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【宙にあこがれて】第54回 さらばLR-1・木更津航空祭

2015年10月14日 16:01  おたくま経済新聞

おたくま経済新聞

【宙にあこがれて】第54回 さらばLR-1・木更津航空祭

10月11日、千葉県にある陸上自衛隊木更津駐屯地で「駐屯地創立47周年記念行事・第43回木更津航空祭」が開催されました。


「新たな風を この上総から」というテーマで開催された航空祭。今回の主役は偵察・連絡機のLR-1です。三菱重工の傑作ビジネス機MU-2をベースにした機体で、第1ヘリコプター団の連絡偵察飛行隊に所属する最後の1機(22019号機)が2015年度限りで退役します。格納庫には「さようならLR-1」の記念バナーが。


【元の記事はこちら】



装備品展示場には、一足先に退役したLR-1の22020号機が展示され、後方には製造メーカーである三菱重工の協力を受け、原型機であるMU-2を含めた貴重な資料が。ちょっとした航空博物館のようでした。


貴重な1/7スケールの風洞試験モデルも展示。



三菱MU-2は1963(昭和38)年に初飛行した双発プロペラのビジネス機です。海外で大成功を収め、762機という生産数は日本の民間機史上最多。優れたSTOL(短距離離着陸)性と速い巡航速度、高速域での小気味良い操縦性は、主な販売先となったアメリカで「ホットロッド(加速力を強化したカスタムカー)」とも称されました。


アメリカでの拠点となった、テキサス州サンアンジェロの事業所を閉鎖した際の現地新聞などの資料も。三菱が作った閉鎖記念パンフレットの表紙には、MU-2の実質的後継機である日本初の民間ジェット機、MU-300の姿も見えます。



民間仕様のMU-2と、陸上自衛隊仕様のLR-1は、操縦輪のデザインが異なっています。また、12.7mm機関銃などの武装も可能です。三菱側も500ポンド爆弾2発と12.7mm機関銃、またはロケットランチャーを装備した軽攻撃(COIN)機としての使用法をマニュアルに掲載しています。


午前8時半の開門前から土砂降りだった雨の中、格納庫に展示されたLR-1には人だかりができていました。


別の場所では、連絡偵察飛行隊による「さよならTシャツ」も。



記念行事が始まる頃には雨脚が徐々に弱まり、小雨程度に。最後の晴れ舞台を惜しむ涙雨のようにも見える中、LR-1(22019号機)のエンジン始動展示が行われました。パイロットたちが登場し、飛行前の触手点検を経て、機体に乗り込みます。


▼LR-1エンジン始動シークエンス
https://youtu.be/7S-2CS-LSyA


飛んで欲しいところでしたが、あくまでも「エンジン始動展示」なので、LR-1は滑走路には向かわず、そのまま会場奥の方へと退場。続いて木更津駐屯地所属機による編隊飛行が披露されます。



編隊飛行の顔ぶれを見てみると、天皇陛下や首相など、VIPの輸送任務に当たる特別輸送飛行隊のヘリコプター、EC225LPが3機に。1機が仙台空港で整備中に、東日本大震災での津波により被害を受け、再起不能となって以来ずっと予備機(通常VIP輸送では、予備機を含めた2機体制で飛行する)なしの2機体制でしたが、9月に新たな01024号機が部隊にやってきたのです。これで1機が定期整備中で飛べなくても、予備機のある通常運用に戻ります。


編隊飛行の後には、航空地上支援車両の紹介が。新たに導入された空港用消防車(ローゼンバウアー・パンター)は、側面の「陸上自衛隊」表記が筆文字になっていて力強さを感じさせます。



訓練展示では、ヘリコプターが低空を自在に飛び回ります。そして近い! パイロットの腕の良さを感じる瞬間です。


訓練展示後、エンジン始動展示を終えたLR-1が、後継機であるLR-2(ビーチ350キングエアがベース)と並んで展示されます。最後の現役機となった22019号機の姿を写真に撮ろうと人が集まりました。


LR-1(MU-2)の大きな特徴が、主翼の幅いっぱいに装備された二重隙間フラップ。これによって高いSTOL(短距離離着陸)性能を得ました。主翼の幅いっぱいがフラップなので、通常の補助翼(エルロン)が装備できず、ロール(機体の前後方向を軸にした回転方向)制御は主翼上面に装備されたスポイラーで行います。これが高速域での小気味良い操縦性に寄与しているのですが、低速では効きが悪く、着陸時には操縦輪を大きく操作しないと反応してくれないので、なかなか大変な部分もあるとか。主翼の幅いっぱいにフラップを設け、スポイラーでロール制御を行う方式は、この当時三菱重工が開発したMU-2、MU-300、T-2(F-1)に共通する特徴です。



その他の展示機を見てみましょう。航空自衛隊美保基地(鳥取県)からやってきた第41飛行隊のT-400練習機は、元々三菱MU-300としてデビューした機体でLR-1(MU-2)とは兄弟のような関係。MU-300は様々な事情の末、三菱が製造販売権を手放し「外国の飛行機」となってから航空自衛隊にT-400として採用されたという、皮肉なエピソードを持っています。



T-400導入を受けて発足した第41飛行隊は、今年創設20周年。パイロットの肩には記念パッチが。



静岡県の航空自衛隊静浜基地からは、第11飛行教育団のT-7。



海上自衛隊からは、厚木航空基地(神奈川県)第61航空隊のLC-90と、木更津のご近所、館山航空基地(千葉県)第21航空隊のSH-60Kが参加。SH-60Kは航空隊の番号と同じ21号機でした。


陸上自衛隊の航空学校霞ヶ浦校(茨城県)からは、AH-64Dがやってきていました。前日に地元茨城県で開催された、陸上自衛隊土浦駐屯地(武器学校)開設記念行事で派手なデモフライトを実施した後、天候悪化が懸念された為に目と鼻の先(車で5分)である霞ヶ浦には戻らず、そのまま木更津まで飛んできたとか。メインローターの上にロングボウレーダーを装備していない形態での展示です。



ホストである木更津駐屯地の第4対戦車ヘリコプター隊では、展示用にカッティングシートで部隊のシンボルである般若面をデザインしたAH-1Sを用意。子供限定で、コクピットに乗っての記念撮影を実施していました。



「痛ヘリ」で有名になった第4対戦車ヘリコプター隊ですが、AH-1Sの機首を見ると、その名残が……。第1飛行隊の機体には、日米合同演習「ライジングサンダー(雷神)」参加記念パッチ、第2飛行隊の機体には痛ヘリのモチーフとなった「木更津四姉妹」がデザインされたカッティングシートが貼られていました。


昨年に続き、今年も雨に見舞われてしまった木更津航空祭。次回は晴天のもと開催されることを祈りましょう。


(文:咲村珠樹)


※「【宙にあこがれて】第54回 さらばLR-1・木更津航空祭」はおたくま経済新聞で公開された投稿です