FIA世界耐久選手権(WEC)第6戦富士ラウンドの決勝レースが行われ、ポールポジションからスタートしながらも、一時6番手まで落ちた17号車ポルシェ919ハイブリッドが巻き返して優勝。ニュルブルクリンク、サーキット・オブ・ジ・アメリカズに続き3連勝を達成した。2位にも18号車ポルシェ919ハイブリッドが入り、ポルシェは今季3度目の1-2フィニッシュを果たしている。3位には7号車アウディR18 e-トロン・クアトロが入った。
午前11時にスタートが切られたWEC富士。しかし、前夜からの雨が降り続き、コース上はまだまだ水量の多い状態であったため、セーフティカー(SC)先導でのスタートとなった。そのコンディションは、セーフティカー先導中にも関わらず、1周目に12号車レベリオン・レーシングと88号車アブダビ-プロトン・レーシングがスピンしたことからも、厳しかったことが明らかだ。
なお、SC先導中に各車がピットインを繰り返し、タイヤを交換したり、ドライバー交代を早々に行うなどしている。なお28号車G-ドライブ・レーシングはこの時ピットレーンの速度制限違反を犯し、後にペナルティを課せられている。
17周目、先導するセーフティカーに「速度を上げろ!」との指示が。そしてこの周でセーフティカーはピットに戻り、レースがスタートすることが宣言される。そして18周目、ついにレースがスタート。しかし、ポルシェの2台は共にすぐにペースを上げることができず、アウディの2台、そしてトヨタの2台にも先行を許してしまう。トップから一気に6番手まで下がってしまった17号車ポルシェ919ハイブリッドのマーク・ウェーバーは、翌19周目の1コーナーで18号車をオーバーテイク。続く20周目には2号車トヨタTS040ハイブリッドを交わして4番手に復帰する。18号車ポルシェ919ハイブリッドも2号車を狙うが、コカ・コーラ・コーナーで両者接触。揃ってスピンを喫する。
21周目にウェーバーは、中嶋一貴がドライブする1号車トヨタTS040ハイブリッドに接近。続く22周目に1号車が28号車G-ドライブ・レーシングに詰まったところ、ウェーバーがオーバーテイクを狙うが、なかなか抜けない。
そして23周目の素晴らしいバトルに、観客は魅せられた。トップスピードに勝る17号車ポルシェ919ハイブリッドが、1コーナーまでに1号車トヨタTS040ハイブリッドの前へ。これで勝負が付いたかと思いきや、中嶋はそう簡単には譲らない。コカ・コーラ・コーナーのインを狙い、中嶋が技ありのオーバーテイクでやり返す。しかし、続く100Rで少しはらんだ所をウェーバーが見逃さず、ふたたび17号車ポルシェが前へ。これでも両者のバトルは終わらず、次なる舞台は300R。77号車デンプシー-プロトン・レーシングを間に挟み、アウトにウェーバー、インに中嶋。そして2台はダンロップコーナーへ。ここで勝ったのが中嶋で、1号車がポジションキープ。ウェーバーは18号車にも抜かれて再び5番手へと落ちてしまった。
少しずつ水量が減っていく路面。こうなると、ポルシェのトップスピードが活きてくる。そして25周目、メインストレートで18号車ポルシェ919ハイブリッドが1号車トヨタTS040ハイブリッドを交わして3番手に浮上。トヨタの前に出た18号車ポルシェ919ハイブリッドの次なる標的はアウディの2台で、36周目に8号車アウディR18 e-トロン・クアトロをオーバーテイク。1号車トヨタTS040を抜いていた17号車ポルシェ919ハイブリッドも、8号車を交わしてポルシェが2-3体制となる。
スタートで先頭に立ち、トップを快走していた7号車アウディR18 e-トロン・クアトロ。しかしその後方から、18号車ポルシェ919ハイブリッドが1秒速いペースで、17号車ポルシェ919ハイブリッドが2秒速いペースで迫ってくる。その差は徐々に詰まり、そして71周目のメインストレートで18号車が7号車を交わしてついにトップに立つ。17号車も続いて7号車に襲いかかるが、ウェーバーはなかなかアウディを攻略できない。メインストレートの立ち上がりは、ポルシェの方が圧倒的に速いが、ストレート中盤で加速が鈍り、アウディが再接近するという状況に陥ってしまう。ERSの電池容量なのか、それともスリップストリームの影響なのか? ウェーバーは非常に苦労したが、76周目に7号車アウディR18 e-トロン・クアトロがピットに入ったことで、バトルは終結する。
このピットインで、7号車はインターミディエイトと思われるスリックタイヤを装着。ドライバーもアンドレ・ロッテラーが乗り込んだ。翌週には8号車アウディR18 e-トロン・クアトロ、続く周回に1号車トヨタTS040ハイブリッドなど、各車が続々と2回目のピットインを行い、インターミディエイトタイヤに履き替えている。ただ、78周目にピットインした1号車トヨタTS040ハイブリッドは、アンソニー・デイビッドソンがピット入口でホワイトラインカットの反則。これでペナルティが課せられ、せっかく接近していた8号車アウディとの差が、再び広がってしまうことになる。
