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「コンビニオーナーは奴隷のように働かされている」 FC問題に取り組む弁護士に聞く

2015年10月14日 11:31  弁護士ドットコム

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全国どこにでもあって、いつでも開店しているコンビニや飲食店チェーンは、私たちの暮らしにとって欠かせない存在になっている。報道によると、大手コンビニチェーン3社は今年8月までの中間決算で、本業の儲けを示す「営業利益」がいずれも過去最高になった。店頭で提供するコーヒーなどの販売拡大が好調の要因だという。


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そんなコンビニや飲食店チェーンは、本社が直接経営する「直営店」とフランチャイズオーナーが経営する「加盟店」にわかれるが、フランチャイズ本部と一部の加盟店の間では、摩擦も生じている。



長年、加盟店オーナーたちの働く環境の問題に取り組んでいる中野和子弁護士は「コンビニオーナーたちは奴隷のように働かされている」「フランチャイズ本部だけが儲かる現状は不公正だ」と指摘する。フランチャイズの仕組みのどこが問題なのか。中野弁護士に聞いた。



●赤字でも売り上げを「本部」にもっていかれる


――コンビニのフランチャイズ問題には、どのようなものがあるのか?



コンビニのフランチャイズ加盟店では、オーナーたちが奴隷のように働かされています。フランチャイズ本部が、リスクをすべて加盟店に押し付けて、何の痛みも負わずに儲けだけをもっていくビジネスモデルなんです。



――具体的には、どんな問題があるのか?



まず、契約そのものが、フランチャイズ本部に有利になっています。契約書には、加盟店の義務ばかり記載されており、これを変更することはできません。チェーン・イメージが重視されるので、それに沿わない独自の企画などは認められません。



また加盟後、たとえ店が赤字で生活費が出なかったとしても、売上は全額送金しなければならないし、「売上総利益」の半分程度は本部にもっていかれたり、赤字だからやめようとしても、本部が同意しない限り、非常に高い違約金を支払わないといけなかったりします。



――契約以外では、どんな問題があるのか?



フランチャイズ契約をしようとする者と本部との間には、情報量に圧倒的な差があります。要するに、フランチャイズ契約は、素人がプロに仕事のノウハウを有償で提供してもらうというものです。だからこそ、判例では、圧倒的な情報量の差があるフランチャイズ本部には、契約締結時に「情報提供義務がある」と認められました。しかし、実際は契約締結までに正確かつ必要な情報提供がなされていません。



――どのような情報が提供されていないのか?



たとえば、商圏調査(出店地域の市場調査)で、フランチャイズ本部がどれくらい売り上げや利益を見込んだかどうか、あるいは条件が類似する近隣店舗がどれくらい売り上げているか、などの情報です。



――勤めている会社をやめて、「一国一城」のコンビニオーナーになろうという人も多いというが・・・



フランチャイズ本部の加盟店になるということは、そのチェーンに組み込まれるわけで、結局独立できるわけではありません。とくに、コンビニは契約の縛りが厳しいです。そして、「本部の指導に従え」「指示に従ってこそ儲かるんだ」ということを刷り込まれる。どんなに儲かっていなくても、本部から言われるがままという状態に陥っています。



そして、赤字で生活費も出ないため、オーナー自身が、たとえば毎日14時間、365日休みなく奴隷のように働いている状況が生まれているのです。



●「儲かるふり」をして、加盟金を集めるケースも


――飲食店のフランチャイズチェーンの状況はどうか?



まず、飲食店業界自体に厳しい競争があると思います。みんなお金がないから、外食費を削りますよね。そのため、低価格路線となり、一番弱い従業員にしわ寄せがいく構造があります。つまり、人件費が犠牲になっています。賃金未払いなど、違法行為も起きているようです。



――今年9月には、飲食店チェーン「しゃぶしゃぶ温野菜」のフランチャイズ加盟店の労働問題が大きな話題になった。もし加盟店で、給料の未払いなどの問題が起きたら、誰が責任をとるべきか?



法形式的には、加盟店が責任をとることになるでしょう。



たとえば、多角的にいろんなフランチャイズ加盟店を経営している「メガフランチャイジー」や他の事業を行っている比較的大きな企業であれば、それなりにロイヤリティの交渉力があり、経営していく資本があるといえるでしょう。そんなところで、給料の未払いが起きた場合、基本的にはその加盟店側が解決すべきです。



一方、個人経営の加盟店であれば、フランチャイズ本部が責任を持って、きちんとした労働環境を確保できるようなビジネスモデルにすべきという考え方もできます。すなわち、フランチャイズ本部は、ロイヤリティを取得するとしても、加盟店の経営が成り立つような割合にする責任を負うということです。



――飲食店のフランチャイズでも、コンビニのような構造的な問題は起きているのか?



私が知っているものでは、集客や運営などのノウハウが確立していないにもかかわらず、儲かるふりをして、加盟金を集めるだけ集めて、さっさと市場からいなくなるというケースがありました。契約書も、本部が一方的に有利になるように作られていました。



加盟金は、コンビニの場合、純粋な加盟金は50万円、加盟時必要金は300万円くらい。一方、ある飲食店フランチャイズの場合では、800万円という高額のものありました。そこは本当にひどくて、ノウハウや「のれん」にほとんど価値もなかったんですが・・・。



もちろん、加盟希望者の側も、高い加盟金や開店資金を払ってまで利益が出る「特別なノウハウ」が本当にあるのか、ということを事前に検討しないといけません。飲食店の場合、だいたいの利益率はわかっているのだから、ロイヤリティを支払っても経営が成り立つのか、そういう情報を調べたうえで、加盟するべきです。



しかし実際のところは、フランチャイズ本部の情報を鵜呑みにして、多額の資金を投じるケースが後をたちません。コンビニの場合、中途退職した人が退職金全額をつぎ込んで、全て失った人もいます。



――こうした問題は、どうすれば解決するのか?



フランチャイズ本部だけが儲かっているというのは、そもそも不公正です。公正な経済のあり方ではないと思うんです。



もし日本が、フランチャイズ加盟店しか職場がないような状況になれば、そこで働く人みんなが奴隷のような環境におかれたり、違法な労働条件で働かされたりするということになります。



やはり、契約前の情報提供を徹底させるのは当然のこととして、加盟店や従業員にきちんとお金が入るようなビジネスモデルにすべきです。国としても、労働者の最低賃金を大幅に上げるべきでしょう。そして、そういう責任をフランチャイズ本部に法的に課すべきだと考えています。


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
中野 和子(なかの・かずこ)弁護士
2000年からコンビニ・フランチャイズ問題に取り組み、セブン―イレブン以外に、サンクス、ローソン、ファミリーマートなど加盟店側でコンビニ本部と訴訟を展開。元日弁連消費者問題対策委員会副委員長、元第二東京弁護士会副会長。

事務所名:シンフォニア法律事務所