々のジョークが幾重にも織り込まれた脚本。それを書いたのは、前作と同じく、コメディエンヌとしても活躍するケイ・キャノンだ。さらに、前作同様、アカペラ大会の女性解説者役として劇中で辛辣なコメントを吐きながら、映画の製作者のひとりにも名を連ねている“影の立役者”こと女優エリザベス・バンクスが、今回はなんと監督も担当しているのだった。もちろん、初監督作。それにしても、監督・脚本・主演のすべてが女性というのは、昨今のハリウッドでは非常に珍しいことである。しかも、興行的に成功したコメディ作品においては、なおさら珍しい……というか、ほとんど前例のない快挙と言っていいのではないだろうか? その意味でも「ガールズ・ムービー」の名に相応しい一本……それがこの『ピッチ・パーフェクト2』なのだ。(麦倉正樹)