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北野映画の常連役者たち――『龍三と七人の子分たち』を含む全作品から出演歴を検証

2015年10月10日 14:21  リアルサウンド

リアルサウンド

(C)2015 『龍三と七人の子分たち』 製作委員会

 今年4月に公開された映画『龍三と七人の子分たち』は、北野武監督作品としては17作目にあたる。引退した元ヤクザの「ジジイたち」一龍会と、オレオレ詐欺や悪徳訪問販売などの悪さをしている「ガキたち」京浜連合の対立を主軸とした、コメディタッチのエンタメ作である。公開から21日目で観客動員数が100万人を突破、興行収入は北野映画史上歴代2位を記録(1位は2003年公開の『座頭市』)というヒット作となった。


 そんな本作のBlu-ray/DVDがリリースされたこのタイミングで、本記事では少々風変わりな考察を試みる。「この映画に出ていた俳優が、別の映画ではこんな役をしていた」という事実を見つけるのは映画の楽しみのひとつといえるが、それをもはや一種のブランドとして確立して久しい「北野映画」という枠組みにおいてやってしまおうという試みである。つまり、本作『龍三~』の出演俳優全員の中で、過去の北野映画に出演したことのある俳優はどれだけいるのか、そして何という映画で何の役をしていたのかを総チェックしてみようというわけだ。


 本作の出演者人数を映画最後のスタッフロールで数えてみると、全部で156人だった(氏名が表記されている人のみ。「ラッキーリバー」「舞夢プロ」などの会社/団体名のみの表示は7つ、そして「ボランティアエキストラの皆様」という表示も一番最後にあったが、これらに含まれているであろう氏名不詳の出演者に関しては今回の検証の対象外とする)。人数の結論だけ先に述べると、156人の中で北野映画に2作以上出演しているのは23人だった。以下、簡単にカテゴリ分けをしつつ紹介していこう。


◆メインキャスト


 本作のタイトルにもなっている「龍三と七人の子分たち」が指し示す8人中、北野映画初出演は藤竜也(龍三親分)、近藤正臣(若頭のマサ)、品川徹(早撃ちのマック)、小野寺昭(神風のヤス)の4人。つまり、もう4人は過去に何らかの北野映画に出演したことがある俳優となる。


 バラエティ番組で存在感を放ち、本作でもはばかりのモキチ役でコミカルかつ悲哀のある演技を見せた中尾彬は、前作『アウトレイジ ビヨンド』(2013)では物語序盤で山王会の乗っ取りを企んだ幹部ヤクザ・富田役で出演。さらに『アキレスと亀』(2008)でも主人公・倉持真知寿の父親の利助役と、近年の計3作に登場しており北野映画の新たな常連俳優になりつつある。


 五寸釘のヒデ役の伊藤幸純も、中尾と同じく過去2作に出演経験あり。『キッズ・リターン』(1996)では主人公のマサルとシンジが通う高校の数学教師役。授業をサボったマサルとシンジが屋上から卑猥な人形を吊り下げて遊ぶのを怒っている先生、と言えば思い浮かぶ人も多いだろうか。『みんな~やってるか!』(1995)はシークエンス・出演者ともに他の作品よりも多めの、一種のコント集合体映画(そして怪作であると同時に唯一無二の傑作)なのだが、その中の銀行強盗のシークエンスにて銀行員役で登場している。セリフはないが、銀行強盗シークエンスが始まる最初のカット、行員たちが集まって強盗に怯えるシーンの右側に伊藤が立っているのが確認できる。背広につけたバッジから役名が「小山」だとわかる。


 残りの2名は、どちらも『龍三~』以外は1作に出演。ステッキのイチゾウ役の樋浦勉は、『座頭市』では柄本明扮する呑み屋の主人にこき使われている老人役。カミソリのタカ役の吉澤健は、北野映画第1作『その男、凶暴につき』(1989)ではヤクザ組織のナンバー2・新開役だった。物語終盤で「どいつもこいつも気違いだ」というセリフを吐いてから、四半世紀後に北野映画最新作への登場となった。


