みなさんは海外に「KAROUSHI(カロウシ)」という言葉があることをご存じでしょう。語源は日本語の「過労死」。自国語で理解できない外国の事象を、外国語のまま言い表すことがよくありますが、そこに新しい日本語が入るかもしれません。
その言葉とは「MATAHARA(マタハラ)」。妊娠した女性に対する嫌がらせを指す「マタニティ・ハラスメント」という和製英語の略です。グローバルなニュースを扱う米DIPLOMATIC COURIERが、日本のマタハラを取り上げています。(文:パッタナカーン山崎)
日本は男女同権に関して遅れをとっていると指摘
記事は、日本は先進国であるにもかかわらず、男女同権に関しては遅れをとっていると指摘します。女性従業員が妊娠すると、業務の軽減や産休によって他の従業員の負担が増えるために、彼女たちの妊娠を迷惑だと感じる経営者が多くいます。
そのため不当な扱いを受けたり、時には解雇されることもあります。もちろん日本にも女性を守る法律はありますが、徹底されているわけではありません。その結果、日本では6割もの女性が第一子の出産後に仕事を辞めています。
しかし、キャリアと家族を両立させ、それを妨害しようとする社会と闘う女性もいます。今年6月24日にマタハラの被害者たちが記者会見を開き、マタハラの体験を語りました。日本労働組合総連合会の調査では、回答者の26.3%の人がマタハラを経験したことがあるとのこと。
この会見を開催したマタハラNetは、マタハラの被害者を支援し、社会にこの問題を啓蒙する東京のNPOです。代表の小酒部さやかさん自身も職場でのマタハラを受け、NPOを設立。その活動が評価され、米国務省の「世界の勇気ある女性賞」を受賞しました。昨年10月には最高裁判所がマタハラの被害者に有利な判決を下し、注目を集めました。
急速な高齢化と出生率減少がダブルパンチに
日本は今、急速な高齢化と出生率減少のダブルパンチに見舞われています。2014年には、日本の人口は26万8800人減少。100万人生まれても100万2700人が死亡するという計算で、日本の出生数はこの先も減っていくと見られています。
多くの若者が結婚し、家族を作ればよいのですが、若者は子どものことを考える前にキャリア形成を始めます。日本では子どもを育てるのに、多くのお金と時間がかかるのです。OECDは日本の男女の大幅な給料格差と長時間労働が、女性が子育てしながら仕事を続けることの障害になっていると報告しています。
高齢化が顕著な日本では、生産年齢層の負担となる被扶養人口(15歳以下と64歳以上)の数が増え続けています。2010年には64歳以上の被扶養人口が100人の労働者に対して36人でしたが、2050年には72人になる(36ポイント上昇)見込みです。一方、15歳以下の被扶養人口は4ポイントしか上昇しません。
また、日本は世界一の長寿大国であり、女性の平均寿命は87歳、男性は80歳。日本の高齢者人口は増える上に寿命が伸びており、労働者の負担は増える上に、長く続くことになります。
「女性の職場環境の改善」が何よりも先と指摘
妊娠中や子育て中の女性を職場から排除することは、経済的にもマイナス要因です。男性の81%が就労しているのに対して、女性は62%にすぎません。OECDは日本の女性は男性と同等の教育を受けているのに、労働市場では活用されていないと指摘しています。
女性の就労が増えれば、日本はもっと効率的に労働力を多様化できるはずです。この国は女性の教育に大きな投資をしているのに、「マタハラ」のような差別から女性を守ろうとせず投資を無駄にしています。ブルームバーグ社は日本の雇用の男女差がなくなれば、GDPが13ポイント上昇するだろうと指摘しています。
安倍首相の経済政策「アベノミクス」の中にも、「ウィメノミクス」と呼ばれている女性の活用を目指す政策があります。しかし、これは職場で逆境に直面している女性たちの現実に対応していないと批判されています。小酒部さんも「女性に関わる職場環境を改善することが先」と懸念を表しています。
記事は、「マタハラ」はキャリアと家族を両立したい一人ひとりの女性にとって大きな問題であると同時に、高齢化社会と労働人口の減少という問題を抱えた日本社会全体にとっても大きな課題であるとまとめています。
(参照)Matahara: An Issue with a Larger Context (Diplomatic Courier)
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