3時間が経過した頃、ポルシェ919ハイブリッドの18号車が先頭を走り、2回目のピットインでもポジションをキープした7号車アウディR18 e-トロン・クアトロが2番手。その直後からは17号車ポルシェがハイペースで迫っている。トヨタTS040ハイブリッドの1号車はここから40秒ほど遅れた位置。デビッドソンが課せられたピットストップ時のペナルティが痛かった。そして17号車ポルシェ919ハイブリッドは、7号車アウディR18 e-トロン・クアトロをついに捉え、ポルシェが1-2体制を完成。後続との差を広げはじめる。119周目には2番手に上がった17号車のペースが1分33秒台へと上がり、路面コンディションが回復していることを伺わせる。
この日のレースは、6時間通して雨が降ったり止んだりと、変わりやすい天候。ただ、レコードラインは徐々に乾いていく傾向にあり、2時間を経過する頃にはポルシェ919ハイブリッドの2台が1分30秒台ペースへとアップする。路面は確実に回復傾向にある。
4時間を経過した頃、1号車トヨタTS040ハイブリッドにトラブル。右フロントのヘッドライトカバーが破損してしまったのだ。そのためピットには、新しいフロントカウルが用意される。ただし、1号車はなかなかピットインせず、走行を継続。警告が出るまではできるだけ走り、当初のストラテジーを崩さないことを目指す。
7号車のアウディR18 e-トロン・クアトロのアンドレ・ロッテラーが、ポルシェに続いて1分30秒台のペースに突入。すると今度はポルシェ919ハイブリッド17号車のブレンダン・ハートレーが1分29秒台に。すでにレコードラインは、完全にドライとも言って良い状況のようだ。インターミディエイトタイヤを履いているマシンたちは、直線などではレコードラインを外して濡れている部分を選んで走行する。
153周目を走り終えたところで、1号車トヨタTS040ハイブリッドがピットに向かう。しかしカウルを交換せず、外れかけたヘッドライトのカバーを千切り取っただけでコースに復帰していく。その直後、コースに復帰したばかりの1号車をドライブするセバスチャン・ブエミは、1コーナーでスピンを喫するも、大きな影響なくレースを続行する。ドライタイヤを装着したと思われる7号車アウディR18 e-トロン・クアトロはペースをその後も上げ、ついには1分27秒台、さらには1分26秒台のラップを刻む。レースペースながら、昨年までの予選でのコースレコードをも超えるハイペースである。
レース時間の残りが間もなく30分というところで、7号車アウディR18 e-トロン・クアトロがLM-GTEクラスのマシンと接触。大きくスピンを喫する。これは、7号車が18号車ポルシェ919ハイブリッドに詰まってしまった際、LM-GTEのマシンがいることを確認せずに進路を変更したことが原因。これで、接触されたGTマシンはパンクを喫するが、7号車には大きな問題なく、チェッカーに向けて走行を続けていく。
ただちょうどこの頃、トップを走行していた18号車ポルシェ919ハイブリッドに黄旗区間での追い越し違反があったということで、ドライブスルーペナルティが課せられるが、2番手17号車との差は大きく、順位の変動はない。ただ、時を同じくして18号車には「17号車を先行させよ」とのチームオーダーが出ていたようで、コースに復帰した18号車はペースをガクリと落とし、17号車に先方のポジションを譲ることになる。
これで17号車ポルシェ919ハイブリッドの3人のトリオが、ランキングトップに浮上するのが確実となったが、アウディは7号車のトリオの失点を少しでも抑えるために、やはり“チームオーダー”とも思えるピットインを8号車に指示し、ここもポジションを入れ替え……結局17号車ポルシェ919ハイブリッドがトップでチェッカーを受け、3連勝を果たすと共に、ブレンダン・ハートレー/マーク・ウェーバー/ティモ・ベルンハルトの3人がドライバーズランキングでもトップに浮上した。2位でフィニッシュしたのは18号車ポルシェ919ハイブリッド。3位には7号車アウディR18 e-トロン・クアトロが入ったが、僅か1点差でポルシェ17号車のトリオにランキング上先行されることになった。トヨタTS040ハイブリッドは、5位に1号車、6位に2号車が入っている。
大きく順位を落としても、最後には勝つ。三たび、ポルシェ919ハイブリッドの強さを見せつけられた、そんなWEC富士ラウンドであった。次回のWECは、第7戦。舞台は上海インターナショナル・サーキットで、11月1日(日)に決勝レースが行われる。