◆北野映画の常連俳優


 26年・17作品の歴史を持つ北野映画だが、そこには複数の作品に出演する、いわゆる常連的な俳優の姿が見受けられる。よく名前が挙げられるのが寺島進、大杉漣、白竜、そして芦川誠である。前3人は本作『龍三~』には未出演だが、芦川は焼き鳥屋店主役でその姿が確認できる。8人の中から一龍会の親分を決めようと過去の罪状を自慢気に語りだし、それをカウントする店主、円卓に乗って回転するカメラが8人を捉えるのが印象的なシーンだ。


 芦川は『その男~』の北野武扮する主人公・我妻刑事の部下である気の弱そうな菊地刑事を皮切りに、『3-4X10月』(1990)では草野球チームのメンバー・朗、『みんな~』ではやはり北野扮する透明人間推進協会博士の助手と、初期から多数の北野映画に参加。『TAKESHIS'』(2005)以降は少しご無沙汰だったが『龍三~』で久々に登場、計9作の出演回数を誇る。


 浄水器はサービスと言いつつ羽毛布団を売りつけようとする京浜連合・北条役の矢島健一は、過去2作に出演、それぞれ印象深い役柄だった。北野映画の最高傑作として挙げる人も多い第4作『ソナチネ』(1993)では、北野扮する主人公・村川と対立するヤクザの高橋役。エレベーターに乗り合わせて、村川が「高橋」と呼びかけた刹那に始まる銃撃戦シーンは、『ソナチネ』のみならず北野映画全体においても屈指の名場面のひとつだろう。ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞し、北野映画の世界的評価を決定づけた名作『HANA-BI』(1998)では、主人公・西とその妻を気づかう優しげな担当医役だった。


 龍三の息子であるサラリーマン・龍平を演じた勝村政信は『ソナチネ』以来久々の出演。沖縄のトッポい青年ヤクザを演じ、物語終盤まで長くスクリーンに登場していた。北野とはバラエティ番組『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』のレギュラー出演での縁がきっかけでの映画出演と思われるが、そういった番組共演や、タレント事務所「オフィス北野」所属などの縁からの起用というケースは、北野映画においては数多く見受けられる。


 本作『龍三~』での北野扮する村上刑事の直近の部下の刑事(役名なし)を演じたのは國本鍾建。オフィス北野所属の俳優である國本は、『BROTHER』(2001)以降ほぼすべての作品に何らかの役で出演している常連で、回数は計7作にのぼる。『TAKESHIS'』ではヤクザの坊っちゃん御曹司に仕えて、映画オーディションでも坊っちゃんのとなりでセリフを読み上げるという過保護な側近ヤクザを演じていたが、そんなコワモテの役だった國本が本作では刑事役というのが面白い。


 清水富美加扮するキャバクラ嬢と恋仲で、一龍会と京浜連合の板挟みとなるロン毛の石垣を演じた石塚康介もオフィス北野所属。役者志望で北野に弟子入りし、付き人として運転手をやっているそうだ。本作以外に『アウトレイジ ビヨンド』にも出演している。


◆たけし軍団


 ビートたけしの弟子たちにより構成されるタレント集団「たけし軍団」。北野映画においてもたけし軍団メンバーの出演率は高いが、本作では焼き鳥屋の店員役(セリフなしで焼き鳥を焼いている)にケンタエリザベス3世、終盤のカーチェイスシーンで西たちの車に当て逃げされそうになって怒る男役にガンビーノ小林が出演していた。ケンタは『アウトレイジ』(2010)のラーメン屋店員(「早く持ってけバカヤロー!」と言われ指入りラーメンを客に出すシーンが見どころ)など計3作、ガンビーノは『HANA-BI』以降計7作に登場。


 シェパード太郎もたけし軍団からの起用メンバーだが、本作が初出演となる。現在はたけしの付き人をやっているそうだ。


その他の俳優


 本作でどの役柄を演じているか確認できなかったが、関口あきら、保科光志、鈴木隆仁の3名は、それぞれ計3、3、2作の北野映画出演回数となる。関口は『Dolls』(2002)ではおめんの男、『監督・ばんざい!』(2007)ではこける警官役。鈴木は『ソナチネ』で村川組組員を演じている。


