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吉澤嘉代子が明かす、楽曲の主人公の描き方「どのカードをいつ切るか。それは時期の問題」

2015年10月10日 14:21  リアルサウンド

リアルサウンド

吉澤嘉代子

 今年の3月に発表したファーストアルバム『箒星図鑑』で“少女時代”を描き切り、その後のツアーでメジャーデビュー以降の最初のフェイズを終えた吉澤嘉代子。そんな彼女から、早くもセカンドシーズンの幕開けを告げる3枚目のミニアルバム『秘密公園』が届いた。等身大の自分を描くのではなく、物語を描いて聴き手に自分を重ねてもらうというスタイルはそのままに、曲の中の主人公は「美少女」から「綺麗」な女性へと成長を遂げている。その変化は人生の様々な瞬間を曲という形で永遠に封じ込めることであると同時に、彼女の中にある二面性との距離を測る行為の表れでもあるようだ。ORESAMAの小島英也をはじめとした外部のクリエイターとの交流も経て、ますますその世界を広げつつある彼女に、じっくりと話を聞いた。(金子厚武)


・「『箒星図鑑』はすごく別格な作品だった」


ーー今年の3月にファーストアルバム『箒星図鑑』が出て、5月に東名阪のツアーがあり、デビュー以降の最初のフェイズに一区切りがついたのかなと思うんですけど、ここまでの活動を振り返って、どんな手応えを感じていますか?


吉澤嘉代子(以下、吉澤):『箒星図鑑』はずっと書きたかった“少女時代”をテーマにしたアルバムだったんです。仕事をするようになって、自分は少女時代から抜け出た感覚があるんですけど、でも作る曲の少女性みたいなのは、自分を構成するもののひとつだと思うので、それを捨てることはできないと思うし、今も現役の少女に曲を聴いてもらいたいっていうのが一番強いんです。ずっと「少女時代をテーマに作らなければならぬ」というか「私が作らなくて誰が作る」みたいな、勝手な使命感を持っていて、それをパッケージするまでは気が気じゃなかったので、『箒星図鑑』を出せたことは、ものすごく大きかったですね。


ーーひとつの使命を果たせて、ちょっと肩の荷が下ろせた?


吉澤:そうですね、ひとつ下ろせました。まだやりたいことはいっぱいあるんですけど、“少女時代”をパッケージすることは初期の段階でやりたかったので、すごく別格な作品だったんです。


ーー2014年のメジャーデビューから、もっと言えば、2013年のインディーズデビューから、ファーストアルバムまでずっと突っ走ってきたと思うんですけど、ツアーが終わって、多少のリフレッシュ期間はあったんですか?


吉澤:デビューしてからリフレッシュ期間はないです(笑)。あ、でも5月にツアーをやった後に、あばらにひびが入ってしまって、レコーディングができなくなって、そのときはリフレッシュ期間というか、何もできなかったですね。


ーーそのときに、どんなことを考えましたか?


吉澤:何もしなくなると、自分がどんどん自分の中で大きくなってしまって、ものすごい自分が醜くて仕方なくなってくるんですよね。自分の醜さが許せなくなってきて、「私大丈夫かな? どうしよう?」って思ったんですけど、ひさしぶりにライブをしたときに、そこから一気に解放されたというか、人前に出ることによって、「自分は人前に出ていい生き物なんだ」みたいなことを人から教えてもらって、自分を許せたというか。なので、ライブって思ってたよりも大切なものだったんだって思いました。


ーー曲やライブで妄想を具現化することによって、自分との距離を保っているというか、バランスを取っているのかもしれないですね。


吉澤:そうですね。何もしなくなると、自分の世界に入り過ぎちゃうのかもしれないです。子供の頃もそうだったのかもしれない。


ーー魔女修行時代っていうことですよね。


吉澤:なので、今も曲を書き続けなければって思うんですけど、この仕事は曲を作る期間と、ツアーとかキャンペーンをする期間と、いろんな時期があるじゃないですか? 家に籠ってる時期と、各地に出っ放しの時期があるっていうのが、たぶん性に合ってるんだと思います。いつも家にいてもダメになっちゃうし、ずっと外に出ててもダメになっちゃうと思うから、そのバランスはすごくいいなって思いますね。


・「呪いをかけるような曲というか、エゴの塊みたいな気持ちを曲にしたいと思って」


ーーでは、『箒星図鑑』でひとつの使命を果たした後、どのようにして今回の『秘密公園』に向かったのでしょうか?


