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武田梨奈が明かす、過激シーンを乗り越えた心境「落ちる所まで落ちて、見いだせる強さもある」

2015年10月08日 17:01  リアルサウンド

リアルサウンド

(c)2014「木屋町DARUMA」製作委員会

 四肢をなくした元ヤクザ・勝浦茂雄の壮絶な生き様を描いた問題作『木屋町DARUMA』(榊英雄監督)が、10月3日より公開されている。大手出版社が軒並み刊行を拒んだという丸野裕行の小説を映画化した本作では、勝浦茂雄役の遠藤憲一が鬼気迫る怪演を見せているほか、三浦誠己や武田梨奈といった俳優たちも、生々しい体当たりの演技で自身の新境地を切り拓いている。今回、リアルサウンド映画部では父親の借金を返済するために風俗嬢となる娘、新井友里役を演じた武田梨奈にインタビューを行った。前回のインタビューにて、人間の暗部も表現できる女優になりたいと語っていた彼女は、過激なシーンの数々にどのような心境で挑んだのかーー。


参考:武田梨奈が語る、女優としての次のステップ「アクションだけではない、奥行きのある演技がしたい」


■「卑猥な台詞を言うのは、かなり自分と格闘する必要があった」


ーーまずは今作に出演することが決まったきっかけを教えてください。


武田:よく共演している島津健太郎さんからお花見に誘われて、行ってみたら監督や役者さんなど、映画人がいっぱいいて、恐縮だなと思いながら隅っこでご飯を食べていたら、「君、武田梨奈さんだよね?」って、今作に出演してキャスティングも手がけている木下ほうかさんが話しかけてくださったんです。それで、「今度、こういう映画を撮りたいんだけど、よかったら台本を読んで感想をちょうだい」って、台本を渡されて。読んでみたら、正直なところ感想が言い難い作品だったのですけれど、これに出演すれば役者としての幅が広げられるんじゃないかな、とも思いました。事務所の人にそのことを伝えたら、最初は首をかしげられたけれど、話し合いの末に出演することになりました。


ーー前回、『TOKYO CITY GIRL』のインタビューの際に、武田さんは人間の暗部も表現できるような奥行きのある女優を目指したいと語っていました。今作は裏社会を描いた作品ということもあり、かなり過激なシーンもたくさんありましたね。


武田:そうですね。現場では、遠藤憲一さんが演じる手足のないヤクザの勝浦茂雄と初めて会う冒頭のシーンから、榊監督はじめ、皆さんにはかなり追い込んでいただきました。借金取り立ての嫌がらせとして、新井家に勝浦がやってくるんですけど、私が演じた女子高生の新井友里は、いきなり勝浦にセクハラをされるんです。でも、私は大先輩方との共演ということもあり、緊張していてなかなか殻が破れなくて、何度もNGを出してしまいました。どうしても“お芝居”にしかならなくて、榊監督には「お前はもう帰れ!」って、何度怒鳴られたことか。とにかくずっと怒られっぱなしの現場で、精神的にもかなり追い詰められました。でも、遠藤さんをはじめ、ほかの役者さんたちは「大丈夫だよ、何回だって付き合うから」って言ってくださって……飴と鞭の多い現場で、だからこそ得るものも大きかったように思います。もちろん、どの作品のどの役柄にも難しさはあるけれど、個人的にはこれまでの作品の中で一番、葛藤の多い作品でした。


ーー冒頭のシーンは、もはや演技には見えなかったです。


武田:かなりショッキングなシーンですよね。皆さん、ベテランの役者さんなので、どんどんアドリブを入れてくるんです。おかげで、自分が思っている以上のリアクションが出てきたのかなって思います。


ーーヒステリーを起こして暴れたり、男性を挑発したり……とにかくこれまでの武田さんでは考えられないシーンの連続で、観たひとはかなり驚くと思います。


武田:普段、生活をする中であそこまで感情をむき出しにすることはないから、本当に難しかったです。特に私は、小さい頃から空手をやっていて、感情をコントロールして表に出さない訓練をしてきたので、余計に難しく感じたように思います。空手の試合では、たとえ痛くてもそれを顔に出してはいけなくて、練習中も絶対に泣いてはいけないんです。泣くときは、トイレに行って誰にも見られないように泣けって教わってきたから、あんな風に人前で叫んで暴れたのは、初めての経験でした。自分の中にあった感情のキャパシティを超えた感じで、後半は自分でも何をしたのか覚えていないくらいです。カットがかかった瞬間、方言を指導してくれている方に「よくあんな言葉、アドリブで出てきたね」って言われて、本当に無意識で暴れていたんだなって。それくらい追い込まれたし、そういう空気を作ってくれた先輩方のおかげで、これまでに見たことのない自分に出会えたんだと思います。


