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浜田麻里は『LOUD PARK』でどう評価されたか さらなる高みを目指すボーカリストの現在地

2015年10月16日 16:51  リアルサウンド

リアルサウンド

Photo by kiseki michiko Courtesy of LOUD PARK 2015

 今年で開催10回目を迎えたヘヴィメタルの祭典『LOUD PARK』に浜田麻里が初出演を果たした。10月10、11日の2日間に渡り、さいたまスーパーアリーナで行われた今年の『LOUD PARK』は、2006年の初年度と同じくSLAYER、MEGADETHがヘッドライナーを務めるというアニバーサリー的内容。このほかにもARCH ENEMYやHELLOWEEN、DRAGONFORCE、CHILDREN OF BODOMなど日本で人気のバンドからCARCASS、NAPALM DEATH、OBITUARY、ABBATHなどデスメタル/ブラックメタル/グラインドコア勢まで“メタル”を軸に、実に幅広いメンツが一堂に会した。ここ日本からも浜田に加えSOLDIER OF FORTUNE feat. Mike Vescera(実質的な第2期LOUDNESS)、ANTHEM、OUTRAGE、UNITED、GALNERYUSなどが出演し、海外勢に負けじと好演を繰り広げた。


 80年代こそロックイベントに出演した経験がある浜田だが、ロックフェスが本格化した90年代末以降、彼女が初めてフェスに出演したのは昨年の『SUMMER SONIC 2014』が初めて。その際にはロック/メタル色の強いセットリストとデビュー以降30数年を経てもまったく衰えを見せない圧倒的な歌唱力で、会場を訪れた一見の観客さえも魅了したことは記憶に新しい。


 そんな彼女がついにメタル系フェスに進出。思えば樋口宗孝(LOUDNESS)のサウンドプロデュースでデビューし、HR/HM系ミュージシャンと所縁が深かった浜田だけに、初期から彼女を応援しているファンにとっては感慨深いものがあるのではないだろうか。特に近作ではハードでヘヴィな楽曲が増えていることもあり、そういったサウンド含め彼女のライブがコアなメタルファンからどのように評価されるのか、筆者はその目で確かめるべく会場へと向かった。


 浜田のライブは11:45からと、かなり早い時間帯。メインとなる大きなステージが横並びで2つ並ぶという構成は例年通りで、浜田はこのうちの1つである「BIG ROCK STAGE」でライブを行う。直前まで隣の「ULTIMATE STAGE」では元ARCH ENEMYのギタリスト、クリストファー・アモット率いるARMAGEDDONがモダンなメロディックデスメタルを爆音で鳴らし続ける中、「BIG ROCK STAGE」には徐々に観客が集まり始めていた。そしてARMAGEDDONのステージが終わるとともに、その観客の流れが急に大きく動き始める。とても午前中とは思えないほどの客足だ。サウンドチェックの時点で、コーラスのハイトーンボイスが聞こえただけで客席からは歓声が沸く。


 数分の転換を経て会場が暗転すると、場内からは歓声が沸き起こる。アリーナ前方には熱狂的なファンが構えているようだが、後方には微動だにしない観客……いわゆる「様子見」のメタルファンが大挙していたのだ。ある意味アウェーと言えるかもしれないこの状況の中、ステージにはバンドメンバーが登場。宮脇JOE知史が繰り出すドラムのビートに合わせて観客がハンドクラップを始めると、バンドはオーバーチュアを奏で始める。会場が徐々に温まり出したところで、 黒と赤を基調にした衣装を身にまとった浜田が登場。1曲目は昨年のサマソニ同様「Fantasia」だ。冒頭から伸びやかな高音を会場に響かせる浜田に観客は釘付けになり、そのままバンドと一丸となって激しい歌と演奏を繰り出すと、ライブはこの日最初のピークを迎えた。クラシカルな要素を取り入れたこの曲は会場のメタルファンにも好意的に受け入れられ、場内は熱を帯びていく。アリーナ後方の観客のノリは始まる前と変わらぬ様子だが、単なる棒立ちというよりはその圧倒的な歌と演奏にじっくり聴き入っていると表現するほうが正しいのかもしれない。