吉澤:いくつかテーマを持っていたんですけど、一歩踏み出した感は演出したいと思って、私の持っているテーマの中で、一番イケイケなものを作ろうと思ったんです。ロマンチックなもの、シンプルなもの、王道なものっていうのを作りたいと思って、それは『箒星図鑑』を出して少し肩の荷が下りたからこそ、作ろうと思えたのかもしれないです。


ーーメジャーデビューミニアルバムの『変身少女』は“ラブリーポップス”がテーマになっていましたが、その少女が少し成長したようにも感じました。


吉澤:主人公たちの年齢を少し上げたというか、今まではティーンの女の子、中高生の主人公が多かったんですけど、今回は私と同世代の感覚、社会人2~3年目みたいな感覚を盛り込みながら書きましたね。


ーー象徴的なのが一曲目の「綺麗」で、『箒星図鑑』にも入っていた「美少女」で〈恋がしたい〉と言っていた主人公が、成長して、実際恋をしたのかなって。


吉澤:私はいつもタイトルから曲を作るんですけど、『箒星図鑑』の中に入っていた「ストッキング」の最後に〈夜空に伝線した 箒星かかって綺麗でしょう〉ってフレーズがあって、“綺麗”って言葉を改めて見たときに、その形自体がなんてきれいなんだと思って、好きな言葉とか引っかかる言葉をタイトルにすると、それだけで自分のものになったような気がするんですよね。きっと所有欲なんだと思うんですけど、「綺麗」もそこからスタートして、「じゃあ、“綺麗”に見合う物語って何だろう?」と思って、歌詞を書きました。


ーー平仮名の“きれい”でも片仮名の“キレイ”でもなく、漢字の“綺麗”がよかったと。


吉澤:そうですね。もうキレキレ……あ、つまんないこと言っちゃった(笑)。


ーー(笑)。


吉澤:この曲は隣にいるあなたに自分をきれいだと思ってもらえてたらいいなってところから、もう会えなくなったとしても、今この瞬間の私を一生きれいだと思い続けてほしいっていう、呪いをかけるような曲というか、エゴの塊みたいな気持ちを曲にしたいと思って。〈きらっきらっ〉〈ぴかっぴかっ〉〈くらっくらっ〉っていうきれいな言葉に濁点がついて、〈ぎらっぎらっ〉〈びかっびかっ〉〈ぐらっぐらっ〉って意味も変わって、狂気的になって行くみたいなのをやりたいと思ったんです。


ーーそういう歌詞を書くきっかけは何だったんですか?


吉澤:『箒星図鑑』のツアーが、一週間に6日間ライブみたいなすごいスケジュールで、私ギリギリまでああだこうだ言い張って、悲惨な気持ちで最後の東京を迎えたんですけど、でもその赤坂BLITZのライブで全部昇華されて、ホントに素敵な一日になったんです。その経験が、夏休みみたいな感覚っていうか、“少女時代”っていうテーマもあったのかもしれないですけど、ホントに永遠のものだなって思って、それで「永遠って何だろう?」っていうのがその時期のテーマになり、「綺麗」ができた感じですね。


ーーなるほど。


吉澤:私は子供の頃から永遠なんて存在しないと思ってたんですけど、ツアーを経験して、もしかしたら永遠って、実は身近な存在なんじゃないかと思い始めたんです。少し前の瞬間が、全部自分の後に連なって今を生きているというか、その瞬間を自分が忘れてしまったとしても、宇宙の片隅にはその瞬間がずっと残り続ける。それが永遠なんじゃないかと思って、それでこの曲を書いたんです。


・「自分のメロディーをもっと広げたい」


ーー「綺麗」はORESAMAの小島英也くんとの共作ですが、実際の制作はスムーズに進みましたか?


吉澤:私は〈綺麗 綺麗〉ってところをサビとして書いたんですけど、プラスもう一個サビがあったらいいんじゃないかって提案をもらったんです。それでチャレンジはしてみたんですけど、でも私にはどうしても〈綺麗 綺麗〉の部分がサビとしか思えなくて、小島くんに相談して今の形に。最初は人と一緒に作ること自体に抵抗があったんですけど、小島くんのメロディーは自分にはないものだから、お願いしてよかったなって、レコーディングが終わってからそう思いました。


ーー人と一緒に曲を作ることは、途中で言っていたように「一歩踏み出した感」の演出であり、自分の中でのチャレンジだったわけですか?


吉澤:そうですね。自分のメロディーをもっと広げたいっていうのがあって、人の曲を自分の曲として歌うことによって、身につく感覚があるなって。前は歌詞とかも絶対自分のじゃないと嫌だと思ってたんですけど、今回一緒に曲を作ったことで、人から歌詞を提供してもらうのもいいなって思えました。松本隆さんを抜きにすると、私は今まで歌手の人の歌詞よりも、短歌とか小説からの影響が強かったので、詩人の文月悠光さんとか、同世代の人と一緒に作るのも面白そうだなって。


ーー松本隆さんといえば、「綺麗」はアレンジも含めて80年代のアイドル歌謡っぽい雰囲気がありますよね。それこそ、松本隆さんとユーミンのコンビによる松田聖子さんの曲みたいな。そういう意識ってありましたか?


吉澤:意識しましたね。パラレルワールドというか、時間軸のない世界をどう言葉で表現しようかと思ったときに、松本隆さんの〈映画色の街〉(「瞳はダイアモンド」)とか〈春色の汽車〉(「赤いスイートピー」)とか、はっきりと断定できない色で、その世界の色合いを表すってことを私もやりたいと思って、それで〈硝子色の時間〉っていう言葉で、時間軸のない世界、スノードームの中みたいな、そういうのを表現してみました。


ーー「必殺サイボーグ」はHALIFANIEの作曲で、曲を提供してもらうこと自体初めてですよね?