ーー普段、毅然とした印象の武田さんが演じたからこそ、衝撃的なシーンになっていたと思います。後半、風俗嬢にすっかりなりきって、父親に卑猥な言葉を次々と投げかけるシーンもすごかったですね。


武田:やっぱりあのシーンは一番葛藤しましたね。木下ほうかさんや榊監督には、「女の色気をムンムンに出してほしい。無垢な少女から豹変してほしい」って言われていて、「一回キャバクラにも行ってみたら?」とも提案されていました。キャバクラで働きこそしなかったんですけど、普通は女の子がひとりで行けないような夜の街に行ったりして、なんとかその空気をつかもうと努力はしましたね。皆さんから「本当にこのセリフを武田が言えるのか?」って心配されていて、それも悔しかったから、なんとか覆したかったんです。それで、吹っ切れてあのシーンをやったら、カットがかかった瞬間、寺島進さんが走ってきて、「お前、いったいなにがあったんだ?」って驚かれました。あれほど卑猥な台詞を言うのは、かなり自分と格闘する必要があったけれど、結果的に強烈なシーンになったと思います。正直、親に見せられるかなって不安はありますが(笑)。


■「全編を通して“人間のしぶとさ”を感じました」


ーーでも、武田さんがアクション以外でも実力を発揮できる女優だということは、多くのひとに伝わると思います。映画の中で友里は、人としてどんどん落ちぶれていくわけですが、そのことについてはどう思いましたか?


武田:最初に台本を読んだときは、「友里はかわいそうな女の子だな」という感想しか抱いていなかったんですけれど、実際に演じてからは、人間は落ちる所まで落ちて、初めて見いだせる強さもあるのかもしれないと思いました。諦めというか、一定のラインを越えちゃうと、もう開き直ってしまうというか。最後の方の友里は気が触れてしまっているけれど、セクハラをされて怯えていた頃より、精神的にタフになっている部分もあると思う。少なくとも、寺島進さんが演じる父親よりは強くなっていた。だから、落ちていくのはもちろん不幸なことなんだけど、それでも生きていこうとするしぶとさが、人間にはあるんじゃないかなって。


ーーギリギリまで追い込まれた人間の強さというのは、この映画のテーマのひとつかもしれません。


武田:そうですね。正直、男の美学とか裏社会の壮絶さを描いた作品なので、私には理解できない部分も多かったけれど、だからこそ、そこに染まりきらない友里を演じることができたとも思います。また、作品が完成した後、事務所の方と一緒に試写を観たのですが、男性と女性で大きく感想が違っていたのは、すごく印象深かったですね。男性は「かなりエグい作品だと聞いていたから覚悟していたけれど、それよりむしろ、勝浦や坂本(三浦誠己)に共感するところが大きかった」という感想が多かったのに対し、女性は「トラウマになってしまうようなショッキングな作品だった」という感想が多かったです。私も基本的には女性側の感想と同じだけれど、全編を通して“人間のしぶとさ”みたいなものは感じました。


ーー武田さんは、ご自身をしぶとい人間だと思いますか?


武田:わたしはかなりしぶといですよ(笑)。自分自身のことに関してはいつも納得していなくて、何かに挑戦して、自分を追い込んでいないと気が済まないタイプなんですよね。面倒臭い性格だし、もうちょっと器用に生きれたら良いなとも思うけれど、もし器用なタイプだったら、そもそもこの仕事はしていないはず。なにもせずに気楽に生きている自分は嫌なんですよ。多分、こういう性格になったのも、空手をずっと続けてきた影響があると思う。空手は対戦もするけれど、結局は自分自身との戦いで、試合に負けるって思ったら、本当に負けちゃうんですね。だから、最後の10秒まで気を抜くことができないし、そこで自分が試されるものでもあるんです。空手のそういう部分は、役者の仕事とも通じる部分があると思います。


ーーたしかに武田さんはストイックな側面が演技にも活かされていますよね。次はどんな役柄に挑戦してみたいですか?


武田:う~ん、恋愛ものとか、アクションとか、とにかくいろんな役柄に挑戦してはみたいという願望はあるんですけど、最近はキリが無いので、とにかく片っ端から人間を演じてみたいっていう気分なんですよね。だから次は、まったく違う役柄を演じているかもしれない。自分がどう変わっていくのか、わからないからこそ楽しみでもありますね。(松田広宣)