 メタリックな「Fantasia」に続いては、最新アルバム『Legenda』からのファストチューン「Momentalia」。もの悲しげなピアノのフレーズに続いて激しいビートが繰り出されると、観客もハンドクラップで応える。そして浜田の「最後までよろしくお願いします!」という挨拶からアグレッシヴなバンド演奏へとなだれ込み、盛り上がりはさらに加速。曲間では増崎孝司のギターと増田隆宣のキーボードによるソロバトルも展開されるという、実際の楽曲構成がその場で再現された。ファストチューン2連発で会場の熱気が高まったところで、3曲目には初期の代表曲「Blue Revolution」が早くも登場。前方からはさらなる大歓声が沸き起こり、サビでは曲に合わせて拳を高く上げる場面も見受けられた。


 3曲で会場の空気を完全に掌握した浜田。ハードな楽曲で自身の存在感を存分にアピールした後は、アカペラで「Nostalgia」をしっとりと聴かせる。彼女の歌に集中するかのようにシーンと静まり返った場内に、時に力強く、そして時にやさしく語りかけるように響く彼女の歌声に対し、客席からは惜しみない拍手が送られた。そこからシンフォニックなサウンドが場内を包み込むように流れ始めると、ステージ上手には赤いジャンプスーツを着用した高崎晃(LOUDNESS)の姿が。80年代半ばを思わせるファッションの高崎に気付いたメタルファンからはさらなる歓声が上がり、バンドはそのまま高崎を含む編成で「Stay Gold」を演奏。ミディアムテンポのヘヴィなサウンドをバックに、浜田は自身の声を自由自在に操り楽曲を彩っていく。また彼女の歌に対をなすようにコーラスを響かせるERIのボーカルワークも絶品で、曲が後半に進むにつれてその凄みはさらに増していく。そしてクライマックスではこれでもかというほどのハイトーンを会場に轟かせると、会場中から歓喜に満ちた歓声が沸き起こった。


 続く「Historia」ではオープニングから高崎と増崎がツインリードを披露し、観客を喜ばせる。この曲で再びテンポアップすると、ライブの盛り上がりもさらに加速。ここまで激しいボーカルを聴かせながらも、浜田の声からは一切疲れが感じられない。ところどころで飛び出すハイトーンはもはや楽器のひとつと化し、この楽曲を、このライブを劇的なものへと進化させていった。さらにJOEのドラムソロに導かれるように始まったのは、1983年の2ndアルバム『ROMANTIC NIGHT~炎の誓い』のオープニングナンバー「Don't Change Your Mind」。原曲では今は亡き樋口がドラムを叩いていたが、現在ではこの曲を44MAGNUMのJOEがプレイし、さらにこの日は樋口の盟友・高崎がギターを弾くという感慨深さを与えた。激しいビートに合わせて観客が拳を振り上げるさまを目にし、曲のラストで浜田が思わず笑顔を浮かべてガッツポーズを取る一幕もあった。


 この日のラストナンバーは前々作『Aestetica』からの疾走ナンバー「Somebody's Calling」。この曲でも高崎は彼にしかできない唯一無二のギタープレイで、圧倒的な浜田のボーカルに対抗する。2人は時に肩を並べ、時に向かい合いながら今回の共演を堪能しているようだ。最後まで一糸乱れぬ完璧なボーカルワークを聴かせた浜田に対し、筆者はライブ中思わずため息を漏らすことが何度かあったが、それは私だけではなかったようだ。実際、自分の周りにいた、恐らく彼女のライブを初めて観るであろう20代の男女は真剣な表情で浜田の歌に聴き入り、圧巻のハイトーンを響きわたらせるたびに「すげえ……はぁ……」とため息まじりでつぶやいていたのが印象に残っている。こうして約40分にわたる浜田の『LOUD PARK』初ライブは無事終了。気付けば開始時より大勢の観客がアリーナに集まっており、彼ら彼女らは浜田とバンドメンバー、そして高崎に対して熱い声援と惜しみない拍手を届けていた。


 開始前こそアウェイになるのでは?なんてことを思い浮かべていたが、いざ終わってみれば「2日目のベストアクト」などの声が多く聞かれたこの日のライブ。浜田は来年初頭に25作目となるオリジナルアルバムのリリースを控えている。デビュー30周年を機に再評価の気運高まる彼女が『SUMMER SONIC』や『LOUD PARK』といった大型フェスに通じて表現してきたものの最新形が、次の新作で楽しめるはず。アーティスト、ボーカリストとしてさらなる高みを目指す彼女の次の“ミッション”に、ぜひ注目してほしい。


(文=西廣智一)