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男性目線で描かれる異色のラブコメディ ザック・エフロン主演『恋人まで1%』の挑戦とは?

2015年10月08日 07:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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 『プリティ・ウーマン』や『メリーに首ったけ』など、一昔前まではヒット映画の王道ジャンルだったラブコメディ。近年、日本では大ヒットに繋がる作品が減少し、日本未公開、もしくはDVDスルーとなってしまうケースが増えている。2010年代に入ってからは『ラブ&ドラック』や『ラブ・アゲイン』などの良作も公開されてきたが、今年、ラブコメディには珍しい、男性にこそ共感できるポイントが多く含まれた作品が日本でも公開された。『恋人まで1%』だ。


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 本作の魅力は、まずは何と言っても豪華なキャスト陣の顔ぶれだ。2006年から放送されたディズニー・チャンネルの『ハイスクール・ミュージカル』で主人公トロイ役を演じ、一躍大ブレイクしたザック・エフロンが本作の主人公ジェイソンを演じる。ここ数年は、リー・ダニエルズ監督の『ペーパーボーイ 真夏の引力』でマシュー・マコノヒーやニコール・キッドマンと肩を並べるほどの迫真の演技を見せたり、セス・ローゲンが主演と製作を務め、本国アメリカで大ヒットを記録した『ネイバーズ』では、下ネタ満載のコミカルな演技を披露したりと、かつてのアイドル俳優から脱皮しつつあるザック・エフロン。本作では、主演とともに初のプロデュースも務めている。


 ヒロインのエリー役は、『フライトナイト/恐怖の夜』や『ニード・フォー・スピード』などのハリウッド大作でヒロイン役を務めてきた今注目の女優イモージェン・プーツが演じ、ほかにも、『セッション』でJ・K・シモンズ演じる鬼教官フレッチャーにしごかれる主人公アンドリュー・ニーマン役を務めたマイルズ・テラーや、北米で大ヒットを記録した『クロニクル』で主要キャストを演じたマイケル・B・ジョーダン、2016年に公開されるリドリー・スコット監督の最新作『オデッセイ』にも出演しているマッケンジー・デイヴィスなど、今注目の若手俳優が共演しているのがポイントだ。マイルズ・テラーとマイケル・B・ジョーダンは、日本で10月9日(金)から公開されるリブート版『ファンタスティック・フォー』で再共演していることも話題となっている。


 豪華な若手俳優陣の顔ぶれとともに注目なのが、本作における脚本の面白さだ。女性が共感できるように作られた作品が多いラブコメディだが、本作は三者三様の恋愛観が男性目線で描かれ、男性にこそ共感できるポイントが多く含まれている。一言でいってしまえば、“ニューヨークを舞台に繰り広げられるアラサー男子の恋愛事情”とでもいえるだろうか。


 ザック・エフロン演じる主人公ジェイソンは、恋人を作る気はなく、真剣な付き合いはしない。気軽にセックスが出来る女性と中途半端な付き合いしかしない主義。同僚のダニエル(マイルズ・テラー)も、ジェイソン同様、バーやクラブで知り合った女性との一夜限りの関係を貫いている。親友マイキー(マイケル・B・ジョーダン)は既婚者であり、彼らの中で唯一ちゃんとした女性との付き合い方をしているかと思いきや、妻の浮気が原因で離婚することになってしまう。落ち込むマイキーのために、「彼女を作らず独身でいよう!」と、彼らはシングル同盟を結成する。そんな矢先に、ジェイソンの前に現れるのが、イモージェン・プーツ演じるエリーだ。いつも通りの軽い関係のつもりが、魅力的な彼女にどんどん惹かれていってしまうジェイソン。一方、ダニエルも、女友達としてずっと付き合ってきたチェルシー(マッケンジー・デイヴィス)と一線を越えた関係になってしまう。マイキーは、別れた妻への思いが断ち切れずにいる。シングル同盟を結成した手前、自分たちの恋愛観の変化について、打ち明けることができない3人。本作では、そんな彼らの、男の友情を貫こうとする気持ちと、変化する恋愛観の間で揺れ動く、心の葛藤がテーマになっている。そして、最終的にはそんな彼らの成長物語へと発展していくのである。女性がメインターゲットのラブコメディが男性目線で描かれることにより、男性には共感を呼び、女性には男の本音が垣間見れる内容になった。


 監督を務めたのは本作がデビュー作となるトム・ゴーミカン。最初はお互いのことが好きではないという設定が、従来のラブコメディ映画の定番だったが、ゴーミカン監督はそれは現実味がないと思ったという。「周囲にはそんな映画は作るなと言われたけど、僕はなぜダメなんだ?と思った。その方がよっぽどリアルなのに」と語っているように、誰かと出会って楽しい夜を過ごしたらそのままセックスをするという、現代の若者のリアルな恋愛観が反映されている。その結果、本作にはラブコメディ映画によくあるような既視感はほとんどなくなり、ラブコメディというジャンルにおいて、新しい風を吹き込むことに成功したと言える。なお、ゴーミカンはハリウッドでも注目され、今後、ソニー・ピクチャーズ製作のラブコメディやワーナー・ブラザース製作のアクションコメディなどを製作する予定だという。


 本国アメリカではR指定となった本作。最後に、MTVムービーアワード「ベストシャツレス演技賞」を受賞したザック・エフロンを始め、キャスト陣が体を張って挑んだ下ネタ満載の小ネタも押さえておきたい。本作ではラブコメディでは欠かせないコメディ要素もふんだんに取り入れられている。バイアグラを飲んで勃起が収まらないジェイソンが、排尿するために全裸で便器に向かって垂直にナニを突っ込むシーンや、エリーの誕生日パーティーに誘われたジェイソンが、ビックリするような姿で現れるシーンなどは、まさに『メリーに首ったけ』でキャメロン・ディアスが精液をヘアジェルと間違えて髪につけてしまうあの名シーンを彷彿とさせるのである。エフロン、テラー、ジョーダンの3人が織りなす、掛け合いの妙味にも注目だ。(宮川翔)