吉澤:初めてです。HALIFANIEはドラマーの張替(智広)さんと小貫早智子さんのユニットなんですけど、ハリーさんは前からドラムでお世話になっていて、この曲はもともと“殺し屋サイボーグ”っていうタイトルで寝かせてたんですけど、ハリーさんからいくつか曲を聴かせてもらったときに、今回のを使わせてもらった感じです。これも自分では作らないタイプの曲だと思います。


ーー星新一さんの「ボッコちゃん」から着想を得た曲だそうですが、星新一さんのショートショートと吉澤さんの歌詞は確かに通じるものがありますよね。日常から妄想の飛躍具合というか。


吉澤:星新一さんは子供の頃から好きで、何で好きなのかなって思ったら、人がよく死ぬんですけど、悲しい落としどころとして利用してないところが好きなんだなって思って。私、人が亡くなる物語があんまり好きじゃないんですよね。死に頼ってる感じが気持ち悪いというか、それを物語の大きな起点みたいに使うのが好きじゃないんですけど、星新一さんはそれを記号として使ってる感じがして、そこが好きなんだと思います。


・「家族といても恋人といても、一人であることには変わりがない」


ーー「ユキカ」は幼馴染の名前だそうですが、これって『箒星図鑑』に入ってた「雪」のモチーフになった子と同一人物ですか?


吉澤:いや、別の人で、友達にゆきちゃんが3人いて(笑)。それぞれみんな好きでいい子たちなんですけど、ユキカちゃんは小学生の頃からの幼馴染で、すごい冷静な子なんですけど、心の中はすごく熱いというか、愛情のある人だと思ってて。この曲の主人公がユキカちゃんだってわけではないんですけど、その内面の熱さみたいなのが、曲にも出てるなって、あとから思いましたね。


ーー最後の「真珠」は「綺麗」と並んで今回のテーマ曲的な印象を受けたというか、好きになった分孤独を感じるという歌詞の内容から、少し大人になった主人公を想像しました。


吉澤:この曲が『秘密公園』を作る土台になっていて、あとの5曲は今年書いたんですけど、この曲だけ古い曲なんです。書いた当時は、世の中で孤独が悪いことのように扱われてる雰囲気を感じて、学校でも職場でも、一人でお弁当が食べれないみたいな、そういう孤独が悪いって感じがすごく嫌だなって思ったんです。誰しもが誰も入ってこられない領域を持っていて、それがあるからこそ人と関わりを持とうとするというか、関わりを持てるんじゃないかと思ったときに、孤独を否定も肯定もしない曲にしたいと思って。もちろん、一人で生きてるわけじゃないんですけど、家族といても恋人といても、一人であることには変わりがないってことを書きたかったんです。


ーー今ってSNSとかでつながることが大事ってなってますけど、それと同じくらい一人の時間を持つことも大事だったりしますよね。ちょっと前にあるミュージシャンと話をしたんですけど、今ってフェスとかイベントに一人で行くことを、「ぼっち参戦」って言うじゃないですか? Twitterとかで「ぼっち参戦なんですけど、行ってもいいですか?」みたいな。


吉澤:あー、よく訊かれる!


ーーいいに決まってるじゃんって話なんですけど、「ぼっち参戦」っていう言葉が生まれてしまったことによって、あたかも一人で行くことが恥ずかしいことみたいになっちゃってて、よくないなって思うんですよね。


吉澤:それよく訊かれるんですけど、いつも「私もステージ上では一人だから大丈夫」って言ってます。バンドメンバーがいたとしても、一人は一人だから。


ーー『秘密公園』の主人公たちは、これまでより少し大人になった感がありますが、ここには吉澤さん自身の成長も反映されていると言えますか?


吉澤:少女性と同時に、私には冷ややかな視線もずっとあって、その幅の中から取り出して曲を書いて、「今回のテーマはこれにしよう」って決めて作品を作ってるので、ちょっと大人びたというか、大人に憧れるような今回の書き方っていうのも、あえて書いたっていう感じですね。もともと自分の中にあるものから、今回のテーマとして書いたって感じなので、自分が成長したなって感覚はあんまりないんです。どのカードをいつ切るかっていう、それは時期の問題なのかなって思います。


ーーだとすると、次に切るカードももう手元にあるわけですか?


吉澤:いっぱいありますね(笑)。日常をテーマにしたいなって思ってます。


ーー途中で話に出た“瞬間と永遠”という話にも通じそうなテーマですね。ライブで体験したような永遠の一瞬が、日常の中にもあるんじゃないかっていう。そう考えると、やっぱり赤坂BLITZでのライブっていうのは、その後の曲作りに大きく影響してるのかなって。


吉澤:確かに、そうですね。あんな公の場で、自分がそんな大事な体験をしたっていうのが、ちょっと恥ずかしいですけど(笑)。


(取材・文=金子厚武)