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女優・波瑠は『あさが来た』でブレイクなるか? “没個性という個性”の可能性を読む

2015年10月17日 07:11  リアルサウンド

リアルサウンド

NHK連続テレビ小説『あさが来た』

 NHK朝の連続テレビ小説のヒロインは、若手女優の登竜門と言われ続けている。ドラマ低迷期と言われる昨今においても、安定して平均20%前後の視聴率を確保するだけあって、そこに毎朝主人公として映るということがどれほど大きなことか。ましてや、実力のあるスタッフや大御所キャストの中で半年間撮影を続けていくだけでも、女優として大きな一歩となる。


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 しかし、ここ10年間で作られた20本の作品の中で、オーディションを介さずにヒロインを務めた宮崎あおいや堀北真希、吉高由里子ら、すでにある程度の知名度を獲得していた女優と比べると、オーディションから選ばれたヒロインで間違いなくブレイクしたと言えるのは榮倉奈々と多部未華子、そして能年玲奈ぐらいであろうか。少なからず知名度は上がるものの、ブレイクと呼ぶにはどうも不完全燃焼なイメージが先行している。


 10月からスタートした『あさが来た』のヒロインに選ばれたのは現在24歳の女優、波瑠。芸能界のキャリアはすでに10年近くあり、ドラマやCMなどで頻繁に見かける女優ではあるが、今回はオーディションで主演を勝ち取った。応募者が過去最多の2590人という中から選ばれただけに、彼女に対する期待の大きさが伺えるのである。とはいえ、彼女の出演作を思い返してみてもこれといって掴みどころのないものばかりで、どうにも不思議な女優である。これまでの彼女の代表作を問われても、これといって思い当たる節も無いのである。


 出世作、と呼んでいいのだろうか。彼女の存在を認識した作品といえば、3年前のdocomoのCMであろう。仕事でドジをしたり遅刻したりと、ついていないことが続く新入社員を演じる彼女が、スマートフォンで漫画や小説を読み、その中の台詞から元気をもらうという内容のCMは覚えている人も多いであろう。そのどこか垢抜けないキャラクターによって、「ショートカットで少し地味目な女性」というイメージを定着させた。


 しかしそのイメージもここ3年の話である。彼女の長い下積み時代の作品を振り返ってみると、とても今とは想像がしがたいほど、キャラクターが違いすぎる。じっくりと見てみると、同じ人物だとかろうじてわかる程度で、長い紆余曲折が伺える。初めて出演したCMはソニーのネットジュークのCMで、音楽に合わせて箒をギターに見立てて弾きながら、壁や天井を歩き回る強烈なインパクトを持った作品であったが、彼女が誰なのかということはそれほど話題にならなかったと記憶している。


 そんなキャリア初期の代表作は何と言っても2007年のヒット作『恋空』であろう。新垣結衣演じる主人公の親友役で出演し、初めは薄いメイクだったのが、恋人ができたことをきっかけに派手なギャルメイクに変わる女子高生の役であった。持ち前の凛々しい顔立ちが印象的であったが、当時16歳(撮影時は15歳だったであろうか)にもかかわらず、今よりも垢抜けて見えるのだ。


 女優としてデビューした後、『seventeen』の専属モデルを務めるという、少し変わったキャリアを積み、映画もテレビドラマもコンスタントに出演しているものの、どこか印象に残らない。どうにも、初期の頃の彼女の作品を見ていると、他の女優でも演じられるような、キャラクターの個性が強いものが目立ち、彼女自身の個性が没してしまっているのだ。これは女優にとっては不運でならない。


 一体どのタイミングで転機が訪れたのか、それはそれまでの長い髪を短くしたという、あまりにも突然のことだろうか。前述の「ショートカットで少し地味目の女性」というイメージを逆手に取るかの如く、年齢のわりに落ち着いたキャラクターを発揮し、没個性という個性を手に入れたのである。そうなると、それまで無かった存在感が自然と発生してくるのである。『BUNGO~ささやかな欲望~/告白する紳士たち』おける「幸福の彼方」での林芙美子原作のヒロインとしての気品を巧みに演じ、続く中村義洋の『みなさん、さようなら』で主人公の隣の家に住む少女の変化を演じきるなど、一見すると特徴のないキャラクターに、確たるシルエットを与えていく。


 その落ち着いた風貌がとくに活かされていたのが昨年のドラマ『ごめんね青春!』で、彼女が演じたのはヒロイン満島ひかりの姉役。実年齢では満島の方が6つばかり年上にもかかわらず、その姉役を違和感を感じさせることなく演じていた。また、彼女のさらりとした雰囲気は、芝居だけでなく、バラエティ番組でも発揮され、2013年から1年間アシスタントを務めた『A-Studio』での好印象は、モデルとしての彼女を見続けた同世代の女性たちだけでなく、それまで彼女を意識してこなかった男性たちにも魅力的に映ったものだ。


 『あさが来た』で彼女が演じるのは日本初の女子大学を設立した女性実業家・広岡浅子。はんなりとしたイメージの京都弁を使いながら、どこかお転婆で活発な女性である。今や大女優の風格を放つ宮崎あおいの妹役という、これまでの彼女が演じてきたイメージを覆すキャラクターを演じるのだ。実力と個性を兼ね備えたキャストの中で、主演としてどこまで印象を残すことができるか、これは半年間見守り続けることが実に楽しみだ。


 また、11月には人気作家伊坂幸太郎原作の『グラスホッパー』や、主演作『流れ星が消えないうちに』が公開されるなど、これまでのイメージ通りのキャラクターも演じつづけ、決して演技の幅を狭めることはしない。今年の春に『non-no』のモデルを卒業したことで、女優一本として活躍していく彼女の飛躍に注目していきたい。(久保田和馬)