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日本で交通事故を起こした「日系ブラジル人」が母国で有罪に・・・「代理処罰」とは?

2015年10月08日 15:31  弁護士ドットコム

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10年前に静岡県で当時2歳の女児が亡くなった交通事故をめぐり、ブラジル帰国後に現地の裁判所で過失致死罪に問われた日系ブラジル人の女性に対して、有罪だとする判断が示された。ブラジル連邦高裁は9月末までに、時効が成立したとする控訴審判決を破棄し、禁錮2年2カ月とした一審判決を支持する決定を下した。報道によると、女性は決定を不服として、10月上旬までに連邦高裁に異議を申し立てたという。


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この事故は、2005年10月に静岡県湖西市で起きた。女性が運転する軽乗用車が交差点に赤信号で進入し、女児の母親の乗用車に衝突。同乗していた女児は頭を打って亡くなった。しかし事故直後、女性がブラジルに帰国したため、日本政府はブラジル政府に「代理処罰」(国外犯処罰)を要請。女性はブラジルで起訴された。一審は禁錮2年2カ月の判決を下したが、二審は公訴時効が成立すると判断していた。



今回、日本政府がブラジル政府に要請した「代理処罰」は、どのような制度なのだろうか。日本の刑法は適用されるのだろうか。国際刑事事件にくわしい中村勉弁護士に聞いた。



●「犯人」を引き渡してもらえない場合の制度


「日本の刑法は『日本国内において罪を犯したすべての者に適用する』と定めています(刑法1条1項)。



今回の事件も、国内で発生していますから、もし犯人が日本にいれば、日本の警察が逮捕して、日本の裁判所が日本の刑法を適用して裁くことになります。



しかし、今回の事件のように、犯人が国外に逃亡してしまった場合、日本の警察が外国まで出向いて逮捕することはできません。国にはそれぞれ主権というものがあり、国家機関が他国で公権力を行使することができないのです」



犯人が国外に逃亡した場合、どうにもならないのだろうか。



「逃亡先の国に対して、犯人の引渡しを求めることになります。



しかし、日本は『犯罪人引渡し条約』をアメリカと韓国としか結んでいません。なので、ブラジルを含め、他国との関係では、犯人を引き渡してもらえない場合があります。



今回の事件では、ブラジル憲法が自国民の引渡しを禁止しているため、ブラジル国籍の女性を日本に引き渡してもらうことができませんでした。



このような場合に、日本政府がブラジル側に対して、日本国内で起こった犯罪についての審理と、犯人の処罰を求める制度が『代理処罰』です」



●日本の法律は適用されない


代理処罰では、日本の法律にもとづいて、犯人が処罰されるのだろうか。



「『代理処罰』という名前がついていますが、外国の裁判所が日本の法律を用いて裁判をするのではありません。あくまでも外国の法律、つまり今回は、ブラジルの法律を適用することになります。



今回の事件でも、ブラジルの刑法が、国外で罪を犯したブラジル人も処罰対象と定めていたために、ブラジル刑法違反として、女性は処罰されました。



しかし、仮に、そのような国外犯規定がなく、自国内の事件のみを処罰対象とする刑法を持つ国であったならば、代理処罰を求めることもできませんでした」



中村弁護士はさらに、代理処罰の問題点を指摘する。



「代理処罰の要請を受けた国は、犯人を処罰する義務を負うわけではありません。外国の捜査機関が刑事事件として扱わないと判断した場合、日本政府はどうすることもできません。



また、代理処罰の場合、日本の法律を適用するわけではありませんので、日本で裁判を行った場合との不均衡が生じ得ます。



たとえば、長野県松本市で貸金業の男性を殺害して現金40万円を奪ったという強盗殺人事件で、ブラジルのサンパウロ州裁判所は、日本の代理処罰要請を受けて、今年9月までに禁固30年の有罪判決を宣告しました。一方で、日本で裁判を受けた共犯者は、無期懲役の判決を言い渡されています」



●「犯罪人の引渡しを可能とする制度環境が不可欠」


今回の判決については、どう見るのだろうか。



「今回の交通事故の判決は、報道によると、社会奉仕活動を1年間行うことで、2年2カ月の禁固刑の執行を猶予する内容ということであり、日本での『執行猶予付き判決』に似た判決といえそうです。



近年、日本では、自動車運転にかかる死傷事故の厳罰化が進んでいることからすると、赤信号を無視して交差点に進入した事故では、被告人に対して実刑判決が言い渡される可能性も大いにあります。日本で裁判を受けた場合と比較して、少し軽いという印象は拭えません」



代理処罰の課題については、どう克服すべきなのだろうか。



「ブラジルは、自国民の引渡しを憲法で禁止している一方で、アメリカ等との間では、例外的に自国民の引渡しを認める条約を結んでいるようです。



国内事件を日本で裁くためには、犯罪人の引渡しを可能とする制度環境が不可欠であるように思います。



一方で、『犯罪人引渡し条約』では、逆に、日本人が外国で犯罪を行った場合の外国への引渡しも相互的に求められるため、難しい問題をはらみます」



中村弁護士はこのように語っていた。


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
中村 勉(なかむら・つとむ)弁護士
東京弁護士会所属。元東京地検特捜部検事。中央大学法学部卒、Columbia Law School卒(フルブライト留学生)、LL.M.(法学修士号)取得。
事務所名:弁護士法人中村国際刑事法律事務所
事務所URL:http://nicd-jiko.com/