10月12日の「未来世紀ジパング」(テレビ東京)は、アメリカのイノベーションを紹介していた。技術革新が起これば、それまであった産業が駆逐されていく。米ニューヨークでは9月、イエローキャブのタクシー運転手たちがデモを起こしていた。
彼らが目の仇にしているのは、スマホアプリで利用客と個人運転手を結ぶ配車サービス「Uber(ウーバー)」。壇上で激しく叫ぶ女性は「我々はウーバーにNOと言いたい!」「ウーバーの経済システムがタクシー運転手の生活を脅かしている!」と抗議した。
演劇学校に通いながら運転手「月60万稼げる」
簡単な操作で運転手つきの自家用車を利用できるウーバーは、米国で人気が高まっている。街で聞くと「携帯で呼べは数分で来てくれるわ。タクシーより便利ね」と好評だ。
アプリの地図で現在地を示すと、近くにいる登録車が迎えに来てくれる。到着までの待ち時間や運転手の顔写真、車の外観まで瞬時に表示され、行先もスマホを通じて連絡済みだ。
アプリ地図によって運転手にナビケートされるため、面倒な説明は要らないうえに、登録済のクレジットカードで支払いを行うので現金も不要。チップを払わなくていいのも人気の理由だという。
このサービスを提供するのが、2009年にサンフランシスコで創業した「ウーバーテクノロジーズ」のトラビス・カラニックCEOだ。創業後わずか6年で企業価値は5兆円。フェイスブックに匹敵する急成長企業となっている。
ウーバーの登録運転手はタクシー運転手の免許を持たなくても、自家用車とスマホがあれば簡単に始められる。リーマンショック後に仕事がなくてやり始めたという、演劇学校に通いながら運転手を続けるシェリーさんも、「自由な時間で働けるのが魅力ですね。手取りは最低でも月5000ドルぐらい(約60万円)」と明かした。
評価が低い運転手はライセンスが剥奪されるしくみ
ウーバーは利便性がウケて、世界60の国と地域、330都市以上で展開している。タクシー発祥の地といわれる英国ロンドンでも、運転手によるウーバーへの抗議デモが起きていた。運転手は「毎月1400ポンド(約25万円)も売り上げが減っている」と嘆く。
ロンドンで伝統の「ブラックキャブ」の運転手になるには、平均3年はかかる難関試験を突破しなくてはならない。「質が売り」のはずだったが、イノベーションに抗えず喘いでいた。世界中のタクシー業界から非難を浴びているウーバーだが、幹部の回答はにべもない。
「ウーバーはタクシー会社ではない。ITのプラットフォームだ。世界中に利用したい人がいる。自家用車を使って稼ぎたい人と消費者をつなぐ手助けをしている」
日本経済新聞社編集委員の鈴木亮氏の解説によると、ニューヨークではすでにイエローキャブよりウーバーの方が多いという。「世界で1日200万人が利用しているのでトラブルもあるが、登録運転手は実名で星が低い人はライセンスをはく奪されてしまう。さらに最近では保険も一部始まる」と、問題点が改善されている状況も説明した。
東京オリンピック時に「特区として規制緩和」の可能性も
日本にも進出しているが、現状では規制の壁があるため、タクシーの配車サービスに留まっている。しかし鈴木氏は「東京オリンピック時に特区として規制緩和する」という可能性も示唆した。
番組では他に、グーグルが開発中の自動運転車の話題も取り上げた。すでに試験走行中で、運転席に人はいるものの、パソコンを操作しながら走行する姿に驚いた。こうしたイノベーションが次々に起これば、タクシー運転手に限らず様々な専門家の仕事は奪われていくだろう。技術革新は素晴らしいと思う反面、複雑な思いがした。(ライター:okei)
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