女優


 次は女優たちのケースを見ていこう。はやしだみき、鯉沼トキ、瀬戸夏実、三浦久枝の4名は本作含めそれぞれ計4、3、2、2作の出演歴。はやしだは『アキレスと亀』では電車の乗客役を演じている。また、この4人とも事務所「ラッキーリバー」所属という共通点がある。


 早撃ちのマックへの手紙を届ける看護士、カミソリのタカへの手紙を届ける老人ホーム職員はそれぞれ山本恵子、北澤清子が演じている。この二人、実は北野映画の隠れた常連女優である。元々は80年代に松本伊代のバックダンサー兼コーラスコンビ「キャプテン」として芸能界デビュー。「Be-2」として再デビューもしたが、芸能活動を辞めかけていた頃に『北野ファンクラブ』などのビートたけしバラエティ番組に「デビル・ガールズ」として準レギュラー出演。その縁もあり、『HANA-BI』の看護士A・B役をはじめ、『菊次郎の夏』(1999)、『Dolls』にやはり看護士や老人ホーム職員役で出演している。今回の『龍三~』では久しぶりの北野映画登場となった。


◆アクション出演


 役名不明の西沢智治、浜田大介の二人は、どちらもアクションやスタントをメインとする俳優事務所「アーバンアクターズ」所属。二人は『座頭市』『アウトレイジ ビヨンド』に出演経験があり、おそらく殺陣やアクションシーンでの出演と思われる。その他に本作が初出演だが、赤池隆行、茂木亜由美も同事務所所属。


 また、キャスト欄ではなくスタッフ欄の「殺陣」にクレジットされた二家本辰己はアーバンアクターズの代表を務める殺陣師。本作以外にも『Dolls』『座頭市』『アウトレイジ』など計8作でその名前を見ることができる。「スタンドイン(ビートたけし)」としてクレジットされている所博昭も同事務所所属である。


◆ビートたけし


 さて、ここまででまだ肝心な北野映画常連俳優をひとり挙げていなかった。全17作すべての監督であり、俳優としても作品内に出演する北野武=ビートたけしである。といっても17本すべてに登場しているわけではなく、本人は出演せず監督のみに徹している作品は3本ある。すなわち『あの夏、いちばん静かな海。』(1991)、『キッズ・リターン』『Dolls』である。


 さらに出演作14本は、主演/助演によってふたつに分けることができる。だが、明確に主演と定めても問題なさそうなのは『その男~』『ソナチネ』『HANA-BI』『BROTHER』『座頭市』『TAKESHIS'』の6本だけだろう。『菊次郎の夏』は子役の関口雄介扮する正男とのダブル主役とでもいうべき内容だし、『監督・ばんざい!』は一応出ずっぱりではあるが、セリフがほとんどなく、主役というよりも作品内の象徴的存在といった佇まい。『アキレスと亀』は主人公の成長に合わせた3部構成で、たけしの登場は第3部から。『アウトレイジ』『アウトレイジ ビヨンド』で演じた大友は物語の中心にいる人物ではあるが、ヤクザ群像劇的な性格の強いこのシリーズでは、メインキャストそれぞれが主役と言ったほうが正しいのかもしれない。


 明確に助演(脇役)なのは、『3-4X10月』の沖縄ヤクザ・上原(これも沖縄編に入ってからの主役といってもいい存在感だったが)、『みんな~』の透明人間推進協会博士(映画後半の満を持しての登場感が楽しかった)の2本。本作『龍三~』の村上刑事役もこの系譜に含まれるだろう。


 至極当然のことではあるが、映画で撮影された役者はフィルムに焼き込まれ、作品内に永遠に定着する。作品外の俳優は我々観客と同じく年を取っていくが、作品内のキャラクターは年を取らない。この当たり前の事実は、過去の北野映画にその時々の姿を定着させた俳優たちの、本作での年月を重ねた姿を観たときに改めて実感させられる類のものだろう。それは、本作のテーマ「老い」とも関連してくる摂理である。(ピロスエ)